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稲葉さんの声が初めて潰れた日。

(※2018年に別のブログで書いたものを、再構成しました)

2017年12月28日、インテックス大阪で行われたFM802主催の音楽フェス『RADIO CRAZY』の会場に僕はいました。目的はもちろん、B’zのステージです。

出番は12時45分。一番大きなZ-STAGEで、まさかのトップバッターです。この年の夏に行われた『ROCK IN JAPAN FES』にB’zが出演したとき、6万人収容のメインステージで入場規制がかかったという話を聞いていた僕は、なにより入場規制を恐れていました。事前にインテックスのキャパを調べるも、なかなか出てこない。怖い。入場規制が怖い。

会場に着いたのは11時でした。開演まで1時間45分。会場では別のステージで“ヤバイTシャツ屋さん”のライブが始まっていました。見たい。けど入場規制が怖い。5秒だけ立ち止まって聞いて、Z-STAGEへ向かいます。すると右手に『グッズ販売エリア』の看板が。B’zもRADIO CRAZYとのコラボグッズ(タオルとリストバンド)が販売しています。欲しい。でも入場規制が怖い。「限定グッズ買ってメルカリで転売するやつが、年末年始にちょうどインフルエンザになりますように…」と呪いをかけながら、グッズ売り場を無視してZ-STAGEへ。もちろんその間にツイッターで「B’z 入場規制」と検索をかけて状況確認は怠りません。

会場内を10分ほど進んだ一番奥に、Z-STAGEはありました。入場規制は…していない!第一段階クリアです。心からホッとして入場…いや、会場小さっ!もちろん、数千人収容できるであろう大きな会場ではあるのですが、いつもドームで米粒大もしくはビジョン越しにしか2人を見ていない僕にとっては、この会場の大きさだけで興奮してしまいます。ただ1人参加で興奮を伝える相手もいないので、1人で鼻息荒くなりながら会場内へ。すると、まだお客さんは1/3くらいで、スペースにも余裕がある様子。スルスルと前へ進むと15列目くらいまで行くことができました。

時間は11時15分。ここでようやく落ち着いて周りを見渡すと…お客さんが若い!通常のB’zのライブだと30代40代が多く、わりと大人の雰囲気が漂っているのですが、今回多かったのは圧倒的に20代!それも20代前半の学生さんぽいグループや、なんなら10代の人もいたのではないでしょうか。この若い人たちが、1時間半後にどんな熱狂ぶりを見せるのか。それを考えただけでもワクワクしました。

人はどんどん増え続け、開演1時間前に後ろを振り返ると、人だらけ!僕がずっと怖がっていた入場規制ですが、実際のところあったかどうかは確認できていません。ただ開演30分くらい前から、Z-STAGEに入りたい人で長蛇の列ができていたとは聞きました。人が入るスペースがほとんどなかったので、少しずつしか入場できなかったのでしょう。

そして、いよいよその時が迫ります。

開演直前。FM802DJの大抜卓人さんがステージに登場。「伝説の目撃者になる準備はできていますかー!?」と会場を何度も煽ります。拳をふりあげて応える客席。これはえらいことになりそう…と思っているあいだにオープニングVTRがスタート。ビジョンに『B’z』の文字が出た瞬間、場内大歓声、というか雄叫び。サポートメンバーがステージに続いて、松本さんが登場。シェーンのドラムからスタートするこの曲は…『声明』!発売されたばかりの最新シングルです。僕にとっては、初めての生『声明』。全力で手拍子を打つその最中、いよいよ稲葉さんが登場!黒いスーツの上下で、白い(薄紫?)シャツに赤い細ネクタイを合わせています。かっこえーなー。

ただ、楽しんでいたのはここまで。

異変はすぐに起こりました。

一番が歌い終わり、すぐに水を飲む稲葉さん。二番に入ると、明らかに声がおかしい。最初はマイクがおかしいのか?割れてるのか?と思いましたが、違いました。さらにギターソロ終わりの大サビで、歌い出しタイミングを間違えるというミスも。普段の稲葉さんからは考えられません。歌うたびに潰れていく声。いわゆるデスボイス状態です。いつの間にか手拍子はやめていました。早く止めた方がいいのでは?これは非常事態です。

しかし、1曲目が終わると同時に2曲目がスタートしました。他のメンバーが強行したわけではなく、元々つながっているアレンジが施されていたのでした。それも曲は『CHAMP』。ニューアルバムの中の1曲ですが、おそらく最も声を張る激しいナンバーです。

いくら途中で水を飲もうが、稲葉さんの喉は回復しませんでした。デスボイス状態のまま歌い続ける稲葉さんを、僕は呆然と眺めていたと思います。もういい。歌わなくて大丈夫…。2曲目を歌い終えた稲葉さんは、すぐにステージの袖へとはけていきました。ザワつく会場。となりで見ていた、初めてB’zのライブを見たであろう若者たちが「なんか声変ちゃうかった?」と心配しています。いや、なんかどころではないんだよ。20年以上ファンやってるけど、こんな声は聞いたことないよ…。再開を待ちわびる客席から、手拍子が発生し、それに合わせてリズムをとるシェーン。しかしスタッフが飛び出してきて、すぐにそれを制止します。そして全員がステージからいったん去りました。

数分後、再びDJの大抜卓人さんがステージへ。会場を落ち着けるように、でも熱は下がらないように配慮されたMCで、場をつなぎます。この後、袖に戻った大抜卓人さんは“ウソのような場面”を目にするのですが、それはまた後ほど。B’zはこの時ドームツアー中。2日後には、2日間のナゴヤドーム公演が控えていました。一体どうするんだろう…?

さらに待つこと数分、メンバーがステージに戻ってきました。稲葉さんの第一声は「ごめんね!」。少しだけ回復したような声に、会場からも笑いが起きます。でも二言目からはまた聞いたことのないガラガラ声に。

「こんな声でごめんね」
「でもこれで帰るのは寂しいし、RADIO CRAZYの初っ端をこんな雰囲気で終わらせるわけにはいかないなと」

え、まだ歌うの?

「こんな声でよかったらもう少し歌ってもいいですか?」
「みんなも一緒に歌ってください!」

そして『ultra soul』のイントロが…。ここで会場の皆が腹をくくったはずです。

「全力で歌おう!」

ライブで大声を出すのはあまり好きではありません。でもこの日だけは違いました。稲葉さんが歌わなくてもいいように、全力で歌いました。そして、サビの歌詞です。

“夢じゃないあれこれも その手でドアを開けましょう”
“祝福が欲しいのなら 悲しみを知り1人で泣きましょう”
“そして輝くウルトラソウル”

どんな現実も受け入れて進む覚悟をうたった歌を、ボロボロのボーカリストが潰れた声を張り上げて歌っている。涙が止まりませんでした。そして奮い立つような会場全体の大合唱。あんなに悲しくて力強いultra soulを聴くことはもうないでしょう。

間奏に入るたび、稲葉さんは手を合わせて身体を折り何度も何度も客席に謝罪を繰り返しました。僕らができるのはそれでも歓声を送り、歌声をあげることでした。ずっと涙は止まりませんでした。

曲が終わり、大歓声に包まれる会場。すると、耳を疑いました。次の曲のイントロが演奏され始めたのです。『BANZAI』でした。稲葉さんの声はボロボロのままでしたが、まったく手を抜きません。さらに僕らは信じられない光景を目の当たりにします。なんと曲のラストでロングシャウトを放ったのです。魂のシャウトでした。地響きのような歓声が会場に鳴り響き、サポートギターの大賀さんはその稲葉さんを指差したあと、拳を胸にドンと当てて「これが魂の歌声だ!」と言わんばかりの顔をしていました。

2曲を終えて、演奏は終了。会場は異様な空気に包まれていました。シェーンが稲葉さんの肩を叩き、退場していきました。稲葉さんは何度も謝りながら

「絶対にリベンジさせてください!」

と話していました。松本さんが去り際にさりげなく稲葉さんをポンと叩き、2人はステージをあとにしました。

これが僕の見たRADIO CRAZYでのB’zです。終演時間は13時10分。中断を含めても、たった25分の出来事でした。

僕はこの25分を忘れないでしょう。

今まで様々な曲で「困難を受け入れ、前に進め」とメッセージしてきた稲葉さん。でも、裏で苦しんでいる姿を僕らに見せたことはありませんでした。ステージの上での稲葉さんはいつも超人的なボーカルと運動量で、僕らを魅了してきました。

でも今回、初めて僕らの前でその“ボロボロの姿”を見せたと思うんです。2日後のドーム公演のことなど関係なく、目の前の観客に対して(それもB’zファンじゃない人もそれなりにいるであろう環境で)、一切手を抜くことなく、文字通り全身全霊のパフォーマンスを見せました。

さらにRADIO CRAZYから2日後、稲葉さんはナゴヤドームのステージに立ち、2日間のライブを完遂したのです。

そのときのMCについてのつぶやきがこちらです。

そして昨日、ステージMCをつとめていた大抜卓人さんのインスタで、中断している間のステージ裏の様子が明かされました。是非ご一読ください。

どうですか?

僕は「やっぱり超人だ…」と半分笑いながら、半分泣きながらこの文章を読みました。「B’zが好きだー!」と心から誇りに思いながら。

長々とした文章を読んでいただきありがとうございました。これからもB’zを追いかけ続けます。

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