Pアイランド顛末記#66

★パニック

 それは、ずいぶん奇妙なパニックだった。脳天ストリートや、大東京通りには、人々が折り重なってたおれている。生き物の声はなにひとつ聞こえず、ただ地面がゆれていた。そのくせ、動揺した気配があたりに充満している。

 轟音とともに建物がくずれはじめた。

 宙に浮いた島の住人の魂は、ただなすすべもなく、自分たちの島と肉体が海のなかに消えていくのを見守るだけだった。

 ステレオボイスブラザースは、マルコムの私邸の入口で白い蝶にであった。復讐を果たすべく、コカインを目一杯キメでやってきたのだった。蝶が目の前を通り過ぎた瞬間、魂が浮かびあがり、鍛えに鍛えた肉体をぬけだしてしまった。二人の魂は、声にならない声で叫んだ。

「返せ!」
「筋肉を返せ!」

 金太郎1号と2号は、大東京通りの上で手を取り合って漂っていた。

「あっちのほうへ行ってみましょう。」

 二人はうれしくて仕方がなかった。

「あたしたち、天使みたい。」

 二人は、テレビ局の方へ漂っていった。
 テレビ局は崩れて、もうすでに海の底だった。マルコムとゲノゲノの三人は呆然と漂っていた。

「なんだこりゃ。どうしたんだ?」

 白い蝶が舞う…。
 二人の金太郎は、呆然と浮かぶ4つの魂を見つけた。

「誰?あれ。」
「ゲノゲノよ。」
「もうひとりは、マルコムね。」
「お下劣なひとたち。」
「もっと遠くへ行きましょう。」
「どこへ?」
「銀河の果て。」

 二人は天をめざして飛んでいった。

 ビリーじいさんは、歓喜のあまり、泣きだしていた。バイクどころか、自分が流れ星になってしまったのだ。ビリーじいさんは、いずことも知れず、ものすごいスピードで飛んでいった。

 ジュンちゃんとマキちゃんは、もうすでに一組の愛らしい星座になって天に浮かんでいた。

 さとしの隣に住むマドリッドの陶芸家、ミゲルの場合には、他の住人達とちょっとばかり様子がちがっていた。ミゲルは、いつものように顕微鏡をのぞきながら、微細な彫刻を超微粒子の粘土に施していた。彼の焼物は顕微鏡的に微細な作品で、超微粒子の粘土にレーザーメスを使って自然の景観を彫刻し、焼き上げるといったもの。彼はあけはなった窓から二郎の蝶が舞い込んで来るのも気づかず、ミクロの彫刻に没頭していた。彼の覗く顕微鏡の下には、微細に彫り込まれたモンセラの聖なる山々の景観がひろがっていた。蝶の燐粉がミゲルの鼻腔に吸いこまれ、彼の頭からぬけでた魂は、ミクロ世界のモンセラの山々にまよいこんで行った。モンスターじみた奇怪な山々の上にコバルトで染め上げたような真っ青な空がひろがっていた。ミゲルは眼がくらんだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?