二〇一六年八月の短歌

野の花の香る小道を自転車でひとこぎごとに遠ざかる東京


しゃくりあげた幼児の涙に嫉妬するまた君みたいに泣けたらいいのに


半夏雨濡れて丸まる青褐の鳩居る窓辺に頬杖つきて


今日君に優しくするのは浮気する夢を見たからコーヒーいかが?


ごうんごうん食器洗浄機の音に閉じこめられる午後三時半


きらきらと揺れる光をよく見れば風に吹かれる蜘蛛の糸なり


隣人の子あやす歌に午睡してまだ見ぬベニスの夢を見ていた


もっと上?上手に背中をかいたげる私の爪痕紅く残して


キンカンがしみてモヒート思い出す友の破顔にハバナ映りて


引き金を引いた青年の叫びが「僕を愛して」と聞こえたあの夜

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