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意味や実感を伝えるリード文の推敲プロセス【まいまい京都のメソッド公開③】

前回の記事では、リード文のつくりかたを紹介した。完成したリード文を詳しく分析しながら、それぞれの段落にどんな意図があるのかを解説していった。今回は、その一歩手前を扱う。リード文を推敲するプロセスだ。まいまい京都ではどのような方針で推敲するのか、ご紹介しよう。

ファクトだけでは伝わらない

まいまいツアーのリード文は、参加者の視点に立って、ツアーでどんな体験ができるのかを語っている。そのときに重要なのは、そこを実際に訪れた人のリアルな実感だ。もっと具体的にいえば、その場に行くと何が見えるのか、何が聞こえるのか、どんな印象をもつのか。その実感を伝えられると、読者に響くリード文になる。

一般的に、なんらかの文章をまとめるときには、出版物や公式サイトなど「信頼のおける情報源をソースとする」ことが基本とされる。まいまいでも、事実確認はもちろんおこなっているが、じつは、ファクトだけを集めてもよいリード文にはならない。
信頼性の高い情報にあたって、「現在の京都駅ビルは、原広司の設計により、1997年に完成した4代目駅舎です」「中央コンコースは1週間あたり推計約107万人もの方が通行されています」といったといった事実を列挙しても、読む人にとっては「だから何?」という文章にしかならない。その事実への意味づけが大事なのである。

まいまいなら、たとえば、「巨匠建築家・原広司の最高傑作として知られる日本最大級の駅ビル」と建築好きの見方を打ち出す。そして「世界に類を見ない、圧倒的な超巨大コンコース」であると、その価値をあきらかにする。さらに、そこには不思議な舞台があって、8つの「広場」と空中経路があること。「しかもこれが全て開放されてる・・・って、楽しまない手はありません。」というところまで意味づけをして、はじめて価値がでる。
その意味づけには、ガイドさんのユニークな見方を借りることが多い。その見方のおもしろさこそが、まいまいツアーのいちばんの魅力だ。

意味と実感が伝わるリード文へ 推敲プロセス大公開

まいまいでは、ガイドさんと打ち合わせをする担当者がリード文の草案をつくり、それを私を含む別のスタッフが磨いていく。実際どのように推敲していくのか、具体例をお見せしよう。

まいまい東京にこんなコースがある。【王子】都市史研究者と“軍都”王子へ!帝都の一大軍事拠点、旧弾丸工場を拝見~今も残る火薬庫、弾道検査管、旧米陸軍司令部…建築と地形で解き明かす~

担当者がもってきた草案と、最終稿を並べてみると違いがわかる。

データの意味づけをする

このリード文の草案には、このような文言があった。

終戦時には現・北区の1割もの面積を
占めていたという軍関連の広大な土地に、

草案3段落目

この文章は、「現・北区の1割もの面積」という具体的なデータが入っている。ファクトとしては正しいが、これだと「だから何?」という感じが否めない。このデータには「軍事施設が、ある区域のなかに1割もあった」というところに意味があると考え、こう書き換えた。

なんと現区域の1割を占めた
数々の軍事施設。

最終稿3段落目

事実を述べるのではなく、そこから面白みのある意味を取りだす。推敲ではこのような作業を行っている。

引きのある要素にスポットライトをあてる

あるときは、フォーカスする箇所を変えることもある。あらたにリサーチをおこない、その結果変わったのがこちらの1文。

旧米陸軍司令部は市民の憩いの場に!?

草案4段落目最終行

担当者としては、軍の施設がいまは平和な場所に変わっているということを面白く感じてこの一文を盛り込んだようだ。なるほど、とは思いつつも、軍施設が公園になったというストーリーに私はそこまで意外性を感じなかった。それよりも、かつての米陸軍司令部があった建物がいまも残っている、という事実に注目した。

そこで、実際に旧米陸軍司令部がどんな建物なのか、調べてみると意外なことがわかった。ここにさりげなく書いてある「旧米陸軍司令部」とは、真っ白で堂々たる洋風建築だったのだ。

まいまいのリード文の基本原則は、「目に見えるものを描く」ということ。「司令部」「憩いの場」だと抽象度が高くてイメージがしづらいけれど、建物のビジュアルなどその場の情景を描いてみると読者に響きやすい文章になる。そこでこのように書いてみた。

かつて米陸軍司令部が置かれた、
白亜のモダン建築。

最終稿3段落目最終行

魅力的な表現を探す

この建物に価値づけをするために、たんに「白い建物」と表現するのではなく「白亜のモダン建築」とした。

じつは、この何気ない表現に至るまでには、けっこう地道なリサーチがある。まず、私は白い建物を見たとき、「白亜」というキーワードを使えないだろうか、考えた。

そこで「陸軍司令部 白亜」などと検索してみる。すると、いろいろなことが判明する。もともとはこの建物は白くなかったとか、米軍が接収したあとスクラッチタイルを白く塗ったとか。歴史的事実を確認して、これならば「白亜」という表現を使ってもよいだろうと判断して、この言葉を選んだ。

ほかにも、さまざまな事柄を調べて、文章を整えている。

担当者からの草案にはこうあった。

弾丸の速度を測った弾道検査管。

草案第4段落下から2行目

この「弾道検査管」に手ざわり感がないなと思ったので、弾道検査管についてリサーチ。すると、研究所構内に残っていたという事実が確認できた。そこでこう書きかえた。

研究所構内に残された、爆速測定管。

最終稿第4段落上から2行目

測定管が置かれていた風景ごと描いてみた。ぐっとリアリティが感じられるようになったと思う。また、「弾道検査管」だと実感がわきにくかったので、区の公式情報に書いてあった「爆速測定管」という言葉を借りてきた。

推敲したものをガイドさんに見せると、「こうやって表現すると、自分のツアーながらすごく面白く見えますね」という感想をもらうこともある。

リード文を磨く3つのチェックポイント

今回の要点をまとめてみると、以下の3つになる。

●事実をただ提示するだけでなく、その事実がもつ意味を伝えているか?

●読者が実感できるように書かれているか?
 「見えるもの」「聞こえるもの」など体感できるものを書いているか?

●よりエモーショナルな、感情に訴える言葉で表現できているか?

意味や実感を伝えるためには、事実を正しく認識することも大事だ。まずリサーチをして事実確認をしながら、「この表現を採用してもよいか」を見極める。

そのうえで、現場を訪れた感覚を大事にしながら、参加者さんがワクワクするような意味づけをする。読者の心に訴えかけるリード文のためには、理性と感性の両輪が大事なのだ。


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