ゲイの自虐癖と、男への苛立ち

最近、同い年のゲイの友人ができた。

きっかけは行きつけのゲイバーで偶然出会ったこと。同い年だけど、まだ飲みに出るようになってようやく1年の僕と違い、学生の頃から飲みに出ていて、店子経験もある彼は、話も上手で完全に飲みの場に馴染んでいた。その時の第一印象で、彼はこういうゲイの社交的な場にも長けている「あっち側の人間」だと思っていたのだが、何度か飲んだり遊んだりするうちに、実は人見知りで発想が自分と同じ陰キャ側の人間ということが分かり、短い期間で急に仲良くなった。

あと、僕にとっては同い年ってところが結構重要なポイント。形式的ではあれど、子どものときに親から言われた「年上の人には礼儀正しくしなさい」の教えが染みついている僕。上の人に、タメ口で喋ったり、無礼なことを言ったりをちょっと遠慮してしまうところがあるので、同い年で本当に上下関係を気にすることなくタメ口で話せて、時にお互いを腐し合うことが出来る間柄というのは、なかなか貴重なのだ。

そんな彼は、とにかく自己肯定感が低い。たぶん、こっちの世界に僕より長くいるので、ゲイ特有の自虐で笑いをとったり、お互いに罵り合うプロレス的なコミュニケーションがすっかり板についているというのもあるとは思う。しかし、マッチングアプリで相手とリアルができそうな流れになったとき、「自分デブでブスですけど大丈夫ですか?」などというメッセージを送るというのは、なかなか重症だと思った。

確かに、失恋と仕事のストレスで1年で20kg太ったらしい彼は、過去の写真を見せてもらったところまったくの別人である。しかし、彼は自分で下げるほど、決してブスではない。話は面白いし、基本的には優しい。(ただあまり主体性がなく、「何する?」「何食べる?」の相談に対して「なんでもいいよ」としか言わないので、それは注意した)自分に自信があるわけではないが、一方で決して自己肯定感が低くもない僕は、とにかく自虐とネガティヴ思考が多い彼の言動をとても不思議に思った。

ただ、後々よく考えてみると、僕は自分にもそういった自虐癖があることに気がついた。
例えばゲイバーで、基本的にリアルやセックスでの失敗エピソードを自虐的に話すのは、ゲイ同士の定番コミュニケーションのひとつなので、まあいいだろう。
しかし、僕は普段から、自分の失敗エピソードや、優れた人に対する妬み嫉みを自虐的に話し、笑いをとるという話法をよく使っている。これは、本当に自分がドジで情けなくダメな人間です、って思ってるわけではなく、簡単に笑いがとれる手段だと知っているからだ。

思えば、昔から褒められたり、持ち上げられることが苦手だった。得意なことがあっても謙虚でいた方が人に好かれるし、「雑魚キャラ」みたいなのを演じて笑いをとった方が、場が丸く収まることが多いのだ。別に嫌々やっている訳ではなく、実際自分を良く見せるよりも、笑いがとれた方が嬉しいし、オイシイと思ってしまう癖があるのも事実。

しかし、その行動が故か、僕は結構ナメられる。お互いに、信頼関係や愛情の下だったり、僕が言う言動があくまでエンタメとしての笑いだと分かった上の相手からなら良い。しかし、僕の自虐を本気に取りマジで不憫がったり、バカにしたりネタにされると、結構腹が立つ。ただ、自分で撒いた種ではあるので、怒るに怒れないというジレンマ。

こういう自虐癖って、ゲイに結構多い気がする。自分を低く見せて笑いをとるって手段は、おそらく男らしくないとか、ナヨナヨしてるとか言ってバカにされてきた経験のあるゲイ達が、いっそのこと自分で自分のことを笑い飛ばそうと生み出してきたライフハックのような気がするのだ。

実際、普段ノンケの社会で生きていると、男って何故か謎に自信満々な奴が多い。自虐とお互いの下げ合いで出来ているゲイのコミュニケーションと違い、ノンケ男のコミュニケーションは、自慢と見栄と虚勢の張り合いと、お互いのヨイショで出来ているように思える。お前、それそもそも全然自慢になってねえし、周りがお膳立てしてやった上での結果だかんな、調子に乗んなよ、と僕はノンケの男に対して思うことが多い。

僕は、ゲイで男が好きなのに、男が嫌いだ。色々矛盾しているが、男を男たらしめているところ、バカなところも可愛いと思う反面、奴らの愚かさに辟易として、本当にイライラすることがある。
僕は昔から、女性と話している方が楽しくて、落ち着くことが多い。僕の自虐癖も、女性と話してるときの方が、少ない気がする。同じエピソードを話しても、「そうなんだ、分かる分かる」と共感と純粋な笑いになることが多いのだ。いや、ゲイだとはいえ、お前も男だろという客観性の欠けた自分がいることも分かっているが、それでも僕の男という生き物に対する複雑な感情は、昔から変わらない。

とにかく、エンタメとしてのゲイの自虐と下げ合いはある程度は楽しいけれど、それがあまりにも染みついてしまうと幸福度はどんどん下がるのではないかと思っている。別に容姿に恵まれていなくたって、社会的に立場が高くなくたって、自分を褒めていいし、自分を好きでいていいのだ。僕も、潜在的にあった自虐癖には気をつけようと思った。

ちなみに、自己肯定感が低い友人の彼、その割に過去に付き合った彼氏や友人にとにかくイケメンが多いことで有名らしく、「なんであんた如きがそんなにイケメンとお近づきになれるのか」との妬みの声がとまらないらしい。僕は誰とも付き合えず、恋愛もさっぱり上手く行く気配がないのに…。…まあ妬み嫉みによる罵り合いは、なくなりそうにないわな。

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