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やばい、まじやばい! 師匠がカッコつけて峰打ちやったら大変なことになった(Rewrite)

やばい、まじやばいって!
何がやばいって、師匠の峰打ちだよ。
カッコつけて峰打ちやったら、自分で自分をざっくりやってんだから洒落にならない。

事のきっかけは、例によってよくわからない。
どうせ師匠のことだから、空気を読まない冗談で相手を立腹させたとか、借りたカネをすっかり忘れて踏み倒したとかの揉め事だろう。
うちの師匠は性格も私生活もめちゃくちゃだからな。
相手がどう思うかなんてちっとも気にならない。
だから、本人的には”預かり知らぬところ”で、どんどん遺恨を作り出している。

ちょうど朝の稽古が終わった頃だった。
俺は一人居残りで道場の掃除をしていた。
兄弟子達と五番勝負をしたら、全戦全敗。実力差ありすぎで、こてんぱんに負けた。
居残り掃除は負けた罰みたいなもんだ。

そんなところに、怒りの形相で道場に憤然と現れたのが、勘定方組頭の井上朔之進。
1500石というけっこうな家禄をもらう上士様だ。
井上さんは、俺が止める間もなく道場にずかずか入って来ると、俺の掃除をぼんやり見ていた師匠に「果たし状」を叩きつけた。

普通そんな「果たし状」とか受け取らないだろう。
まして師匠は道場主だからな。果たし合いとかやらせない側、止める側にならなきゃいけないはずだよな。

それが師匠ときたら、果たし状をざっくり見るなり、「受けて立とう」とかぬかした。
で、「じゃあ、吉之助、お前が立ち会え」と俺を立会人に指名。
「井上殿、では早速始めよう」といきなりの果たし合い開始宣言。

井上さんは、今すぐやるなんて思ってなくて驚愕してたけど、師匠はもう頭に鉢巻をぐりぐり巻いて、やる気満々で刀選びを始めてた。

「よっよかろう、ここでやろう」
井上さんもさすが武士だ。腹を括った。

道場の中央で両者が向き合うと、二人とも一気に抜刀。
もうこれで後に引けなくなった。文字とおりの「真剣勝負」だ。
俺にとっては生まれて初めて見る真剣勝負。と思ったら、師匠はくるっと刀を回して逆刃にした。
峰打ちで勝負するということだ。

「吉田殿(師匠のことね)、拙者を侮っているのか?」
それを見て井上さんは顔を真赤にして怒ったよ。
師匠は涼しい顔だ。

師匠は得意の上段の構え。井上さんは刀を斜に構えた。
間合いをつめるやいなや、おもむろに師匠は更に大きく振りかぶると「キエー」と気合の大絶叫・・・と同時に、その場にうずくまっちゃったよ。

峰打ちで逆刃にしてたのすっかり忘れてたんだろうな。
ふりかぶった逆刃で自分の頭頂部をざっくりやっちゃってた。

師匠は左手で頭頂部を押さえて、身体をぷるぷるさせてる・・・ 
なんかすっげー痛いみたい。

士(もののふ)のくせに、めちゃ痛がってる。

すごく気の毒な状態なんだけど、間抜け過ぎる。うちの師匠。
井上さんは下を向いちゃって、必死に笑いこらえてるし。

「しっ師匠、峰打ちとかやめて普通に戦ってぐだざい・・・」
俺もそれだけ言うのが精一杯。

井上さんは果たし合いを続けるかどうかすごく困った顔でしきりに立会人の俺を見るんだけど・・・ 師匠は頭ざっくりやっちゃてるから、明らかに戦闘不能なんだよな。

ひどく苦しむ師匠を気の毒がった井上さんが「この勝負、とりあえず無かったことにしましょう」って帰ってくれなかったら、師匠は失血死してたろうな。
カッコつけて峰打やって、あやうく死ぬところだったよ。師匠。

峰打ちだけは絶対やらない方がいいよ。逆刃ってあれ絶対危ないから。
いやー、今回はいい勉強になった。

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