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わたしのたいせつなおしごと

夕飯どうしようかな、冷蔵庫の中何が入ってたっけ、なんて考えて、目の前の白髪頭にはっとする。一瞬のワープ。白髪頭の男は喋り続けている。わたしは話の合間を見計らって相槌を打つ。聞いてますよ、のアピール。

話がつまらない。これって相当な罪だと思う。他人の時間と精神力を奪うのだから、立派な窃盗だ。この男とわたしの間にははっきりした従属関係があるので、「敬う」というポーズが必要だけど、例えば彼が父親だったら、友人だったら、今のように笑顔と呼ばれる何かを顔に貼り付けたりはしない。

この男の罪は、つまらない話をすることではない。自分の話がつまらないことを自覚していないことだ。得意と苦手を把握して己を知り、役割を全うする。それが大人であり、社会人の基本だ。ねぇ、新人の頃にそうやって教えてくれたじゃないですか。相手が飽きているのを察しろ。サラリーマンなんだから空気を読め。雑談の仕方くらい勉強しろ。ねぇねぇ、そうですよね。でも、仕方ないと思っています。偉くなればなるほど、周りが隠そうとするし、関係が近ければ近いほど、見えなくなりますもんね。それに、校長が子供が倒れるまで話をするような国ですから。多くの日本人がつまらない話を聞いていられるように鍛え上げられています。そうです、わたしもです。ああ、またワープしてしまった。合いの手を入れなくては。そうですか、セミナーの講師を頼まれたのですか。お話するのお上手ですもんね。

#エッセイ #ひとりごと

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