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人生一度は、砂漠の真ん中で寝てみたい

チベット・インド旅行記
#17, タクラマカン砂漠


敦煌から広大な砂漠地帯をバスで横断する事40時間以上。
バスは砂漠の町ホータンに辿り着いた。

タクラマカン2

砂漠と聞くとついつい、キャラバンが列をなす砂丘の風景ばかり想像してしまいがちだが、
実際は粘土質の土に覆われた荒野や、切り立った岩山、盆地に残る緑地や、糸のように流れる川など、実に表情豊かな景観にあふれている。

町のバザールには新鮮なフルーツがたくさん並び、ウイグル人の商人たちがタバコをくゆらせながら談笑している。
その脇で水桶に首を突っ込んでせっせと水を飲むアヒルたち。

実にのどかな昼下がりである。

タクラマカン9

せっかくここまで来たのだ、一度でいいから見渡す限りの砂漠の真ん中で寝てみたい。
かねてから人生でやってみたかった事の一つだ。


そんな期待を胸に町のバスターミナルを訪ねてみると、ちょうど地元の旅行会社がタクラマカン砂漠を回るツアーで人を集めていた。

タクラマカン7

旅行会社が持っている四輪駆動のランドクルーザーに、居合わせた外人旅行客と相乗りして砂漠に繰り出すらしい。
しめて150元。(約2250円)

150元といえば結構な大金である。

流石にそんな金は払えないと駄々をこねていると、旅行会社のおっちゃんは、分かった分かったと、ターミナルの隅に停車している車の所に行って、何やらドライバーと交渉を始めた。


待つ事しばらく、戻ってきたおっちゃんはニカっと笑って、
「あそこの中国人旅行者がお前を乗せて、砂漠に連れて行ってくれるとさ」
と胸を張って答えた。

なんて頼りになるおっちゃんだろうと感動していると、すかさず手を差し出すおっちゃん。

「はい、交渉代20元ね」

まぁ、150元に比べたら、20元なんて安いもの。
意気揚々と駐車場の隅のランドクルーザーに声をかけた。


「你好!(ニーハオ)」
「你好!(ニーハオ)」

挨拶もそこそこに車に乗り込む。

タクラマカン 6

中国人の旅行者は、父、母、息子の3人家族で、息子の名前はリーと言った。

運転席にはお父さん、助手席にはお母さん、後部座席には私とリーくん。
ドアをバタンと閉めて、車は街の外へと走り出す。


リーくんはカタコトの英語が喋れる20代半ばくらいの好青年で、遠路はるばるハルピン(中国東北部)から車を運転してここまで来たのだそうだ、すごい体力である。

まさか旅先で小汚い日本人旅行者を拾うとは思っていなかったようで、興奮して矢継ぎ早に質問を浴びせかけてきた。


マザー?(お母さんはいるのか?)
ファザー?(お父さんはいるのか?)
チャイナ グッド?(中国は好きか?)
などなど、

さらに、リーくんはカバンからノートを取り出して、何やらさらさらと書き出した。

「浦饭幽助」
「飞影」
「桑原和真」…。


もしやと思って、両手でピストルのポーズを作って、
「レイガーン!(霊丸)」
と叫ぶと、リーくんしばらく爆笑していた。


リーくんは日本のアニメが(特に幽遊白書)大好きらしい。

タクラマカン8

街を出ることしばらく、ランドクルーザーは今にも砂に埋れてしまいそうな道の上をひたすらに進んでゆく。

右を見ても左を見ても、砂漠、砂漠、砂漠。
地平線の果てには切り立った岩の山脈が蜃気楼のように揺れている。
まさに地の果てまでやって来た、という感じの景色だ。

/////////////////////////

車はやがて、砂地にゴロゴロと岩が転がっている地点で止まった。

バタンとドアを開けて外に出る家族3人、一体何をしてるのか?と見ていると、「来い来い」の合図。
一緒になって外に出た。


みると、地面には小さな石が沢山転がっている。
リーくんたちはそれを一つ一つ拾い、綺麗な石を見つけると袋に入れている。



聞くところによると、石は「マナ石」とか「イースー石」と呼ばれ、良い石は高額で取引されるらしい。
リーくん一家はこの石を拾うために、わざわざハルピンから来たのだそうだ。

リーくん若干目を血走らせながら「サクセス!サクセス!」と呟いている。


結局、人手がいるからと、私も石拾いを手伝うことになった。
せっせと石を拾い、リーくんに見せる。

リーくんが石を見て、「ハオ!(好)」とか「プーハオ!(不好)」といってジャッジ、袋に入れる。
 

砂漠のど真ん中で、炎天下の下せっせと石を拾う4人。
もしやホータンの街で快く私を乗せたのは、この石拾いの為だったのだろうか?と一瞬思った。

タクラマカン8

2時間ほど経っただろうか、くたくたになって車に戻りエンジンをかけるが、何かがおかしい。

お父さんが、エンジンをかけてアクセルを踏んでも、
ヴァーン!ヴァーーン!
と音を立てて、タイヤが空回りしてしまうのである。

慌てて外に出て見ると、長い時間砂漠に停車したせいでタイヤがすっかり砂にめり込んでいる。


みるみるうちに真っ青な顔に変わるリーくん。

ヴァーン!ヴァァァーン!

ちょうどその時、やけくそになったお父さんが踏んだアクセルのせいで、バシャーとリーくんの顔に砂がかかった。


 
さっきまでサクセス、サクセスと上機嫌だった家族はたちまち険悪な雰囲気に変わり、言い争いが始まった。


冷静に考えても、これはかなりヤバい状況のようだ。
誰も来ない砂漠の真ん中で、カピカピのミイラになった4人の姿が脳裏に浮かぶ。


とりあえず、この状況をなんとかしなければならない。
お父さん、車のトランクを開けてスコップを取り出し、私に放って渡した。


これで地面を掘れとの事らしい。

石拾いの次は、穴掘り。
くたくたの体にムチを打ち、タイヤの周りの砂を掘った。


「よし、これくらい掘れば良いだろう」
リーくんは穴を確かめると、トランクから着替えのシャツを取り出し、車の後輪にかませた。
「さぁ、ゆうき!一緒に押すんだ!」


ヴァーン!
ヴァンヴァァァーン!!

タクラマカン5

思いきりアクセルを踏み込むお父さん。
車を押す私たちに、バシャバシャと砂がかかる。

まさか砂漠までやって来て、リポビタンDのCMみたいな事をするとは思わなかった。


リーくんと目を合わし合図を交わす。


「いくぞーっ!」
「ファイトー!」
「イッパーツ!!」

ヴァーーーーン!!


車は砂をまき散らしながら砂を脱出、車道に向かって走り出した。 
慌てて飛び乗るリーくんと私。
九死に一生を得て、ハイテンションでハイタッチした。


//////////////////////////////
 
そうしてあたりがすっかり暗くなる頃、車は目的地らしきところへ到着した。
おそらく雨季の間は河になる場所なのだろう、足元には水分を含んだ泥が広がっている。


「今日はここで寝よう、夕食の支度をしよう」
リーくんが言った。
 
するとお父さんは、トランクからポリタンクを取り出すと私に放って渡した。

これで水を汲んでこいとの事らしい。 

石拾いの次は、穴掘り、その次は水汲み。
しぶしぶ歩き出した。


ところが、行けども行けどもあたりは泥ばかり。
おそらく家族はここに河が流れていると聞いて、水を汲む予定だったのだろう。
残念ながら今は乾季、水はどこにも見つからない。


それでもしばらく歩くと、ようやく窪地に残った泥の水たまりのようなものを見つけた。

恐る恐る近づくと、ブンブンとハエやアブが泥水にたかっている。
げんなりしながらポリタンクに泥水を汲んで持ち帰った。

タクラマカン 10

正直、泥水を飲むのは気が進まなかったが、背に腹は変えられないので、コンロで泥水を沸かし、ジャージャー麺にして4人で食べた。


食事を済ませてしまえば、後はやる事はない。
3人は車で寝る、との事だったので、私は近くの小高い丘に登り、寝袋を敷いて横になった。

 
////////////////////////////////

砂漠に夜がやってくる。
見渡す限りの地平線と、満点の天の川。
 
かねてからやってみたかった、見渡す限りの砂漠のど真ん中で寝る。
という願いは叶った。
 
…のだが、



さっきからお腹の調子がおかしい…。
気分もムカムカする。

どうやら、さっきの泥水とジャージャー麺がさっそく効いてきたらしい…。

その晩は、夜通し吐き気と下痢に悩まされ、満点の星空を堪能するどころでは無かった。

タクラマカン12


翌日、すっかり疲れ果てて無口になった4人を乗せたランドクルーザーは、ホータンの町へ戻ってきた。

大変だった事も、過ぎてしまえば良い思い出かな。
トランクから荷物を下ろし、家族にお礼を言う。

「お父さん、お母さん、リーくん、謝謝!(シェイシェイ)」


するとリーくん、ニカっと笑い手を差し出してきた。
握手かな?と手を差し出したが、どうやら違うようだ。
 

「200元」
「ん?」


「ガソリン代、運賃、ジャージャー麺、合わせて200元、OK?」
リーくん、手のひらを上にして、早く早く、の催促。



まぁね…、
まぁ、そうですよね…。


タダ乗りって訳にはいかないものね、


分かってるよ、
分かってますよ。


…でも一つだけ、良いかな?



200元って…、



ツアーの方が、全然安かったじゃないか〜い!



タクラマカン4

⇨ カシュガル編へ続く



【どこまでも続く砂漠】


タクラマカン13


タクラマカン1


【チベット・インド旅行記】#15,敦煌編はこちら!


【チベット・インド旅行記】#17,カシュガル編はこちら!

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