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日常

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ただの日記
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旅がわたしに与えるもの

帰省の際の交通手段で空路を選ぶのに躊躇し、陸路を選択した。「あ、錆び付いたな」と思った。何が? わたしの勇気が。 未知の感染症に人類が外出自粛をはじめてからどのくらい経つのか。わたしも例外ではなく、年に2回ほどは必ず旅に出ていたのに、全くしなくなってしまっていた。 前に、旅が楽しいのは出発するまでだと身も蓋もないことを書いたが、では旅に出なくてもいいではないかと言うとそうでもない。たとえ道中が思うほど楽しくなかったとしても、旅に出ること自体がわた

写真はプリントしたほうがいい

 印画紙にプリントした写真は空いたお菓子の箱に入れてしまっている。近頃じゃ写真はデジカメやスマホで撮ってプリントもしないので、きちんとプリントされた状態で残ってるものは新しくても十年前のもの、まさに「昔」だ。たまに箱を開けて昔を懐かしむのが密かな楽しみだ。  子供のころの家族旅行の写真や学生時代の写真に混じって、父方の婆ちゃんの葬式の写真が出てくる。亡くなったのは今から20年近くも前、わたしが社会に出て働くようになった頃だ。  わたしの地元では、葬儀の際、親族で集合写真を

ゴウガイタイム

 ネットオークションに新元号を報じる号外が出品されていた。号外も金で買う時代が来たのか、と驚愕するとともに、自分はこの方法で手に入れることをしたくないなと思った。  4月1日、新元号の発表をわたしは移動中のスマホで確認した。予定より10分ほど遅れて発表された元号は「令和」。あらかじめ予想なんかはしていなかったけど、「昭和」に用いられた「和」という字が入っていたことは意外だった。  「平成」が新しい元号として発表された30年前、わたしはまだ10代で、改元って言ったってピンと

それでもテレビが大好きだ

「テレビ観ないんだよね。テレビから得るものなんて何もない」と友人が言った。アンニュイな伏し目でスマホを弄りながら。 「へえ。そうなんだ」と平静を装いながらも、なんだか馬鹿にされている気分になってしまう。わたしはテレビが大好きだ。  テレビを観ない人を責めるつもりはない。だってそれは人それぞれだから。でも「テレビから得るものなんて何もない」ということばがどうにも引っかかる。  テレビはくだらないと、観てるだけ無駄だと、そう言いたいのだろうか。彼女の言ったことの真意はわから

41歳の別れ

 捨てることに潔いわたしでも、未だに捨てられないものがあった。マンドリンという弦楽器。  中学生だった頃部活でマンドリンをやっていた。自分のが欲しくて父に買ってもらった。大事なものだから進学のために札幌に出てくるときにも連れてきた。それからずっと一緒。でも、仕事で時間の都合がつかないためサークルに所属することもできず、一人暮らしの集合住宅で鳴らすわけにもいかず、最後にはクローゼットの中に仕舞われてしまった。  それっきり、弾くことも処分することもなく20年が経った。  

腕時計はだれのもの?

 仕事中に腕時計が壊れた。  故障ではなく破損だ。ベルトが完全にちぎれてしまった。よくある形の、革製のベルトであればその部分だけ取り替えればいいが、わたしの腕時計はベルトがラバーで、文字盤部分とシームレスで繋がっているので、果たして直してもらえるのかどうかもわからない。がっかりした。修理に出すほど高価いものじゃないけど、とても気に入っていた。  時計を修理に出すとか、新しく買いに行く元気もなくて、翌日から腕時計ナシの生活に突入した。すぐに時刻が確認できないからさぞ不便だろ

歯ブラシがおっくう

 歯ブラシをとりかえるのがめんどくさい。毛先が広がっちゃってても、なんだかおっくうだ。そのままじゃスミズミまでツルツルに磨けないことは歯医者へ通うようになってからはよく理解しているんだけども。  このささやかな「おっくうさ」の裏に何があるのか考えてたどり着いた答えがわたしにはある。それはもう、スーパーで新しい歯ブラシを選ぶときから既に始まっている。  店頭にはいろんな種類の歯ブラシが並んでいる。色や硬さ、ヘッドの大きさや形状まで様々。だけど、わたしは最近機能やデザイン重視

漏れる

 人の悪口を言ったりしないわたしだって、胸の内ではイロイロ思っていることがある。口に出せば他人に悪い印象を与えてしまうし、自分だって嫌な気持ちになる。だけどその日はどうしてもそのまま黙っているということができなかった。  「Tさんの態度、あれナイよね」と同僚にぽつりと言ってしまった。相手はふつうに悪口言っちゃうタイプの人なのですぐ話に乗ってきた。そうそう、あの人すぐ拗ねるんですよねーいい歳して。とか、まわりがどんだけ気を遣っているかわかんないんスかねー。とか。  そんなや

働くことで削られている

 朝、急がなくては会社に遅刻してしまうのに新雪に足をとられて思うように進めない。後ろから誰かが「追い越し」をしたがっている足音がするけど道を譲るほどの広さもない。両側がよけられた雪の山だ。  きっと今、しびれを切らした後ろの人が、無理やり追い越しをかけてきたらわたしは避けられず体がぶつかって派手に倒れるだろう。そして糸が切れたように大声で泣いてしまうだろう。  「会社に行きたくない」という気持ちと「会社に遅刻してまう」という気持ちがぶつかって炸裂してしまうと思った。限界だ

部屋干し野菜

 とても乾燥している。冬だ。肌はパリパリ。夜クリームを丁寧に塗り込んでも朝になるとあちこちつっぱっている。コリャちょうどいいじゃないかと野菜を干すことにする。  干し野菜を始めたきっかけは数年前、専用のネットがついたムックを買って、キュウリを干したことだった。乱切りにして半日干して、油で炒めたら食感がパリパリして、食べることが楽しかった。  キュウリは生の状態でもパリパリしているけど、わたしは生の野菜がそれほど好きではない。体が冷えてしまうからたくさん摂れないのだ。少し前

センパイ病

 「迷子さん、これはどうしたらいいですか?」と後輩が事務仕事のやり方を聞いてきた。  事務の仕事はずいぶん前にその後輩にすべて引き継いだわたしだ。もちろん、やり方がわからないならいつでも聞いてと「その時」には言ったし、実際に教えてもいたんだけど、もう何年も経ってしまった後でこれを言われるのはキツイのだ。その仕事のやり方を忘れたってことじゃなくて、やり方って時を経るごとに少しずつ変わっていくじゃない?処理する道具が変わったり、ルールが変わったりするじゃない?さすがに、変わって

新春初イライラ

 スープをよそい、焼けたソーセージを皿にのせて、ビン詰めのザワークラウトに手をのばす。これを付け合わせにしてソーセージを食べるのだ。  ビンはすぐには開かないだろうけど、まあ頑張ればなんとかなるでしょ。  まず、普通に手で開けてみる。開かない。まあこれは想定内。ならばとゴム手をひっぱってきて再度挑戦。意外と滑ってうまく行かない。困ったな。  もう一度素手で力一杯捻ってみる。開かない。その横で、どんどんスープが冷めていく。  Google先生に聞いてみる。いくつかの方法

イケメンに贈るブルース

 この間、膝を傷めてしまって整形外科にリハビリに通っている。そこのスタッフは年齢層低くて、いわゆるイケメンが多いので困惑してしまう。  まあそろそろ40になる自分の歳を考えれば当然っちゃ当然なんだけど、仕事でもプライベートでも関わる人はほぼ年下になった。しかもイケメンとくりゃなんだか言葉を交わすだけで申し訳なくなってしまう。  イケメン理学療法士が膝を触るわけだよ。気持ち悪い話だけどドキドキしないわけに行かないよね。別に好きになっちゃった訳じゃなくて、単につくりが美しいも

わたしのことを知らない人と話したい

 わたしはいわゆる「人見知り」ではないと思っている。知らない人に話しかけることにはあまり抵抗がない。  わたしが問題なのは、ある人と「見知った」あとである。たぶん、いつもいつも、関係を「築こう」としていないのだ。だからわたしには、友達だと自信を持って言える人がほぼいない。  友達ってなんのために作るのだろうと考えることがある。一緒にどこかへ行くため?助けてもらうため?ならわたしは今のところ、友達を欲する理由というのがほぼない。どこへでもひとりで出掛けていくし、助けてもらう