彼女とKと僕

僕の部屋のベッドには、猫がいる。太っていて、大きい。
どれぐらい大きいかというと、高さが2メートルぐらい、ある。
いつもベッドの上にいるから、頭が天井にくっついている。色は白地に黒いぶち。名前はタマ。
タマは僕がこの部屋に引っ越してきたときからずっといる。

不動産屋「この猫は、一応、部屋についてますから、ええ、一応、ただです」

僕「ただですか」

不動産屋「ええ。一応、家賃の中に含まれてますから」

タマは、いつでも、ベッドの上に座っていて動かない。
時々「ぎゃーん」と鳴く。
僕は毎晩、タマの太ったお腹を枕にして寝ている。
タマには蚤がいる。タマは大きいから、蚤も大きい。僕のこぶしぐらいある。毎月第三日曜日には、蚤取りの薬を、ガスマスクをつけて降りかける。タマは迷惑そうな顔をする。

タマのしっぽのあたりに、この間の日曜日、花が咲いた。赤い花で八重桜に似ている。

ときどき、僕と彼女は、タマのお腹の上で、抱きあったりする。気が乗るともっと気持ちのいいこともする。そんな時は、タマも気持ちよさそうにゴロゴロ喉を鳴らす。タマは大きいから、ゴロゴロいう音も大きい。そんなときは、隣の「顔が赤黒いおばさん」が文句を言う。

「ちょいと、おたくの猫の、ごろごろいふ音五月蝿いよ」

それでも僕たちは止まらないし、タマも止まらない。

天気がいい日は、ふとんと一緒にタマを干す。蚤も取れるし、ふかふかになる。太陽にあたると、タマの花も立派に咲いて綺麗だ。今は耳のところにも咲いていてすごくかわいい。タマにはどんな実がなるんだろう。

タマは片目だ。左目しか見えない。右目は鏡になっている。僕は、毎朝ネクタイを結ぶときや、髪をとかすときに、タマの右目の鏡を使う。そんな時タマの左目は不思議そうに僕の顔を見ている。

友人のKは、花屋だ。毎月、第三日曜日にタマに肥料をやりに来る。Kは、タマのお尻の穴に肥料を一掴み押し込むと、決まって自慢のラフレシアの事を話す。Kの家の庭には大きな温室があって、その中に一面巨大なラフレシアが花開いている。

「かっっかわいいんんだ、すっすっすごくく、ラッラッラッラフレシアって」

Kはどもりだ。ラフレシアのことを話すときは、どもった言葉が、まるで歌のように聞こえる。
僕も彼女も、ラフレシアより、タマの方が好きだ。でもラフレシアのことを話すときのKの歌うような言葉も嫌いじゃない。

(了)

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