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【少年・青年小説 食シリーズ】「東京に食べるためにやってきた②~常連客、行きつけの定食屋に憧れていた頃の話:餃子の王将編1~」

4月に上京したユキオは、少しずつ整っていく部屋に興奮していた。

予備校生ということもあり、最低限の家具しかそろえていない。両親からお金をもらって、オーブントースターや冷蔵庫にカラーボックスなどを買った。

しかし、それでも何もないところから自分で物を買ってそろえることに興奮していた。


茶碗や汁椀などの小さいものは買わず、皿や丼だけを最低限だけ買う。
下着やタオルなどは実家の物を送ってもらったが、
基本的には自分で買った。

思ってもいなかった必需品があり、お金がかかることもわかっていく。

銭湯に行くようになって、シャンプーリンスなどを小さい容器に入れることを覚えた。

その手の便利なグッズが専門店にはたくさんある。
東京にはあらゆるタイプの店があって、探すだけで一日使ってしまうほど、面白くて仕方がなかった。

毎日やることが多くて退屈しなかった。

今日は夕方に初めての餃子の王将に行くことに決めた。

自炊と外食を併用していたが、上京当初は劇画に出てくるような定食を求めてわざと汚そうな店に入っていたことがあった。

常連客行きつけの店に憧れていたこともある。

初めて入った定食屋で頼んだものは納豆定食だった。
しぶい。380円くらいだったか。

上京した予備校生がいちばん安い納豆定食を頼む図、しびれる…
という予定だったが出てきたものが、
そのものずばりの〈パックから出した納豆に茶碗のご飯に味噌汁、漬け物〉。

え? これだけ? 白ネギが少しだけ。
小鉢とか…なんかもうひといき出てこんか?

痩せたじいさんが一人でやっていた。
ご飯もうまいわけでもなく、
味噌汁も〈憧れの定食屋幻想を叩き割る〉【しびあ味】であった。

用意していたお釣りなしの小銭を置いて出た。


そんな失敗がありながら懲りないユキオは、憧れの東京一人暮らし安い行きつけの定食屋を探した。

しかし、やはり値段と満足度は比例することは東京ではよりはっきりする気がした。

野方駅前のきれいな定食屋で食べたものがたいへん美味しかった。

値段は600円はしたので当たり前ではあったが、いかにも定食屋という盛り付けも丼飯も味噌汁も付け合わせも小鉢も、豪華な感じがした。

しかし毎日毎食そんな高いもの食べてたら生活費がすぐなくなる。

自炊も楽しいが、折角の東京なのだ。

安くてうまい定食が食いたい。
そんな自分に訴求力があったのが…
〈誘惑の白線通り〉にある中野駅の「餃子の王将」だったのだ。