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一輪の花に向けた優しさ…

行動訓練の時だった・・
真っ直ぐに隊が進むべきところ、何度やっても隊が蛇行する。
先頭の左端を行進している少年の歩調の乱れ、
時々内側に入って来てしまう。
それによって隊全体が右方向に蛇行する形になる。
指揮台の上・また隊の横に付きながら何度か注意をするが改善されない・・・

行進を止めて・・
「全体とまれ!・・注目!」機敏に動く少年たち
「何度も言っているけど、蛇行している!〇〇、お前途中で内側にさ・・」
と先頭左側の少年に言いかけた時、隊の真ん中左側に位置していた少年が・・
「先生、良いですか?多分、〇〇君これを避けて・・」と指を指す…
そこにはアスファルトの割れ目から一輪の花が・・・
「これ避けていたのか?」
「あっ、まぁ、はい…」と照れ臭そうに
「だからかぁ、なんでこっちに寄ってくるんだぁ?と思っていたんだよ」
と中央の少年達
「なるほどね」と口々に
左サイドの少年達は皆それを理解していた様子で
「最初はあれっ?って思ったけど・・・途中でわかって・・」
何だか、その彼の気持ちと、仲間の思いと言うのが、ストレートに伝わって来て‥
それがまた嬉しくて・・らしさを感じたり、ちょっと感激もしたりして・・・
「なんだよ〜言えよ!・・わかっていないの指揮している俺だけ?」
「先生、大丈夫っす!自分らも気が付かなかったっす!」と内側の少年たち!
「そうかぁ〜!えっお前らと一緒?それも嫌だね!」みんなで大爆笑!
最後にもう一本最初からこの花を踏まずに済む位置を通れるように指揮をとり、
同時に花の前を通過する際にみんなで連続号令をかけながら行進し帰寮した!
いつも以上に大きな気合の入った連続号令、表情も最高だった!

帰寮後、集会室に集まり・・・
「さっきすごくホッコリもしたし、お前らも何とも良い雰囲気になったね」
それぞれが良い表情で、不思議とこの集会室の空気も清々しいような気がした。
「あの時、何で言わなかったの?・・ちょっと恥ずかしさみたいな?」
「はい、ちょっと・・・」
「でも、それを自然に口に出来たら素晴らしいよな!見栄も虚勢も張らず、そこから変われる何かを掴めるかもな」
「自分は今日〇〇君のすぐ後ろを行進していて…花の事はすぐわかったんですけど、先生が注意した時に、自分がまっすぐ行けば隊列は乱れないとか思ったんですけど・・もし自分とか、他の人もですけど、それで踏んじゃったら、避けた〇〇君はどう思うかって考えて、〇〇君について行っちゃったて言うか・・」
「あぁ〜自分も同じ感じで・・先生に伝えようかと思ったりもしたんですけど・・」
と左サイドの少年達は皆、同じ感覚であったようでまたそれは嬉しくもあった。
「大切な事は、綺麗なものは綺麗だって言える事、少なくとも、思える事、大切なものは大切に、素直に思い、表現する事だよな・・それを素直に伝えられる勇気もな・・困っている人を助けることは勿論、落ちているゴミ・自転車置き場で倒れている自転車・スーパーの置き去りにされたカゴとかよ、それをそっと片付けたり、直したりする事は、決して恥ずかしい事じゃない、格好悪い事じゃない!
何気なく、黙って片付けたり、直せることが格好良いじゃん!・・
俺は良い事していますよ!ってやたらアピールすのはちょっとなぁ〜…だけど、
男は良いことする時は黙ってやれ!…やたらに「それ俺がやったんだ」とか口にするなって!これ因みに俺の婆ちゃんの教えだ!」
「お婆さん、格好いいですね、そう言うの好きっす!」
皆、ここで妙に納得したように頷いている。
内心、やっぱり自分とコイツら似てる所や同じような感覚があるなぁ〜
と思ったりして!
「娑婆にいた頃は、そう言うのが一番ダサいみたいな感じでしたけど・・
今、そうは思ってなくて、ただまだ、正直、恥ずかしいって言うか・・」
「自分も同じですけど、今日、〇〇君の行動を見て・・あぁ〜って」
「あぁ自分も、今日は良かったなぁって、〇〇君にとっても自分らにとっても…」
沢山の感想や決意のようなものが、明るい表情・雰囲気の中交わされた・・
「行進中の隊は乱れたけど、その結果優しい気持ちでひとつになれたよな・・」
「〇〇、お前、上手いこと言うね!」
「すいやせん!まとめちゃいやした!」
「馬鹿野郎!・・・まとめられちゃいやした‥すいやせん!」(皆爆笑!)
ひとつの優しさ、行動が多くの学びと素直な気持ちを沢山産んだ瞬間だった・・

最初に花を避けた先頭の少年は暴力団構成員で
恐喝・強盗傷害等で入院してきた‥幾つもの少年院を出てきた子だ…
社会では怖がられ、ゴミのように扱われ、避けられてきた子かもしれないが・・・
でも彼の奥底には優しさがたくさん詰まっている。
我々が学ぶべき、本当の優しさ、心、大切なものをたくさん持っている・・
本当はそんな奴らが多いんだ!

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