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大谷選手と水原容疑者について、稲盛和夫の「実学」から考えてみたい

インドネシアでは当然報道されておらず、わたしはネットの日本語のニュースから情報を得ています。

アメリカの検察が聴取内容を公開したことで真相が明らかになり、水原容疑者の悪行にとてもショックを受けました。
大谷選手と水原通訳の関係が本当に理想的に見えていて、それがまやかしだったのかというショックと、なんでこうなったかなというやるせなさです。
たぶん日本人が好きな、「努力、友情、勝利」の方程式に知らず知らずのうちに勝手に当てはめ、裏切られた感が出たのだと思います。

わたしはギャンブルをしないので、ギャンブル依存症の恐ろしさを本当には理解できていませんが、一種の中毒で人間を破壊してしまう、理性も何も効かない状態なのだと解釈しています。
なにしろ紀元前からギャンブル中毒の話はあるのです。インドのニ大叙事詩マハーバーラタの中にある「ナラ王物語」に、王が賭博に狂って国を失う話が出てきます。本来狂う人ではないのに魔人にとりつかれてしまったんです。

また、歴史をたどれば金額規模は様々ながら、会社や人の金を嘘をついて勝手に使い込む事件は繰り返し起きていて、今後も起きるのは間違いないでしょう。というより今この瞬間どこかで発生している可能性だって大いにあります。

そこでわたしが思い出すのは、京セラの創業者であり経営者のなかの経営者、稲盛和夫氏の「実学」です。
わたしが若手の頃、最初に読んだ稲盛さんの本でした。

手元にないので正確な文章を記せないのが残念ですが、わたしが一番驚いたのは、稲盛さんが会社経営の仕組みは性悪説に基づかないといけないと言っていたことです。
性善説と言いそうな方だったから意外でした。

でも内容を理解すればとても納得できるものでした。人間は弱く間違えるものだから、不幸な人間を生み出さないために別の人間が必ず牽制機能としてチェックをする、そういう意味の性悪説だったのです。

もし大谷選手の口座を水原通訳が操作しようとしても誰かが見張っているのが明らかであれば、水原氏は手を出せなかったと思います。
そうなれば、まだ大谷選手と水原通訳の理想的な関係は続けられたかもしれない。結局ギャンブルはしていたでしょうから、別の犯罪を犯していた可能性は残りますが。。

大谷選手は野球に集中したいからお金のことは全部任せるで問題ないし、英語が分からないから口座開設も送金手続きも全部任せるで問題ないです。お金が無くなって気づかないのは疑わしいとか、おかしいとも思いません。
問題はそこではないです。

問題は、任せた人間がちゃんと忠実に義務を果たしているかチェックする別の人間を置かないといけないということなんです。

そして3者で最低年に一回集まり、決算報告を開くということです。ちゃんと見ているからねと明確に分からせることです。

報道された情報から今回のケースを推測すると、大谷選手は代理人のバレロ氏にお金の管理を任せた。バレロ氏は大谷選手の全口座を確認し管理する義務が発生する。そしてバレロ氏の管理が正しいかを第三者の監査人が確認する。その上で3人で確認会を行う。
水原通訳は通訳として参加しても全く問題ない。たぶん参加したでしょう。

第三者の監査人がとても大事で、なるべく過去経緯や人間関係が切り離されていればいるほどよい。バレロ氏や水原氏が以前からの慣習でこうなっているとか、プライベートで中は見せないと言ったとしても、正しいやり方でやってくださいと忖度なくやります。
顔なじみだからとかオーナーだからと言う理由で、身分証を見せずにゲートを通り抜けようとしても、ダメだと止めるガードマンです。

われわれは自分の経験則に基づいて、水原氏は異常だったからとか、バレロ氏はうなるほど金を持っているから不正の心配はないとか、普通ならお金がなくなれば気づくとか、個人に紐づけて状況を判断しようとします。
それは個人の勝手で構いませんが、管理の仕組みは個人の属性や違いとは切り離して、誰が来ても同じ結果になるようにしないといけません。誰が管理しようとアクセスしようと、誰が監査しようと変わらない。これがとても大事なことなんです。

大谷選手は史上稀に見るとんでもないスケールの人間で、すべてを野球に捧げているように見えます。常人が理解できるようなレベルにありません。彼に匹敵する人はこの世にいないのですから、誰1人として理解できる訳がないんです。
でも、そのせいで犯罪者を作ってしまってはどうにもなりません。お金を盗めるところに置いておけば、欲望にかられて盗んでしまう人がどうしても出てくるので、そこは盗めないようにしておいてほしかったです。

最も責任が重いのは犯罪を犯した水原容疑者、次に重いのは義務を怠ったバレロ氏(もし委任契約があれば、大谷選手はバレロ氏の管理責任を追及し損害賠償請求することは可能と思います)、次に重いのはバレロ氏の管理体制の不備を指摘できなかった監査人というのがわたしの意見です。

ただ、わたしは稲盛さんがご存命でコメントを求められたならば、大谷選手にも道義的責任があると言いそうな気がします。
大谷選手本人が望んだことではないと思いますが、あれだけの巨額なお金を動かすビジネスになっているわけなので、彼は経営者でもあるわけです。
自分の社員が不正を働けるような仕組みにして放置してしまった責任は経営者にあるということです。水原通訳は彼の直接の社員ではないにせよ、チームの一員なんですから。
被害者に対しこういうことをいうのは酷ですが、わたしは大谷選手は経営者と思っていますのであえて言わせていただきます。

そして多くのスポーツ選手や個人事業主の方々はこれを他山の石とせず、自分の管理の仕組みを見直していただければと思います。

ここまでが今回言いたいことです。

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ここからは言いたいことと少しずれた話になります。
そうはいうものの、大谷選手の心の強さ、ぶれなさはすさまじいものがあります。わたしは本当に驚き、尊敬の念を禁じえませんでした。

まず一番驚いたのは、二人きりで話をして長年の友人から何とか助けてほしいと言われたときに、はっきりNoと言えたこと。親友を犯罪者にして何十年も牢屋に収監するか、助けてやるかの決断を迫られ、その場で冷徹な判断を下せたということなんです。
彼の家族もよく知っていたでしょうから、彼らが全員不幸になるのかと思うと普通は躊躇してしまいます。

次に代理人を呼び別の通訳も呼び、第三者を交えて後で言った言わないが起きないような状況を作り上げたこと。

野球にすべてをささげ、野球のことしか考えてこなかった人間がとっさにできることではありません。
アメリカ育ちでこういうことに慣れていれば別ですが、日本育ちで日本文化で育ってきた人です。しかも大谷選手は善人にばかり囲まれ善良な人間に育ったような気もします。

何か野球を通じて判断軸や行動軸が養われたのかもしれないと思いましたが、わたしには想像もつきません。
標準的な日本人であれば、ビジネスの厳しい世界を経験して、荒波にもまれてようやく身に着けられるレベルの話と思います。この場面で大谷選手と同じことをとっさにできる日本人は極めて少数じゃないでしょうか。わたしも気が動転するでしょうから全く自信がありません。
仕事とか他人事ならたぶんできるんじゃないかと自分を信じたいですが、今回の件は心から信頼している親友、自分のお金が絡む話なので、かなり動揺したはずです。

過去の関係が素晴らしければ素晴らしいほど、その状況をなんとか続けられないかと考えるのが人間です。現状維持を望むのが人間の本能なのです。
金で解決できるのであれば、なんとか無かったことにして元の美しい世界に戻れないかと考えがちです。そうしてすべてを隠蔽し、内輪だけで隠し通そうとして不正が行われる。自分の欲を満たすためというより仲間を庇おう組織を守ろうとしてやってしまうのです。これが人類の不正の歴史です。

これを瞬時の判断でズバッと断ち切る。超絶的です。

もしかしたらですが、大谷選手は常に野球に集中したいと考えているので、どうすれば野球に集中できるのか、集中できない阻害要因を取り除けるかを基準に、直観力が冴えわたっているかもしれません。
水原氏に加担することは、自分が違法送金に主体的に巻き込まれることになり、そうなれば野球に集中できなくなると考えた可能性はあります。

自分がわからないこと、コントロールできなさそうなことには関わらず、できる人を呼んできて頼むのがよいという考え方をする人なのかもしれません。

やっぱりとんでもなくすごい人なんだなと思いました。すべてにおいて傑出しています。

とりとめのない話になってしまい申し訳ありません。
ショックを消化するために吐き出さずにはいられませんでした。




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