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【少年小説】「ぼうくうごうから」⑦

〈ぼうくうごうへ行こう〉そう思って茶畑に向かって歩き始めた。
どうしても、そこに行かなければならない…そう感じていた。
理由はわからなかったが…。

自堕落な生活ですっかり太ってしまい、なまっていた体が重かった。

〈チャバラって呼んでたんだよな、茶畑のことは〉

茶畑のことは茶原と呼んでいたことをそのとき思い出した。

〈チャバラへ行こう〉

歩いているうちに、ずっと歩いていなかったチャバラへの道を少しずつ思い出してきた。

足が足の裏が記憶していて、滑らない歩き方を思い出してきた。

それにしても、5歳にもならないうちから、こんな山道を上ってたのかと思うと驚いてしまった。

息が切れて苦しい。
冬が近いのに地面は湿ったとこらがあって気を抜くと滑ったり転んだりしそうだ。

〈自分は思ったよりたくましい子どもだったのかもしれないな〉

思い出すと、幼稚園に行く前からチャバラに通い、
小学校に行く頃は一人で茶摘みにでかけるようになっていたのだ。

ただ小学校4年か5年くらいには父母と祖父母との不和のため、一緒にチャバラの小屋で食べるあの幸せだった昼飯は世界から消えてしまっていた。

それがどれだけの悲しみだったのかを家族は知らないだろう。
ゆきおはやりきれない思いで、それでも過去を思い出そうとしていた。

そんな壊れていく家族の記憶を一つ一つ取り出しながらゆきおは歩いた。


途中父親とよく水を汲んだ沢に出た。

この沢の源流まで行きたかったが、体力が続きそうになかったので、チャバラに行くことを急いだ。

沢の水を少し飲もうとしたが、子どもの頃のように整備されていないので、下におりることが、簡単ではなくなっていた。

林業は衰退して、山道は暗くなっていた。

林業が盛んな頃は、もっと木々の間は整理され、灌木は伐採されていたので明るかったはずだ。今は午前中なのにとても暗く感じる。

おそらく、チャバラは見る影もなく変わり果てていると感じた。
失望は行って確認するまでもないことだった。

それでも、ゆきおはチャバラに行って確認したいと感じていた。
早くチャバラに行こう…沢の水も飲まずにチャバラに急いだ。