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映画は体験だ 〜川越スカラ座がよすぎて飛んだ〜

『街の上で』の前売券が手元に1枚残っていた。

さて、どこで観ようか。この映画は4月にミニシアターで公開が始まってシネコンに拡大し、また各地のミニシアターで順次公開が始まっている。

とはいえ公開からすでに2ヶ月。公開が終わっていたりまだかかっていても時間が合わなかったりする。それにこんなときだからあまり遠出はできない。

関東の劇場情報をスクロールしながら悩む。それからふと、リストの真ん中あたりで手を止めた。

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川越スカラ座。明治時代に寄席としてその歴史が始まった映画館。ちなみに名画座ではない。その名前は以前から知っていて、いつか行ってみたいと思っていた。行こうと思えばいつでも行ける。でもきっかけがないと行かない街。川越というとそんな距離感である。

きっかけはきっと今だ。やっぱり行ってみよう。

初夏のある暑い日、乗り慣れない電車に揺られ、聞き慣れない名前のバス停を探す。スマホを片手に路地裏を歩く。ひとつ角を曲がるとまるでタイムスリップしたかのような外観の建物が目に飛び込んできた。


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エッッッッッッッッッッモ


気付けばそんな叫びが口から溢れそうだった。時代を感じさせるタイル張りの外観と剥がれかかった「上映中」の文字に心臓の高鳴りを抑えられない。

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このフォント、配色。隣の建物や道端に置かれた植木鉢、電線の影までもがこの風景を味方しているようだ。世界はエモでできている。

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花恋やるんだって(この3本をはしごする人はいるんだろうか、いるんだろうな)。

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「近日上映」の「上」の上半分が欠落している。きみの「上」としてのアイデンティティはどこにいってしまったんだろう。そんなところも好きだよ。

……ってちょっと待って、私が大好きな『くれなずめ』じゃん?
(当日の上映時間以外ノーチェックで現地に乗り込んだ人)(6/26からだそうです)

初めての場所に緊張してしまう性分なので若干おどおどしながら窓口で『街の上で』の前売り券を切ってもらい、無事に荒川青ステッカーをゲットした。『戦場のメリークリスマス』も観たいなと思ったけれど2本観る元気があるかなと迷って一旦保留(※今は上映順が変わっています)。

まだ上映までは少し時間があったので、近くにあるスタバに入ることにした。川越名物「時の鐘」のすぐお隣だ。ここも一度は来てみたかったところ。前に来たときは観光客で行列になっていて諦めたのだ。

川越らしく和のテイストで統一された店内。もともと天井が高くてゆったりした造りだけど、今は隣同士の間隔も広く取られているのでますます広々として見える。外の小さい庭に面した一人掛けの席の雰囲気がよかったのでそこに座った。調子に乗ってカフェラテと荒川さんステッカーの写真を撮る。だんだん晴れてきて少し暑かったけれど、日陰で風が吹くと心地いい。

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まだ映画は観ていないのに、この瞬間も映画を観に行くためだけの時間だと思うとすごくワクワクした。

もちろんショッピングモールに入っているシネコンの大きなスクリーンでも映画は観られる。でも街の片隅に佇む小さな映画館に観に行くのはまた格別な非日常に感じられた。映画館自体は街の生活に溶け込んでいるはずなので、非日常を体験しに行くというのも変な話だけど。

そうしてぼーっとカフェラテを飲んでいる間に映画の時間が迫ってきた。またスカラ座に戻り、私は窓口の前でこう言った。

「戦場のメリークリスマス、1枚ください」

そうだ、それでいい。

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劇場の中に入るとそれはそれは濃厚な映画好きたちの空気が漂う。ミニシアター独特の雰囲気は未だにちょっと気圧される。『街の上で』は若い人ばかりかと思いきや、様々な年代の人が入っていた。『戦メリ』は逆に若い人が多くて意外だった。スクリーンは客席数の割に大きい。

客席は当然、作品と初めましての人も顔なじみの人もお久しぶりの人もごちゃまぜだ。笑いのツボも違うし、泣くほど感動する人もいればすやすやと寝る人もいるだろう。しかし、客席の数が少ないほど1つの空間で時間を共有する仲間のような、戦友のような、不思議な連帯感が生まれてくる気がする。

ゲラゲラ笑うでも泣くでもなく、観客も一緒に映画の中にするりと溶け込んでいくような空気がただただ心地よくて、今日はここで観てよかったなと思った。

ちなみに館内の写真は撮っていない。なんとなくスマホのカメラでは上手に残せそうもなかった。物販のカウンターのガラスケースも、町内会の集会所みたいな待合のソファも、映画の静寂の中で唸り声を上げる空調も、また会いたくなったら私は画面越しではなくこの空間で体験したい。

何より、映画の後に見る景色がこれって最高でしょう?


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映画はスクリーンの前で座っている時間だけではない。観たい作品をやっている映画館を調べたり、チケットを買ったり、電車に乗ったりバスに乗ったり、上映が始まるまでの時間を持て余したり、終わって立ち上がって伸びをしたり、興奮醒めやらない頭でいつもより少し長い距離を歩いたり。全部が映画という体験だ。

インターネットによって世界に他人の言葉が溢れている今、わざわざお金を払い2時間もかけて他人の作ったものを享受するというのは流行らないのかもしれない。私自身、映画が人生を変えると断言できるほどは映画を観ていないし、映画がなかったら生きていけないタイプでもない。

だけど、お金と時間をかけたからこその濃密な、脳が痺れるような感覚を体験できること。それを知っているだけでちょっと得したなと思っている。

別に人生が変わらなくても、映画は楽しいよ。

***

素敵な時間、ありがとうございました。またお邪魔します。

ちなみに、高校生は500円!!!購入したチケットを25歳以下の方にお譲りできるU25という素敵なシステムもあります(すごい)(もうちょっと早く知りたかった)(うらやましい)。

スマートにお譲りできる大人になりたいものです。

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