Pアイランド顛末記#52

★菌糸と卵 

 二郎は培養器のなかからペトリ皿をとりだして、顕微鏡の下に置いた。イオの皮膚からとりだされた「極楽茸」の胞子が育ち、菌糸をはりめぐらしている。顕微鏡のレンズのなかに、きらきらと細い糸が光った。二郎が呟く。

「ふふ。育ってる。きれいだな。」

 ゲンが口をはさんだ。

「おい、いいかげん教えろよ。それ、どうすんだよ。」
「へへ。もうすこし…。もう少したって確実になったら教える。」
「じらすなあ…。もう。」

 サンルームでは、イオがソファで暖かいミルクをすすっている。ヒロシはその様子を見つめている。

「なあ、大丈夫?」
「うん。ほっぺたがちょっとつっぱるけど、平気。」
「なんかさ、土人のまじないみたいだったじゃん。二郎の手つきとか見てるとさ。だから大丈夫かなと思って…。」
「いつだったか、ずっと前、じいちゃんとこに遊びに行ったのよ。そしたら、急に歯が痛くなってさ。そしたら、じいちゃん、おまじないしてやるよって言ったの。凄くよくきくおまじないだって。じいちゃん、あたしのほっぺたを針でつついて、なにか粉みたいなものを擦り込んだの。」
「それがあの胞子ってわけ?」
「たぶん。」
「でもどうしてそんなこと?」
「じいちゃん、多分知っていたのよ。マルコムの奴に眼をつけられるって、おそかれ早かれ、マルコムに捕まるか、殺されるか…。そうなる前に胞子をどこか安全な場所にかくさなきゃいけなかったのよ。」
「そして、その通りになって、殺られてしまった…。」
「かわいそうなじいちゃん。」

 二郎が冷蔵庫のなかからもうひとつのペトリ皿をとりだす。そのなかには、細かい、ちりのような茶褐色の粒が一面にはりついている。そのなかをゲンが覗きこむ。

「なに?それ。」
「ふふふ。これが第二の秘密。」


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