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【少年・青年小説 食シリーズ】「東京に食べるためにやってきた④~中野ブロードウェイ地下街、野方商店街編①~」

上京して1か月以上が過ぎた。

ユキオはゴールデンウイーク期間中は予備校も休みだったこともあるが、
中野の街や野方や沼袋などを自転車で走り回ってまちの探索にいそしんでいた。

ユキオが驚いたのは中野のブロードウェイという場所であった。

ここにはあらゆる飲食店や販売店が入っていて、毎日が縁日のようだった。
特に地下のフロアが衝撃的だった。

広いゲームセンターにインベーダーゲームやギャラクシアンなどの古いゲームが20円だった。

5回できるのか。
興奮した。

さらに、地下フロアは西友もあれば、八百屋も魚屋も肉屋もある。
ソフトクリームも売っているし、
地元の祭りよりも出店が多いようなにぎやかさ。

テイクアウトのたこ焼き屋、総菜屋。毎日が祭りだ。
東京に来てよかった…ユキオは思うのだった。

さらに、日々探索にいそしむと…中野の路地の面白さに夢中になった。
飲み屋も多いが、飲食店がたくさんあって楽しかった。
ユキオはオズマガジンや文春B級グルメ関連の本を立ち読みや古本で買ったりして東京の有名飲食店にいつか行ってみたいと思った。

そうそう…古本屋の多さ…それがさらにユキオを有頂天にさせていた。

なんという場所なのだ…東京というところは面白すぎる。

とはいえ、ユキオのツボと同じところに興味をもつ人間ばかりではないことはさすがにユキオにも想像はついた。

高校時代の同郷の友人たちと一緒に遊びにいくと、ほとんどの人間とは志向が違っていることには気づいてはいた。

それは、小学校のころ…まちに数人で遊びに行くと、ユキオは必ず大きな川に行きたくなりみんなを誘った。

それが、あまり反応が良くないので、なんでだろうと思ったことがあったが…まさか、同級生たちが川で遊ぶことにあまり興味がないことを、そのときのユキオは理解していなかったのだ。

ふつうはおもちゃ屋だとか、駄菓子屋だとか、街らしいふだんとは違う刺激を求めるということがよくわからなかったのだ。

ユキオが興味を示す世界はもっと子どもらしくない世界や、自然などであった。

梅林に遊びに行こうと誘っても、周りはあまり乗ってこなかった。
自然豊かな場所で国立公園を勝手につくるとういう遊びも、あまり共感を得られなかった記憶もある。

とにかく、ユキオは商店街、路地、古本屋、雑貨屋、B級グルメ、貸本屋などを探索しては1970年代の東京を探すような日常を送ったりしていた。

そんなある日、野方の商店街に行った。
夕刻の野方商店街も縁日のようで…中野駅とはまた違った活気があり、
ユキオは我を忘れて総菜屋がある細い路地にひしめく人ごみの中を歩き回った。

かき揚げ…40円だって!
たまねぎ、にんじん、春菊、ごぼう、れんこん、さつまいも…安い。

興奮した。西友の3個で120円のコロッケを買ってしまったことを後悔していた。

果物屋にはパイナップルが剥かれた状態で…298円?
なんじゃそりゃ…生のパイナップルが1個そんなやすく買えるのか…
ため息が出る。

お金はあんまり使えない…西友のコロッケは買った…かき揚げを2種買って帰ろう。

ヤキトリやら鳥のモモやら肉屋の総菜にも心を奪われる。
なかなかあかない踏切の音になんだかよそもの的な孤独感が起きる。

しかし、たのしい。
この故郷を離れた感じがくらくらする。

明日は鷺宮に行こう。
野方駅ホームから見える都立家政ってどんな駅なんだろうか…
日永の野方を自転車でアパートに向かった。