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張り込み?・・・あんた先生だろ!

教職員の休憩(喫煙)室で先生方とたわいの無い話をしている時・・・

一人の中堅クラスの先生が意気揚々と入って来て・・・タバコに火をつけ

「やりましたよ!パクりました!」

「おぉ、やりましたか!流石、〇〇先生!粘り勝ちですね!」と非常勤講師が

「3日目にしてな!(笑)・・疲れたぁ〜!」

「お疲れ様です!先生の情熱が実ったんですよ、良かったですね」

「うん、アイツら目丸くして、固まっていたよ!」

「でしょうね!ハハハ!」

自慢げにドヤ顔でその時の状況を話す〇〇先生・・・
「で、今どうしてる?」とベテランの先生が・・・

「あぁ〇〇先生(生活指導部)に、引き継いで・・今相談室で事情聴取中です」

「そうか・・・・・・」とベテラン先生・・が浮かぬ顔・・・

なんとなく違和感を感じる・・・

「何があったんですか?」と誰にとなく聞いてみる

「実は、近隣の方から、うちの生徒が△△公園で屯してタバコを吸っていると言う通報があったんですよ、それで公園に張り込んで、タバコを吸った瞬間に“オイっ!”って感じでパクって来ました!」

「張り込み?・・吸うのを待って?」

「はい、現行犯じゃないと停学とかに出来ないじゃ無いですか!バッチリ押さえました!」

「えっ?停学にするために????」
「停学にするためにってわけでは無いですけど・・・」

「いや、タバコは停学でしょ、しかも複数で、公園でなんて・・・」非常勤講師

「ちょっと待ってよ、まるでタチの悪い警察だな・・」

「確かに、張り込んでいる時はちょっと刑事気分だったですね(笑)」

「いいな、今度僕も張り込みしたいな(笑)」
呆れると同時に怒りの様なものが溢れ出て来た・・・

「張り込んで、現認して、パクって、処分して?…で、どこに教育とか指導ってのがあるの?」

「・・・・・・・」黙り込む〇〇先生と非常勤講師
その時、ある一人の教員が喫煙室に勢いよく入って来て・・・
「先生、やったねぇ〜ご苦労さん!」とニコニコ顔で〇〇先生を讃える様に・・
残念ながらこの教員も後輩で〇〇先生よりより近い存在だ・・
なんとなく雰囲気を察したのか・・・「どうしたんですか?」
それには応えずと言うより,ガッカリして言葉が出なかったと言うのが真実!

「あんたならどうする?」とベテラン先生
「いやぁ〜少なくとも停学とか、退学とかが頭に来る(優先される)ことはないというか、その前に、垂れ込みがあって、張り込んで、パクってと言うより、屯している所に行って、“おぉ、お前ら何をしているんだ?”って、“実はよ、うちの生徒がここでタバコを吸っているって情報が入って見に来たんだよ”と言いながらそこにいた生徒たちといろいろな話をするでしょうね、様子見て問いただす事もあるでしょうし、場合によって所持していれば没収したり、ただ、即、停学とか、処分を考える前にその子たちといろいろ話すと思いますけど、
それにその瞬間が何より指導すべき瞬間だと思うし・・・・ダメなのそれじゃ?…よくわかんないけど、先生の腹の中に収めるってのも場合によってはありだと思うけど・・人間教育って数学の様に全て計算で答えが出るもんじゃないでしょ」

黙って頷く〇〇先生、非常勤講師は話を変えようとしているのか他の先生方に色々別の話題を振っている。
勢いよく入ってきた後輩教員は授業があるからと逃げる様に出ていった。
「未然に防ぎ、気付かせることやそう言う会話の中か本当の信頼関係を築くことの方が俺は大切だと思うけど、現行犯…ハイ、停学って、しかもあとは生活指導部にお任せで処分待ち!・・・それがお手柄っておかしいだろ!教師だろ!」後輩という事もあり少し口調も厳しくなっていた様に思う・・・“お前はそういうタイプの人間じゃないだろう”って思いもあった。〇〇先生の普段の応対や部活動の指導を見ていて“良い先生だなぁ〜”と思っていただけに・・・・
「まぁ〜今の学校は色々大変なんですよね・・理想通りにはなかなか・・・」と非常勤講師
「理想を求めて何が悪いの?」カチンと来た!・・・続けて
「それに、張り込みとか、お手柄とか、違うだろう!さっき先生は“情熱”とか言っていたけどさ・・情熱を傾けるのは張込みとかじゃなくて指導とか相談に乗るとか、将来を真剣に考えて一緒に悩むとか、喜ぶとか色々、そんなのに使ったほうがいいんじゃねぇ〜の?」

「・・・・・・」少し沈黙が続いた。

ふと、ある男の事を思い出した・・・
「この際だから、もう少し言わせて貰っていい?」
「はい、お願いします」と〇〇先生
「実は少年院の教官をしている時に出会った少年なんだけどね、ある中等少年院で素行不良で暴れるはなんだでウチ(特別少年院)に移送になって来た奴がいたんだけど、最初は舐められまいとしてか肩で風切って入寮して来た、でもどことなく不安げな雰囲気でもあったんだけど…

厳しく指導すると同時に常に寄り添ったんだよ!前少年院での生活、何が気に入らなかったのかとか、どんな先生が嫌いで、何がムカつくのかとか、最初はカマかけられていると思ったのかなかなか本音は言わない、全部自分が悪い、甘かった、弱かったといい事ばかり口にする。ある時、“オイ!〇〇聞いてくれよ!この間、院長に呼ばれ散々怒られたよ!あの馬鹿院長よ・・”と愚痴って見たんだ!“先生、そんな事俺らに言っちゃって良いんですか?ダメでしょ!ヤバイっしょ!” “なんで?” “いやっ先生でしょ!”“そうだよ!でも俺もお前も同じ人間じゃん、腹が立つ事もあれば・・馬鹿野郎って言いたい時、暴れたくなる時はあるさ!”ただ、どこでどのタイミングで理性とか自分を見つめ直すとかを・・・ってな“

とそんな話をした事が、その日を境に少年は前少年院での出来事や気持ちを正直に本音で話す様になった、全てを否定しないで聞いた、時には同調同感したり・・・そいつのいろいろな面が見えてきて、本当はすごく優しくて、子供好きで、面倒見が良くて、仲間を大切にする・・体がでかく、顔がゴツくて怖いのが玉に瑕って感じだった!(笑)学力も高くて頭も切れる・・・日を増すごとに表情も落ち着いて来て不思議なもので顔も可愛く感じられたりしてね!(笑)・・そいつが出院間近になった時に話がしたい・ちょっとお願いがあるって言うんで窓越しに色々話をしたんだけど・・・出院後、大学検定試験を受けて大学に行きたい、就職が決まった建設会社の社長さんも喜んで協力してくれると言っている、それで出来れば小学校の先生の免許をとって先生になりたい、その為に必要ないろいろな情報を教えて欲しいと言う事だった!
「年少上がりが小学校の先生なんて、無理ですかねぇ〜?」
「難しいかもしれないけど、俺は素晴らしい事だと思うよ!」
「自分がこんな風になったから、余計そうならない様に、先生みたいに認めてくれて、信じてくれて、応援してくれてって、そう言う人間がお前らにはいるんだぞって小学生くらいから感じさせてやりたいんですよ!俺みたいにならない様に・・無理っすかね?」
「俺の小学校の1・2年の担任がある事件に巻き込まれて懲役食らったんだけど、学校の先生には戻れなかったけど専門学校で先生としてやっている。たまたまそこの専門学校生と知り合いで、聞いたら“凄い良い先生で頼りになるし、面白いし、大好きだ”ってそんな話がある・・やってみるのはいい事だと思う!」
希望に満ちたいい顔していたよ!今は実際どうなったのか、何をしているのかはわからないけど、何か子供達のために役に立っていてくれればいいなって思っている・・理想って良い大学出て、なんの問題もなく、世間から見て、良い立場や、職業に就いていても心無い事や小汚ねぇ事をしていたんじゃ・・・ねぇ」

「でも、少年院を出た様な奴が教師ってありえない事ですよね!」と非常勤講師が・・・
思わず怒鳴りそうになった時・・・〇〇先生が・・・
「それは違うよ…先生!・・大事なのはそういう事じゃないよ・・」嬉しかった・・
「〇〇先生、奴らの様子見てくれば・・話が出来れば色々と・・・なっ!」とベテラン先生
は促し、私の肩を2・3回揉み出ていった!

「そうですね!ありがとうございます。ちょっと様子を見てきます!」と〇〇先生も・・
後を追うように非常勤講師の先生も出て行った。

なんだか、物凄く疲れた・・・
「〇〇君、君も確かなんだったか停学になったことあったねぇ〜」と超ベテラン先生
「はい!2年の時に・・・」

「当時とは違うだろう!」
「そうですね・・・あの時は△△先生(先ほどのベテラン先生)やいろんな先生に厳しくやられましたけど、すごい愛情を感じて嬉しかったんですよね!嬉しいって変ですけど」

「うん、“嬉しかった“わかるよ、わかる、我々教師にとってもそう思ってくれる事は喜びだからね!・・・本当の情熱と教育、信頼ってそう言うもんだよ!△△先生も今の君の話は嬉しかったんじゃないかな・・・可愛がっていたからねぇ〜半分パシリみたいだったけど(笑)」

「いや、半分以上パシリでした!怖かったですよねぇ〜△△先生!あと◇◇先生!今じゃ大変なことになっちゃいますよね!、殴る・蹴る・投げ飛ばす・竹刀でなんてのは当たり前、俺締め落とされましたからね!でもあの時から感じていたんですよね、愛情みたいなものを、だからそうされた事をみんな自慢していた、俺は愛されているんだって感じで、殴られ・蹴られ・落とされ・使われ自慢ですよ(笑)」

「ハハハ・・良い時代だったよ」と超ベテラン先生も部屋を後にした・・・

一息ついて、トイレに立った際・・・ちょっと職員室を覗くと、先ほど授業があると出て行った後輩の先生様は自分の机で・・・何やら雑誌を見ていた!「うん?授業は?早いな?」
数日後、練習にグラウンドに向かう途中、体育館横で丸坊主になった3人の停学者と〇〇先生がにこやかに話しながら奉仕作業をしていた・・・
突然、ケツに衝撃が・・・「痛っ!」ベテラン△△先生の膝が飛んできた!
「この間、サンキューなっ!」
「えっ?あぁ・・・」
右手をチョンと上げ・・・去り際に・・・
「何かあったら言えよ・・・できる事は協力するからな・・・」
「はい、ありがとうございます!」(心の声“膝蹴りは余計なんだよ!”でも嬉しかった!)
もうあれから10年以上経っている。
〇〇先生はあの非常勤講師はどうしているだろう?アイツはどうしているだろう少しでも夢に近づけたのだろうか?凶暴な(笑)△△先生達は・・・元気かな?
「お前、今日うち来るか?来いよ!」
「えっ!なんかご馳走してくれるんですか?」
「馬鹿!なんで俺がお前に・・・俺の代わりに孫と遊ぶんだよ!俺は飲んで寝る!」

とか言っていたなぁ・・・そんな会話が嬉しくて、ありがたくて・・

本当に人が心から求めている物って・・大切な物って・・・綺麗事じゃなくて・・心と心で

ぶつかり合って・・そんな学校が・・とか思う今だに教師になりたってどこかで燻っている還暦過ぎた爺いの戯言・・・戯言でも大切だと思うよって・・・・

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