見出し画像

やばい、まじやばい! 透明人間実現まであと一歩のところまで来た! 



やばい、まじやばい!
何がやばいって、念願の透明人間の実現まであと一歩のところまできている。
思えばここまで苦難の20年だった。

透明人間の理論は案外単純だ。
だからオレも最初はナメていた。

原理的には次の3つしかない。
・身体の光の屈折率を空気と同じにする
・光学迷彩を使って背景の画像を身体に投影する
・空間歪曲を利用して周囲の光の進路を変える

たったこの3つだけだ。単純だろ?

SFの世界だとだいたい光の屈折率を空気と同じにする方法を取っている。
だからオレはまずその実現化に取り組んだ。
要は特殊な放射線を照射するとか特殊な薬剤を使うとかで、身体の全細胞の光の屈折率を空気と同じになるようにすればいいだけだ。

オレは放射線技師の資格を持っていないので、薬剤一択だった。
で、10年ちょっとで透明効果が6時間程度持続する薬剤はできた。
なにせオレは天才だからな。

もちろん一定の副作用はあった。
静脈注射で一気に全身に薬剤を行きわたらせると、たちまち全身が発疹だらけになる。そして、バイ◯グラを飲んだ時みたくチ◯コが痛いくらいに勃起してしまう。
まるででっかいチ◯コを持ったイボガエルみたいになる。

でも身体が透明になれば、発疹も勃起チ◯コも見えなくなるので、副作用はそんな大した問題じゃない。

だけど、実際に透明人間になって(全裸で)戸外を歩いたりする実証実験を重ねてみると、想定してなかった問題があることがわかった。

問題の1つが、勃起した透明チ◯コはすごく怪我しやすいということだ。

オレは基本日常生活は裸族なので、素っ裸で生活するスペシャリストみたいなもんなんだけど、そんなスペシャリストをもってしても戸外を素っ裸でチ◯コを勃起させて歩き回るのは実に危険な行為だった。

透明だから、勃起した状態のチ◯コが身体からどの程度つき出ているかがわからない。
オレみたく普通サイズでも(多分)、どんなに気をつけているつもりでも、ふと気づくとチ◯コの先が何かに触れてたりする。

だから、ふとした拍子でコンクリの壁でチ◯コの先をこすってしまったり、生け垣にチ◯コを突っ込んで傷つけてしまったり、開け閉めするドアにチ◯コの先をぶつけたしまったり・・・
むき出しの勃起した透明チ◯コはすごく危ない。

あと、玉袋の方も問題だ。
玉袋の皮って外気温で縮んだり伸びたりするからな。
自分のが今どういう状態なのか見えないから危なくてしょうがない。
一度、公園の遊具の隙間に玉袋の皮が挟まってしまって、地獄の苦しみを味わった。 
玉袋の皮がいったいどういうふうに挟まってるかも見えないから、遊具から取るのも大変だった。

そしてもう一つ問題だったのが、消化器官に入っている消化過程の食べ物、排泄物をどうするか。
身体が透明でも消化過程の食べ物やう◯こは丸見えだからね。

もちろん食べ物の透明化は試みた。
薬と同じ成分を食べ物に注入して化学反応させればいいだけの話なんだけど、薬を食べ物全体に均等にいきわたらせる必要がある。

肉や野菜といった個々の食材を透明化するのは、それぞれの特性があまりにも違うので無理だった。
結局、薬剤といっしょに食べ物をミキサーに入れて撹拌する以外に良い手がない。

腹の中に入っちゃえば同じかもしれないけど、ご飯、納豆、アジの開き、大根おろし、豆腐の味噌汁、漬物を一緒くたにミキサーでかき回してうまいものができるわけがない。
さんざん試行錯誤を繰りした結果、ドリンクタイプの置き換えダイエット食かプロテインに薬剤を入れてミキサーで撹拌するしかなかった。

排泄物が透明になるのも問題だった。
う◯こをどのぐらい出したかわからないので全部出した気にちっともならない。ちゃんと拭けたかもよくわからない。

だから食べ物の透明化はあきらめた。
透明人間になりたい時は、前日から絶食。
で、ひたすら下剤で腸内のモノを出す。苦しいけどそれしかない。

ということで、身体の光の屈折率を空気と同じにする方法はいろいろ不都合が多すぎて、オレの目指す”ウェルビーイングな透明人間ライフ”というコンセプトからはほど遠いものにしかならないという結論になった。
この結論を出すまでに、天才のオレでも結局15年もかかった。

オレがそんな悪戦苦闘をしている間に、光学迷彩による透明化は日本の北東大学が研究を始めてしまっていた。
(つい先日プロトタイプを発表してたな。)

後追いで研究しても意味がないので、オレは誰も手をつけてない空間歪曲に挑むことにした。
それが今から5年前のこと。

これも原理は簡単で、空間を歪曲させて光の進む方向を変えればいいだけの話だ。
一般相対性理論によって重力が強いほど空間は歪みやすくなることがわかっているから、やることは単純で、強力な重力を作り出せばいいだけだ。

オレは重力発生装置(正確には重力場変容装置)を作ることにした。
で、それが今年の初めにようやくできた。
なにせオレは天才だからな。原理さえわかればわりと簡単だ。

早速、実験を開始したよ。
空間歪曲はできるにはできた・・・けど、人体の透明化、つまり周囲の空間をうまく歪ませて、人体を包み込むように光を曲げて進行させるところまではまだ到達できていない。

装置を作動させてオレの身体の周囲の空間を歪めていくと、いきなり自分の部屋から隣の妹の部屋(一昨年出戻ってきた)に放り出される・・・なんてことを繰り返すばかりだった。
オレが毎回素っ裸で出現するもんだから(オレは基本裸族だからな)、妹からは(両親からもだけど)変態呼ばわりされている。

空間歪曲というのは、簡単に言うと空間を無理くり折りたたむようなもんなんだ。
空間を歪めていくと、屈曲点みたいなのがあるんだろうな。
そこに達するといわゆる「ワームホール」が空間にボコっとできて、屈曲度合いに同期する別空間につながるみたいなんだ。
オレはワームホールができた瞬間に飲み込まれて、同期してつながった妹の部屋の空間に放り出されたわけだ。
SFでいうところの「空間ワープ」ってやつだな。

三次元的に表現をすれば、今は空間をすごく小さく折りたたもうとしてるから、隣接したすぐ近くの空間が同期してワームホールがつながったって感じなんだろう。
だから、もっとずっと大きく空間を折りたたむことができれば、より遠くにある空間が近接することになるから、今度はそこと同期するんだろうな。
そうすると、物理的な距離と関係なく、どんなに遠くてもワームホールを通じて一瞬で移動することも可能なはずだ。

出たとこ勝負の実験を繰り返すのは疲れるだけなので、対象空間の大きさと空間屈曲点生成の連関性を数式で表現しようと今必死で取り組んでいる。
屈曲点の出現分布のランダム性(今はそうしか見えない)を数式で表現できれば、対象空間でのワームホール生成の閾値がわかるので、安心して空間歪曲実験をすることが可能になるからね。
透明人間実現までホントもう一歩ってところまで来ている感じがするだろ?

歴史的偉業をこのオレが成し遂げようとしているのかと思うと感無量だよ。
 
え?そこまでわかってんなら「透明人間」なんかやめて「空間ワープ」の方を研究した方がいい? そっちの方がはるかに歴史的偉業だって? 

・・・そっ、そうなのか?

よろしければサポートよろしくお願いいたします。