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ドイツ・ミュンヘン在住のフリー編集者、溝口シュテルツ真帆です。コツコツと暮らし、コツコ…

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ドイツ・ミュンヘン在住のフリー編集者、溝口シュテルツ真帆です。コツコツと暮らし、コツコツと書いています。

マガジン

  • 二〇一六年の短歌

    ドイツ暮らしを日記がわりに短歌にしたためました。

  • 二〇一五年の短歌

    ドイツ暮らしを日記がわりに短歌にしたためました。

  • サンティアゴ巡礼記

最近の記事

巡礼13日目〈ビジャフリア~オルニージョス・デル・カミーノ、30.0km〉

和田アキ子と一緒にうどんを食べるという奇妙な夢を見て目覚める。久しぶりの出汁のきいたうどんはとても美味しかったように思うけど、やはり和田アキ子との会話は緊張した(とりあえず無難に天気の話などをして、彼女の機嫌を損ねることなく乗り切った)。 身支度を整えて、ホテル階下のレストランで朝食を食べ、今日も歩き始める。が、昨日の口論後の微妙な気持ちを引きずったままで、いつものようにどんどん小さくなっていく夫の背中に、さらなるいら立ちと寂しさを覚える。道は単調で、人の姿もほとんどない。

    • 巡礼12日目〈ビジャフランカ・モンテス・デ・オカ~ビジャフリア、30.6km〉

      今日は夫と軽い口論になった。彼はもっとはやく先へ進みたい、しかし私の足は限界が近く、これ以上はやく長くは歩けない。それなら私のバックパックをよこせと言うのだ。ぎりぎりと肩に食い込むバックパックがなければどんなに楽かと思うが、「え、いいの?ありがとう!」なんて素直に甘えられる性格をしていたら、ハネムーンにこんなところを選んでいない、と思う。 もともと男性に自分の荷物を持ってもらう女性たちのことを、自分とは別の人種だと見ている節もある。それに、このカミーノは「私たちの道」である

      • 巡礼11日目〈ビジャマヨール・デル・リオ~ビジャフランカ・モンテス・デ・オカ、16.7km〉

        同室の夫婦に別れを告げ、また歩き出す。 ゆったりとした様子の、とても素敵なふたりだったが、最後に奥さんのほうから名を尋ねられ、互いに名前を名乗りあったのもなんだか気持ちがよかった。出会ってすぐに儀礼的に名前を聞くのは当たり前のことだが、別れ際に名を尋ねるのは、「この先の人生においても、あなたに興味がありますよ」というサインに感じられたから(例え2度と会うことはなかったとしても)。彼らの名前は、ゲイリーとジニーだった。 単調な道が続き、ただただ歩き続けることに飽きたせいか、

        • 二〇一六年十二月の短歌

          ゆで卵鍋底を打つこつこつとこつこつとした日々少しさみしい この地では桃はオレンジ色なので桃色を「ももいろ」と、言えない いちにちじゅう毛布にくるまる私たちくたくたになったポトフみたいね 気付いてる? あなたがわたしを褒めるのは髪を下ろしている日だけだと 湯たんぽは準備してくれなくていいあなたの躰じゅうぶん熱い 顎のヒゲ抜けども抜けども生えてくる女であるのに逆らうみたいに 鰺焼けば真白き我が家に「ご飯よ」と母の呼ぶ声響いたみたいで まだ温いおにぎり手渡すそのときは

        巡礼13日目〈ビジャフリア~オルニージョス・デル・カミーノ、30.0km〉

        • 巡礼12日目〈ビジャフランカ・モンテス・デ・オカ~ビジャフリア、30.6km〉

        • 巡礼11日目〈ビジャマヨール・デル・リオ~ビジャフランカ・モンテス・デ・オカ、16.7km〉

        • 二〇一六年十二月の短歌

        マガジン

        • 二〇一六年の短歌
          12本
        • 二〇一五年の短歌
          10本
        • サンティアゴ巡礼記
          14本

        記事

          二〇一六年十一月の短歌

          オーブンのスフレ膨らみ窓の外見れば難民背丸めて行く 彼の焼くホットケーキが香りたつ土曜、秋晴れ、薬缶の蒸気 憂鬱と一緒に放てばくるくると楓の翼果地を目指しおり 黄葉の木々のすきまにちらちらと子らのヤッケはより鮮やかで 「下手でしょう、昔はもっと弾けたのよ」と鍵盤なでれば外は初雪 マフラーに顔をうずめて雪のなかあの人待った冬の故郷よ ふわふわと決して積もらぬ初雪のはかなさ我の卵子にも似て 腹中で精子と卵子が出会うのは都市伝説の類のことなり 十六年ぶりの同窓会メー

          二〇一六年十一月の短歌

          二〇一六年十月の短歌

          夏過ぎしトスカーナの丘ただゆけばこちらへおいでとイトスギ揺れて 足指を壁蝨に喰われし搔痒は焼却したし思い出に似て ささやかな沈黙すてきで「秋だね」の言葉のみ込む駅までの道 目覚めてもまだ夢のなかにいるような窓を開ければ霧のミュンヘン 金曜は彼に逢うかもしれない日虫刺されの痕そっと隠して 東京で育てたプライドTシャツの「TOKYO」の文字的存在 夕暮れにテーブル越しにキスをする若いふたりの細いくびすじ かたわれの死語り慣れし未亡人頬の産毛が金色にひかる 君眠るベ

          二〇一六年十月の短歌

          二〇一六年九月の短歌

          埃舞う小道に落ちた無花果がむんと匂いしトスカーナの夏 さざめきとコルク抜く音響きおり夜に溶けゆく古都ヴェネツィアよ 不機嫌なゴンドラ漕ぎが空仰ぎキャノチェのリボン潮風に舞い 夢だったきれいなジェラートふたすくい小さな私に見せびらかして きゅうくつなジーンズの裾を折り曲げてティレニアの海泡立てる君 革靴をきゅっと鳴らしてイタリアの粋な男が早足で駆け 炎天下日傘の先に鎌首をもたげる蛇の揺れる舌先 コンビニの肉まん恋し欧州のささやかな秋、冬のはじまり 夏はもう行って

          二〇一六年九月の短歌

          二〇一六年八月の短歌

          野の花の香る小道を自転車でひとこぎごとに遠ざかる東京 しゃくりあげた幼児の涙に嫉妬するまた君みたいに泣けたらいいのに 半夏雨濡れて丸まる青褐の鳩居る窓辺に頬杖つきて 今日君に優しくするのは浮気する夢を見たからコーヒーいかが? ごうんごうん食器洗浄機の音に閉じこめられる午後三時半 きらきらと揺れる光をよく見れば風に吹かれる蜘蛛の糸なり 隣人の子あやす歌に午睡してまだ見ぬベニスの夢を見ていた もっと上?上手に背中をかいたげる私の爪痕紅く残して キンカンがしみてモヒ

          二〇一六年八月の短歌

          巡礼10日目〈アソフラ~ビジャマヨール・デル・リオ、33.4km〉

          風邪も治りきっていないのに、33.4kmの行軍。くたびれてくたびれてボロ雑巾みたいだ。 でも今日の巡礼路では、素晴らしい景色に出会った。まっすぐに伸びる道、青々と育った麦畑、そして雪のような綿を降らせるポプラの木々! 陽光のなか静かに雪が舞っているようで、白昼夢とはこのことかと思う。 道中、スペインらしい広大な田園地帯(私には素晴らしい風景に見える)に、「なんて人工的な景色なんだ」「虫がぜんぜんいないじゃないか」なんてブツブツ文句を言っていた夫も言葉を失っていて、自然に手

          巡礼10日目〈アソフラ~ビジャマヨール・デル・リオ、33.4km〉

          巡礼9日目〈ナバレッテ~アソフラ、21.8km〉

          (昨夜、夫は遅くまで同じ宿のドイツ人男性と話し込んでいた。なにやらわけありの人だったようで、夫は彼に50€を貸したというが、そのお金はぜったいに戻ってこないと私は確信している) やってしまった。twitterに「まったく夫がひ弱で困る」なんて書いていたら、その仕返しみたいにまんまと風邪をうつされてしまった。体力勝負の旅の途中だというのに、情けない。 足の痛みはもうほとんどないけれど、加えて、今度はとにかく肩が痛くてたまらない。右肩、左肩、今度は腰にとバックパックの重心を変

          巡礼9日目〈ナバレッテ~アソフラ、21.8km〉

          巡礼8日目〈ビアナ~ナバレッテ、22.4km〉

          昨夜のいびきはすごかった。“発信源”は同室のおじさんのひとりで、そのまるでドリルのような「ドドドドド」といういびきに、部屋中の誰もがいら立ちの声を発していた。そこで登場したのが、なんと私の旦那さまだ! 誰もが爆発寸前ながらも行動を起こすことがなかった、「彼のいびきを止める」というミッションを見事やってのけたのだ(彼の体をつんつんと押して寝返りさせたらしい)。なんてカッコイイんだ! すっかり惚れ直してしまった。 この日の道中は花粉症の症状のせいでずっと調子が悪く、歩き始めて

          巡礼8日目〈ビアナ~ナバレッテ、22.4km〉

          巡礼7日目〈ビジャマヨール・デ・モンハルディン~ビアナ、31.0km〉

          ビアナの町、古ぼけたアルベルゲの二段ベッドの下段に腹這いになって、これを書いている。少し姿勢を変えるたびに、鉄製のベッドがぎしぎしときしむ。 今日は約30kmの行軍だったが、足元のよい道が続いたこともあって、存外楽にここまで到着することができた。筋肉痛や疲れによる耐え難い足の痛みもだいぶ軽くなり、だんだんと長距離を歩ける体になってきているらしい。 道のりがそれほどつらくなかったこともあり、夫とも終始なごやかに過ごせた。私たちはそれほどおしゃべりなほうではないし、無言の時間

          巡礼7日目〈ビジャマヨール・デ・モンハルディン~ビアナ、31.0km〉

          巡礼6日目〈ロルカ~ビジャマヨール・デ・モンハルディン、18.4km〉

          昨夜のビジャマヨール・デ・モンハルディンでは、夫が先に日記を書いているのを待っている間に眠ってしまったので(やっぱりノートは2冊にわけるべきだったかもしれない)、翌日のビアナのアルベルゲでこれを書いている。 ロルカでのお祭り騒ぎは、夫によると午前3時ごろまで続いていたらしい。 朝、荷物を整えて階下に降りて行ったが、宿のスタッフの姿がどこにもない(おそらく二日酔いだろう)。「だからスペイン人は……」なんてぶつぶつと文句を言う夫をなだめながらとりあえず朝食はあきらめ、バカ騒ぎ

          巡礼6日目〈ロルカ~ビジャマヨール・デ・モンハルディン、18.4km〉

          巡礼5日目〈サリキエギ~ロルカ、25.8km〉

          今日私たちは、小さな乾いた町ロルカに宿を取った。気持ちの良い風が吹き込む夜、アルベルゲの2階の共有スペースのテーブルで、これを書いている。 なにかのイベントの最中なのか、外は祭りのような大変な賑わいで、町中の人が広場に集まっているようだ。 風邪っぴきの夫が早々にベッドに入ってしまったので、一人で広場の様子を見物しに出かけたが、住民たちの輪に入る気にもなれず(なにしろ足は棒のようだし!)、楽しそうに笑いながら踊る若いカップルたちをベンチに座ってただ眺めていた。 ふいに「私

          巡礼5日目〈サリキエギ~ロルカ、25.8km〉

          巡礼4日目〈サバルディカ~サリキエギ、20.2km〉

          現在21時。空にはまだ明かりが残っている。アルベルゲの2段ベッドの上段に腹這いになって、窓から入ってくる光でこれを書いているが、そう長くは書けないかもしれない。同室の人たちもみなもうベッドに入っている。下段の夫はもう寝入ったようだ。 最高だった昨夜のアルベルゲを後にしなければならないのはさみしかった。「一期一会」は嫌いな言葉だ。誰かと出会って、その人を好ましく感じて、それなのに互いの人生が今後またクロスすることはないのだと知りながら「さよなら」を言い合うのは、本当につらいも

          巡礼4日目〈サバルディカ~サリキエギ、20.2km〉

          巡礼3日目〈エスピナル~サバルディカ、27.3km〉

          今日出会った人たちについてのメモ。 ひとりめ。 山中をひとり歩いていた年輩の女性。足が悪いらしいが、私たちでも難儀するような山道をゆっくりゆっくり下っている。見れば、オリソンの宿で一緒だった女性ではないか。「(その足で)どうやってこんなに早くここまで?」と驚いて聞くと、ピレネー越えはタクシーを使ったらしい。「私はどうしてもサンティアゴまで行きたいの」と、アメリカ訛りの英語で彼女は強く言った。 (昨夜は消灯の時間に間に合わなかったので、ここからは翌日のアルベルゲにてこれを

          巡礼3日目〈エスピナル~サバルディカ、27.3km〉