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巡礼8日目〈ビアナ~ナバレッテ、22.4km〉

昨夜のいびきはすごかった。“発信源”は同室のおじさんのひとりで、そのまるでドリルのような「ドドドドド」といういびきに、部屋中の誰もがいら立ちの声を発していた。そこで登場したのが、なんと私の旦那さまだ!

誰もが爆発寸前ながらも行動を起こすことがなかった、「彼のいびきを止める」というミッションを見事やってのけたのだ(彼の体をつんつんと押して寝返りさせたらしい)。なんてカッコイイんだ! すっかり惚れ直してしまった。

この日の道中は花粉症の症状のせいでずっと調子が悪く、歩き始めてすぐに「今日はダメだな!」なんて愚痴ってしまう。よって行程は22km地点の町ナバレッテと決め、午後早くには到着した。

途中、気持ちのよい水辺で休憩をしたが、夫が何度も満足気に「ゴージャスなランチだね!」というので笑ってしまった。果物にバゲットに缶詰の魚。品数は多いものの、いつもと大して変わり映えしない内容なのに。私はずっと、鴨南蛮そばが食べたいのだよ、夫よ!

ナバレッテで入ったアルベルゲでの昼寝は最高だった。開け放した窓から爽やかな風が入り、町のざわめきと、時折教会の鐘の音が聞こえてきた。暑くもなく、寒くもない。隣で眠る夫を好きでたまらない気持ちがわいてきて、何度もしがみついてしまった(夫は汗をかいていた)。

しかし、これまでにもいくつものスペインの小さな町や村を通り過ぎてきたが、本当にどこも同じように見えてしまう。崩れそうな石造りの古い教会や家々、さえない商店、バルにレストラン。人々はそんな町の中で、半ばあきらめたような顔をして暮らしている。彼らの夢はいったいどんなものなんだろう?

スペインの失業率は20%前後だと聞く(ドイツは4~5%、日本は3~4%といったところか)。きっとマドリードやバルセロナなどの都市に出て行っても、まともな職を見つけるのは難しいのだろう。この行き詰ったような土地を気楽な旅行者として歩くのは複雑な気分だ。

前日

※夫の手記はハフィントンポストで連載しています。→一番やっかいなのは"アレ"との闘い "元NATO軍中佐"との奇妙な出会い

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