見出し画像

タラス・シェフチェンコ記念ウクライナ国立バレエ(キエフ・バレエ)「くるみ割り人形」at clubhouse 20220309

※このnoteは2022年3月9日(水)21:10からのclubhouseでの発表用メモに加筆修正したものです。clubehouseリンクも貼っておきますので、ご興味を持たれましたらご参加頂ければ嬉しいです。

タラス・シェフチェンコ記念ウクライナ国立バレエ
「くるみ割り人形」全2幕
音楽:P.チャイコフスキー 
原振付:M.プティパ 
振付・演出:V.コフトゥン
クララ:ユリア・モスカレンコ
王子:スタニスラフ・アリシャンスキー
ドロッセルマイヤー:ヴィタリー・ネトルネンコ
ねずみの王様:ヴォロディミール・クツーゾフ/ドミトロ・チェボタル
くるみ割り人形:カテリーナ・チュピナ ほか
管弦楽:ウクライナ国立歌劇場管弦楽団
撮影:2020年11月 ウクライナ国立歌劇場(キエフ・バレエ)
制作:株式会社 光藍社(KORANSHA)

https://note.com/koransha/n/n7aad8e7431cb

今回は、光藍社さんがYouTubeで無料公開なさっているキエフ・バレエ「くるみ割り人形」です。光藍社さんはキエフ・バレエをはじめとしたバレエやクラッシックコンサート公演の企画・製作・運営をなさっています。現在ウクライナ国立歌劇場への義援金の受付もなさっています。

■【字幕説明入り】キエフ・バレエ「くるみ割り人形」全幕

■作品紹介

クラッシック・バレエは19世紀中ごろ、ロシア皇帝の庇護のもと発展しましたので、ウクライナも多くの世界的なバレエダンサーを生んでいる国です。

その首都キエフにあるキエフ・バレエは、タラス・シェフチェンコ記念ウクライナ国立歌劇場に所属するバレエ団で150年の歴史を持っています。ボリショイ劇場バレエ、マリインスキー劇場バレエとともに旧ソ連における三大バレエ団と称されてきました。これらの劇場は日本の劇場とは違い、舞台正面に貴賓席を持つオペラハウスです。

くるみ割り人形は、そのロシア帝国時代の1892年にマリインスキー劇場で初演されたクラッシックバレエです。ホフマン物語の「くるみ割り人形とねずみの王様」をベースにしています。クリスマスのパーティーで、くるみ割り人形をプレゼンとされた少女が、その夜夢の世界を旅する物語です。音楽はチャイコフスキーの作曲。「白鳥の湖」「眠りの森の美女」と並んで3大バレエと呼ばれています。

バレエ「くるみ割り人形」の特長は、ポピュラーで身近で夢がある、と言えると思います。
白鳥の湖、眠りの森の美女と比べても、白鳥に変えられた王女の悲劇でもなく、100年の眠りにつく王女様のおとぎ話でもなく、少女クララのクリスマスの晩の夢の物語です。その物語は楽しくて美しく冒険もあり、ほんの少し不思議、そして夢は覚めてしまいますから、切ない余韻もある。それはみな誰もが自分にひきつけて感じる事ができるものです。それがチャイコフスキーの美しい音楽で彩られて繰り広げられるわけです。
ですから、くるみは年末のクリスマスイベントを楽しみにいくという華やいだ気分で参ります。「クリスマスはやっぱり、くるみ観たいよなー!」という感じです。

■古典を古典として踊る、ウクライナの人々との出会い

バレエは作品があって、各バレエ団がそれを上演しますが、やはりバレエ団によって特長が出ます。この動画を観て印象に残ったのは、「古典を古典として、てらいなく上演できるバレエ団」なんだな、という事です。

古典としての在り方に疑いなく信頼があり、過剰な演出や解釈がなくとも、古典バレエとして存在することの価値があり、それを体現するんだと言っているかのように感じました。

これは一朝一夕にできることではない、ものすごい文化です。

例えば、1幕のクリスマスパーティーの描写、クララやフリッツといった子供達のはしゃぎ様やいたずら、喧嘩、くるみ割り人形とねずみの闘いといった演技です。多くの舞台でそれらは、現代的な説得力やショーとしての面白味を増す為の演出がされていますが、この動画では演技による演出を押さえ、変りにそれらは踊りでしっかりと表現され、品よくまとまっています。

一方でバレエがうまくて(というとおかしいかもしれませんが)見せつけるようではなく、てらいなく美しい踊りが繰り広げられます。

これは技術が高いのは勿論ですが(その技術を獲得するだけの体制を持っている事自体も文化なのですが)、技術だけの問題ではなく、彼らのバレエの歴史と立ち位置があっての事なんだと思うんですね。

冒頭に申し上げた通り、バレエが花開いたのはロシア帝国です。その時作られた作品がクラッシック・バレエな訳で、彼らにとっては、まさに古典を生んだ歴史の先に、今の自分たちがいる訳です。自分たちこそがクラッシック・バレエですから、ひらすらにそれを信じて踊る事ができる。この立ち位置は誰でもが得られるものではありません。

かつ、彼らは国立歌劇場に所属するカンパニーですから、古典を体現する存在として在ることを認められている。その存在の仕方が社会的なコンセンサスを得ている訳です。だからこそ、一層自分たちのバレエへの誇りを持つこともできるのでしょう。

日本にあてはめてみるとその違いが見えてくるのではないでしょうか。

他のカンパニーにはそれぞれまた別の良さがありますが、この動画で感じたキエフ・バレエには、他では得難いものを感じました。そして、ウクライナにはこういう人達、文化がある。唯一無二な貴重なものがそこにはあるんだ、と思いました。

■おまけ・その1 印象に残ったシーン

39:53からの約4分半。1幕の最後、魔法がとけてくるみ割り人形から人間に戻った王子とクララが、魔法の国に旅立つ雪のワルツのシーンです。所謂白いバレエ、雪の群舞が美しいシーンですが、このバージョンでは王子とクララが随分踊ります。他のバージョンではクララや王子が踊っても幻想の世界にワクワクする、という場面なのですが、このバージョンでは、それもありながらも、二人が苦難に立ち向かうようなドラマを思わせます。

1:03:14からの2分と少し。2幕は魔法の国で様々な国の踊りが紹介される楽しい夢のシーン。その中のロシアの人形の踊り。トレパックです。有名な曲なので聴いたことがある方も多いと思います。ダンサー二人が活き活きとして魅力的でとても感じが良い。衣装もとっても可愛い。

■おまけ・その2 バレエの歴史(超概略)

バレエはイタリアで生まれ、フランスで育ち、ロシアで成熟したと言われます。
フランスの太陽王ルイ14世はバレエを愛好し自らも踊り、パリオペラ座の元となる王立アカデミーを創設します。その後フランス革命が起こりバレエ文化は王侯貴族から庶民のものへと移り、1873年オペラ座の火災を機に勢いを失い、バレエの中心はロシアに移ります。
ロシア皇帝はバレエを庇護し、バレエ学校を創設するなどし、フランスから振付家を招きます。ここにおいて19世紀中ごろ、ロシアでクラッシックバレエが生まれます。チャイコフスキーが活躍し、白鳥の湖やくるみ割り人形が生まれたのもこの時代です。
その後ロシアバレエ団はフランスなどへの公演を行い、フランスはバレエを逆輸入することになるのですが、その時ロシアバレエの技術と芸術性の高さに人々は驚いたそうです。

■おまけ・その3 バレエ作品における~版

バレエというのは同じ作品名でも様々な振付や演出の版があります。キエフ・バレエのくるみ割り人形は1989年に初演されたワレリー・コフトゥン版で、日本では目にする機会は少なく、今回の動画はその意味でも希少価値と言えるでしょう。

■おまけ・その4 光藍社さんによるキエフ・バレエ全幕動画

光藍社さんのYouTubeチャネルでは様々なバレエ情報が掲載されていますが、今回ご紹介しましたくるみ割り人形以外にもキエフ・バレエの全幕映像を観る事ができます。
「白鳥の湖」「シンデレラ」「雪の女王」などです。下のリンク一覧にURLを記載しておきます。

■発表後記

clubhouseの本編発表後のコメントタイムで出た話題など、トピックスになるものがあれば、後程追記いたします。

■clubhouse情報

2022年3月9日(水)21:10~21:45(予定)
前説5分+本編(このnote部分)5分+フリートーク30分 

この社会の中で、人がどうやってつながっていけるのか、その可能性を身体、風土、歴史、文化から探っています。無意識の内に人の中に沁み込んでいる世界の見方に出会い、同じく無意識ににじみ出ている何かで人とつながることを体験していきたい。
そういうミュニケーションがこれからはより一層大事と思っています。それは社会のセーフティーネットであり未来を作ります。人間を強く元気にします。
clubhouseでは、ダンス作品や映画などのレビューを通して、それに取り組んでいます。

■関連情報リンク

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?