見出し画像

やばい、まじやばい! 俺は歳を取るスピードが超遅い一族だった

やばい、まじやばい!
何がやばいって、俺って歳を取るスピードが超遅い一族の末裔だった。

昨日の夜、親父とお袋が俺のアパートに突然やって来て、真面目な顔で話があるっていうんだよ。
お前も20歳になったことだし、この際、言っておくことがあるって。

このパターンって、ドラマなら絶対「実は血の繋がった親子じゃないんだ。これまで黙っててゴメン!」って流れだよな。
俺もてっきりそれだと思ったわけよ。

だって、ずっとなんか変だと思ってたんだよ。実は。
俺は親父が19,お袋の16が時の子だって聞かされて育ったんだけど、俺には、親父とお袋が今より若い頃の記憶がないんだよ。

で、親父たちが話しだしたのは、俺たちが実の親子じゃないとかそんな話じゃ全然なくて、俺たちがとんでもない長寿の家系だってことだった。

ハダカデバネズミっているだろ? 
体に毛が全然なくて、前歯が出てるヘンテコなネズミ。
普通2~3年でネズミって死んじゃうじゃん。ハダカデバネズミは30年以上は生きるんだよ。
老化しないし、癌にもならない。痛みも感じないみたいだし、無酸素状態でも生き延びちゃう。

その人間版が俺の一族らしい。
老化しないし、癌にもならない。というか、病気にそもそもならない。やたら丈夫。
俺も親父もお袋も風邪一つ引いたことがない。
普通の人間の10倍も生きるのはさすがに無理みたいけど、事故、疫病、戦争とかで死ななければ、500年ぐらいは軽く生きちゃうらしい。

昭和58年生まれで、39歳だと思ってた親父は、天保5年(1834年)生まれの188歳。え?
昭和年62年生まれで35歳だと思ってたお袋は、実は親父より年上の寛政9年(1799年)生まれの223歳。
なんだよそれ。いったい何歳サバ読んでだよ。お袋。

親父の方は、土方歳三、福沢諭吉、岩崎弥太郎なんてのがタメで、このうち土方歳三とはダチだったってのが自慢。
維新の時に、流山から函館までずっと案内したのが実は親父だったそうだ。
親父が土方歳三と肩組んで写ってる写真を何枚か見せてくれたよ。
(俺はそれでようやく親父の話を信じたよ。)

お袋の方は、勝海舟とその親父の小吉の両方を助けたというのが自慢。
小吉が旅の途中で崖から落ちて、片方の金玉を潰して、ほとんど死にかけていたのを助けたのがお袋だし、勝海舟がガキの頃に犬に片方の金玉を食いちぎられた時も、お袋が助けたらしい。
(小吉を助けた経験が役にたったそうだ。)
お袋がいなかったら、江戸城の無血開城はなかったんだろうな。
(お袋も勝海舟と並んで笑って写ってる写真を見せてくれた。)

ちなみに、一昨年、交通事故で死んだ爺ちゃんも、享年68歳だったというのは当然大嘘で、元和8年(1622年)生まれの398歳だったそうだ。爺ちゃんは、215歳の時、大阪で大塩平八郎の乱に参加したのがやんちゃ自慢だったそうだ。なんだよ、それ。

俺たち一族ってのは、大昔から「山の民」と呼ばれてた”自由の民”で、ずっと誰の支配も受けないで、山の中を移動しながら、自由に暮らしてきたんだそうだ。
民族学者の柳田國男って先生が、俺たち一族を取り上げたことがあったらしいけど、一般にはまったく知られてない。
だって、教科書なんかには一切出て来ないからな。
国の統治を受けない自由な民が存在しているなんて、国にとってはすごく都合が悪いよな。

「山の民」と呼ばれた俺たち一族は、明治以降、戸籍と定住を強制されて、自然消滅したってのが通説らしい。
でも、実際には、山を降りて、都市部のディープなところに入り込んで、無戸籍のまま自由気ままに暮らしてきたそうだ。
免許でも銀行口座でも、必要があれば戸籍だって買えるから、どうにでもなったんだそうだ。
(今の戸籍は、俺が生まれてから買ったものなんだそうだ。)

ただ、この前の大戦では、都市部に集中して住んでいたことが裏目に出て、2000人はいた俺たち一族は、空襲でほとんどが死んでしまったそうだ。
結局、生き残ったのは俺んちを含めて数家族だけになったそうだ。

で、それ以来、俺たち一族はちっとも数が増えてないって親父が言ってた。
やたら長生きのくせに、やたら繁殖力が弱いというのが、俺たち一族の唯一の弱点なんだそうだ。

一族の女性の生理周期が約30年なのと、男性側も生殖能力が低いのもあって、100年に一人子供ができればラッキーなんだそうだ。
戦後、一族に生まれた子供はわずか2人だけで、1人が俺で、もう1人は女の子で(と言っても60代だそうだ。見た目は多分まだ20代そこそこなんだろうけど)、今は家族とチェンマイあたりに住んでいるらしい。

これからマイナンバーの普及が進むから、嘘の戸籍も住民票も通用しなくなるだろうって親父たちは言ってた。
カネの流れもしっかり把握されてしまうから、”自由の民”には生きにくい世の中になりそうだ。
でも、親父たちは、それ以上に、国に俺たちの存在を捕捉されたら、俺たち一族が歳を取らないことがじきばれてしまうことをすごく心配してた。
ばれたら、国の研究機関のモルモットにされる可能性が大だからな。

親父たちは、一族の他の家族と同じように、日本を脱出して、戸籍制度とか住民票制度の無い緩い国に移住することにしたそうだ。
そろそろ居場所と仕事を変えないと、周囲に歳を取らないことを怪しまれるってのもあるけど、やっぱマイナンバーがこの先心配だからって言ってた。

帰り際に、あとはお前の好きに生きろって、親父から現金2000万円を渡されたよ。
大学はあと2年残っているから、どうするかは卒業までにじっくり考えろって言われた。

でも、俺の心は決まった。

俺も”自由の民”の末裔だ。

逃げるぞ!


この記事が参加している募集

#スキしてみて

523,364件

よろしければサポートよろしくお願いいたします。