『君たちはどう生きるか』を観た。

 こんにちは、異羽です。
 前々から話題だったスタジオジブリの最新作、『君たちはどう生きるか』の公開日を迎えたので、初回を観てきました。その感想を書き連ねよ〜〜のコーナー。

 まず前提として、今作はプロモーションが昨今のものと比べて非常に少ない点で話題を呼んでいましたね。タイトルとアオサギ(後述)のビジュアルのみが明かされ、あらすじ、キャスト、その他の情報はほとんど伏せられたまま初日を迎える胆力はジブリだからできた戦略なのかなぁと。
 それ故に、感想を語ろうとすると全部がネタバレになってしまうので、これはそういうnoteということになります。
 我欲を述べると、作品の前情報ってのは制作側が明かしているもののみで完結するべきだと思っている節があるので、僕のnoteは観た人に読んでほしい、かも。まぁ自由なんですけれども!

 というわけで、始まり。
以下、ネタバレを多分に含みますよ〜! ついでに考察(思い込み)も多い!

 まず色々語る前に僕なりにこの作品を表現してみる。

 少年の地球儀には、2度と消えない冒険の足跡が残る。

 まずひとつ、ファンタジーであることがとても嬉しかった。『ハウルの動く城』や『猫の恩返し』が好きな僕にとってこの世界観がとても安らかなものに見えた。
 とはいえ主人公である眞人(まひと)に降りかかる現実は残酷なものだった。
 戦時中、幼くして母を火事で亡くし、数年後父親と共に疎開した先で新たな婚約者となった母の妹(ナツコ)と共に暮らすことになる。
 想定12歳程度の少年が胸中で抑えられるほど小さな事件ではない。そこを眞人は、強い人間性でもって静かに納得していく。

 主人公の眞人がとても魅力的に映ったのは、彼が寡黙であるが故に信念があるように見えたからだと僕は思う。
 ジブリ知識が浅い僕の感想なんでアレなんですけど、アシタカ系男子なんだよ、眞人って。
 本来の未熟さを心の強さで封じ込めているところがあって、強さでもあり脆さでもある。そのギャップにやられた。
 アオサギの「母上は生きている」という甘言に付いていく結果とはなったが、それは「母に会いたいから」ではなく「失踪したナツコを見つけなければいけないから」なんだよ。
 でもちゃんと幼いところも持ち合わせていて、疎開先でいびられるとちゃんと殴りかかる。し、それで嫌になって道端の石で側頭部を殴りつけて父親から「学校なんて行かなくていい」という言葉を引き出す。やり口が老獪すぎるけど直情的ではある。
 違う世界(後述)でお世話になったキリコには別れ際抱きついたりもする。彼の幼さは隠れているだけなんだと、少ない描写で思い知らされる。

 序盤はただ寡黙であった眞人にもどんどん表情が増えていく。笑顔こそ少ないものの、アオサギに向ける友情や、ヒミとの別れへの口惜しさは十二分に伝わってきた。
 ヒミは眞人の母の幼き姿であり、当時1年間失踪したその人だったわけだけど、割と序盤で眞人はわかっていたんだろうな。
 ナツコのことを妹と呼んだ時点で、ヒミが母だとわかりつつ冒険を進めていく。そんな中でヒミが囚われたら助けに行くに決まっていて、母への情念が初めて具体的に描かれたのがそこだったのかな。
 崩壊する違う世界の扉の前で、眞人とヒミはそれぞれの場所へ戻ることになる。
 眞人はそれを引き止める。このままじゃあなたは火事で亡くなってしまうからと。
 それをヒミは突っぱねる。こんな子を産めるなら悪いもんじゃないと。

 いけない。電車の中なのに少し泣けてきた。

 ここがヒミの強さ。時間軸がどうのとかは置いといて、違う世界のなかで自分の未来の産物と遭遇して、「悪かないね、自分の人生」と思える精神、強すぎる。だってヒミも14歳ぐらいでしょ恐らく。
 死ぬってわかっててそれでも元の人生に戻る。それは眞人がいるから。僕は泣いた。

 ここいらで違う世界の話を。
 作中では一度ペリカンが「ここは地獄だ」と言及したけど、それはペリカンの所感で地獄寄りの死者の国なのかなぁとか思った。現世のことを「上の世界」と呼んでるし。
 じきに人間として生まれ変わる魂の種であるワラワラが育つ世界。大叔父様が誘われた、バランスの危うい壊れかけの世界。
 そんな不安定な世界だからこそ幼きヒミと眞人は出会えたんだろうし、そこにキリコも居合わせた。

 この映画を観ている最中、僕はずっと『ぼくのなつやすみ』というゲームを思い出していた。
 ぼくという主人公が夏休みの間だけやってきて、人々と交流し、ひとまわり成長して夏休みを終えるというもの。
 僕はこのゲームを"ぼく"という名の夏の子供がその島の絡まった心の糸を解すものだと認識していて、この映画にはそれを感じた。
 違う世界に降り立った眞人によって、ナツコの、ヒミの、キリコの、大叔父様の、アオサギの、そして何より眞人自身の心をとき解し、上の世界へ戻っていく。そんな人の子の物語。

 違う世界は、現世でいう神隠しのようなものらしい。戻ってくると全て忘れてしまう。
 キリコは違う世界で出会う人だが、実は現世で眞人を世話する婆やの一員であり、作中で唯一2度、違う世界に行っているキャラクター。
 眞人が違う世界に降りる際に巻き込まれるが、婆やの姿では出てこない。なにやってんだと思ったらずっと眞人を守ってた。きっとあの世界に眞人が飲み込まれなかったのは、キリコ(現世)が近くにいたからなんだろう。
 婆や達の人数を正確には記憶できていないが、恐らく7人ほどいた。シンデレラの小人達のような立ち位置。
 その中でもキリコは色味が違って、眞人の中のガキの一面を補っていたのかな、と今気づいた。
 あんな褒めといてなんだけど、眞人にも年齢に相応しいガキガキしい一面があって(糊調達の為に米を盗んだり、煙草を賄賂してナイフを調達したり)、でもそれを自ら主張することを厭う自我があるように思える。
 そんな複雑さをキリコが補っているんじゃないかなぁ、と。

 これは定かではない描写の話だからアレなんだけど、序盤で母親が火事に巻き込まれた後眞人は夢の中で母親に助けを求められていたっけね。
 「たすけて」だったか「さよなら」だったか曖昧だけど、幼い頃に眞人に出会ったことを思い出したのであれば、どちらにも説明がつく。
 逆に覚えていないのであればどちらも悲痛の叫びになってしまう。眞人を見ればわかる。深く両親に愛されていたのだろうということが。

 あの時代に対する偏見だけど、父親は息子を厳しく育てていたとこが多いでしょ。なのに時代にそぐわない優しさを父親は持っていて、僕はそこからも眞人を好きになる糸口を掴んだ。
 ここぞというときに愛を発するのではなく、常に行動と言葉に「大事に思っているよ」が発されている。それを眞人は少々煩わしく思っているようだけど、違う世界から帰ってきた眞人はちゃんと気付いて受け入れているのかも。
 母が亡くなったから生まれた寵愛ではなく、ちゃんと父と息子の関わり合いを持っているように僕は見えた。

 父親、僕の記憶が正しければネームドじゃないんですよ。いいキャラだったな。
 婆やたちもキリコ以外は名前がなく、本当に小人のようだった。全員荒地の魔女みたいな見た目だった。

 ワラワラについて話そうか。
 ジブリってあんな完全マスコットな見た目のキャラ、作れたんだ!? まっくろくろすけとか、なんか色々今までいたけどどれも「可愛さは気持ち悪さを併せ持つ」みたいなビジュアルだったのに急にすみっコぐらしみたいなデザインが現れてニマニマしちゃった。
 前述の、人に生まれ変わる前の魂なんですけど、マジで可愛い。可愛いもの見たさに映画館へ走っても得するぐらい可愛い。
 元々たまごみたいな見た目なのに、まん丸に磨きをかけるシーンがあって、それを観てほしい。もうほんと可愛いから。
 直後にペリカンに食われるんですけどね。奴らはそうするしかないから、ワラワラを食う。
 どこにだって弱肉強食というか、食物連鎖は起こるんですね。

 さて、問題のアオサギです。彼についてはなんだろうな、不思議な情念を抱かされている。鳥形態の時はカッコよく、人への変化が始まると途端に気持ち悪くなるあの塩梅、キャラデザが良すぎる。
 なんかジブリ相手にキャラデザとか言ってるのすごい滑稽かも。
 彼はどうして眞人を招いたんだろうね。それこそ大叔父様の血筋だったからなのか。ヒミの息子だと知っていたから、それ故だろうか。
 道中ずっと敵でもなく味方でもない、どちらかというと敵寄りのアクションを眞人に仕掛けていたのに、なぜ眞人はアオサギを友達と呼んだのか。疑問は尽きない。ただ、水先案内人としてあそこまで見合った働きをしてくれる奴もまぁいない。

 先ほど眞人のガキ成分をキリコが担っていると書いたけど、アオサギもまたそうなのかもしれない。悪趣味なクソガキみたいなとこある。母の偽物をあえて眞人に見せたりして、そのリアクションを伺ったりする様が、やり返されてあたふた逃げ惑う様が、クソガキと呼ぶに相応しい。
 そんな勝手で決していい見た目ではないアオサギを、なぜか嫌いになれないんだよな。一緒にいてくれるから。
 単純な話、近くにいてくれる存在には心を傾けずにはいられない。
 親の婚約で振り回されるがままの眞人に行動力を与えたのも、結局アオサギからのちょっかいなのであれば、眞人の活力剤になっていたのだなぁ。

 違う世界にも生活はあって、そこでは人でも食らうインコもいる。なんでインコなのかは僕の頭じゃ理解しきれなかったけど、鳥類が跋扈する違う世界の中であの立ち位置はインコしかいなかったのかもしれない。
 彼らは彼らなりの自治を完成させて、大叔父様から世界の王権を奪おうとしていた。
 なんか上手く言えないけど、こういった関わりに人間同士の争いも重ねられてる気がするんだよな。ちょっとマジで脳が浅いから全然わかんないんだけど!
 眞人たちが現世に帰ってきた時、大挙として押し寄せてきたインコはまるで彼らを祝福するかのように彼らを置いて飛び去っていった。
 あのシーンの綺麗なこと! 色とりどりで、包まれて、「ここがゴールだ」と言わんばかりの大脱走。結局みんな、自由を手に入れたいだけだった。
 違う世界から現世に来て、彼らは自由を手に入れられたのだろうか。

 本当の幸いとは、みたいなテーマは多分含まれてないんだけど、でも僕はラストで感じたな。ナツコを母として受け入れ、そのナツコから生まれた弟を家族として受け入れる眞人。

 決して言葉にはしないものの眞人が自分をよく思ってはいないことを察しているナツコ。それでも愛を傾けるが一度は決壊して強い言葉を吐いてしまったものの、それがきっかけで「お母さん」と呼んでもらえたことに涙を浮かべる彼女の姿。

 何気なく迷い込んだ世界で炎の魔女(便宜上こう呼ぶ)の力を得て違う世界に貢献し、その先で未来の息子に出会うことで自分の末期を知るヒミ。やっぱ何度思い返しても、眞人を自慢の息子と信じて疑わないあの目が僕はとっても大好きだな。

 違う世界に魅了され、長い間違う世界を支え続けた大叔父様。彼についてはわからないことが多すぎてあんまこのnoteでは触れられないけど、でも彼は、世界を託そうとした眞人がちゃんと自分の意思でもって「帰る」と意思表示したことが嬉しかったに違いない。

 幼きヒミと共に違う世界に降り立ち、そこで人の役に立ち続けたキリコ。眞人がヒミの息子であろうとなかろうと、この人は眞人を助けたんだろうな。そんな世話焼きが祟って二度も違う世界に来てしまい、過去と現在で二人して眞人を守ってしまうんだからこれは天性のものですよ。

 自分勝手でありながらも眞人とともに冒険して、憎まれ口の先に悪友としての立場を得たアオサギ。彼もまたインコたちと同じく、違う世界の崩壊によって自由の身になったのかな。
 何かを身につけるっていうのは絆の描写によくあるけど、眞人が射った矢で開いた穴を眞人に塞がせ、そのままにし続けるのはもうこれ絆じゃんね。

 前述の通り、違う世界から現世に戻ると記憶を失うらしい、が、眞人はそうではなかった。違う世界の石のかけらを持ってきてしまったから、しばらく覚えていた様子。でもアオサギ曰く石の力はそんなに強くないとのことだから、最後眞人が東京へ帰る頃にはきっと忘れてしまっているんだろう。
 覚えていられるのは、観ていた僕らだけなのだな。その切なさが、とても大切に思える。

 いやもうほんと、すごくいい作品でした。帰ってから気づいたけど僕、ジブリ作品を映画館で観たの初めてだったかもしれない。
 これまでジブリのほとんどは家で観てた記憶しかない。なんてもったいない、とは思いつつ、家族や友人と話しながら観ていたあの時間も結構好きだったので、違う方向で得をしていたのかも、と飲み込んでみる。
 一回観ただけだから曖昧な記憶からしか書けなかったけど、その一回を思い返すこの時間の満足感たるや、この上ない楽しみですね。

 大事なこと忘れてた。
 『君たちはどう生きるか』が今作中一度だけ出てくる。ヒミが眞人に託すわけだけど、その理由を考えてまた、僕はしみじみと思いに耽ってしまいそうだな。

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