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やばい、まじやばい! 叔母さんの恋愛講座


やばい、まじやばい!
何がやばいって、あたしの叔母さんの恋愛講座。もうぶっ飛び過ぎ。

あたし、16にして初彼氏ができたのね。
高校の部活の先輩。背が高くて、ハンサムで、何より頭がいい。
嬉しくってちょろっとママに話したら、ママの妹の由紀恵おばさんに伝わっちゃって、恋愛講座をしてくれるって話になったの。

由紀恵おばさんって、ママより6つ下の35歳で独身。
ガイシコンサルって所で働いている。
ガイシコンサルって何やってる会社か知らないけど・・・。

ママはあたしに勉強しなさいってしか言わないけど、おばさんはそんなことは絶対言わない。
なぜなら、おばさんは、自称「恋愛のプロフェッショナル」。
小さい頃からおばさんの恋愛話はいくつも聞かされた。
今日は恋愛成功の秘伝を教えてくれるって話だった。
あれだけ勉強、勉強しか言わないママが、なんだか面白そうだから行ってみたらって笑ってた。
ママも少し奥手だったあたしに彼氏ができたことがちょっと嬉しかったみたい。

「あらーー、いらっしゃい。ちょっと見ない間に大きくなったわねーー!」
おばさんいつも同じ事言う。
この前会ったのは半年前。
この半年間、あたしの背は1ミリも伸びてないっつーの。

おばさんが出してくれた高級そうな紅茶を飲みながら、あたしは自分が持ってきたビアード・パパのシューックリームを頬張りながら、おばさんの恋愛講座が始まった。

「明美ちゃん、ハンサムな彼氏できたんだってね。」

「はい、今日はそれで叔母さんの恋愛講座を伺いに来ました。とっても楽しみです。」
一応、楽しみだって言っておいた。そのぐらいの気は使える。あたしでも。

「じゃあ、最初に言っておくけど、恋愛ってどんな綺麗事を言っても、結局は人間の生殖本能に基づく極めて打算に満ちた行為なの。そこにはロマンチックなんて言葉が入る隙は1ミリたりともないわ」

「へ????」 

「もっと端的に言うと、恋愛というのは人間が繁殖を促進するためのメカニズムに過ぎないってことよ。わかる?」

「よくわからない・・・けど・・・」

「学校で習ったと思うけど、生物というのは種の存続を確保するために、繁殖することが必要なの。遺伝子を次の世代に伝えることが重要なのね。そこまではわかる?」

「うん、なんとなく。」

「そのためには、自分とは違う遺伝子を持つ異なる個体同士が結びつくこと、つまり交配する必要があるの。この結びつきを助けるのが恋愛。」

「恋愛って違う遺伝子同士を交配させるためなの?」

「そう、その通りよ。
遺伝子の多様性が生物の生存と進化にとって非常に重要な役割を果たすの。
異なる遺伝子を持つ個体同士が交配することで、その子孫はより多様な遺伝子情報を受け継ぐことができるの。」

「?????」

「環境の変化や新たな病気やウイルスなんかに対して適応する能力が高くなるの。1つの遺伝子しか持たない個体だけだと全滅しちゃうところを、いろんな遺伝子を持つ個体だと生き延びる可能性が高くなるの。
違う遺伝子を持つ個体を求めるのが恋愛の根本ということなのよ。
わかる?」

「わかる気もするけど・・・ 恋愛って違う遺伝子を持つための繁殖行為って言われちゃうと、なんかちょっと違うような気もする。」

「そう思うよね。生物的にはそれだけで説明が済むんだけど、人間として考えると、恋愛にはもうちょっと複雑な要素が関わってくるわ。」

「???」

「それは、どの相手の遺伝子で繁殖すると、人間社会において子孫を残しやすくなるか、遺伝子としての持続性があるかということ。
たぶん明美ちゃんがちょっと違うと感じたのはそのせい。」

「でも、そこも繁殖のためなのね。」

「そうよ。恋愛というのはね、どこまでいっても””持続性”を持った遺伝子の伝達、今風に言うなら、サステナブルな遺伝子の伝達、そのための繁殖を行うためのものなの。
だから、人間という要素を入れても、どんな遺伝子を選ぶかはだいぶはっきりしてるの。
例えば外見。
あなたの場合も外見が好きになった理由の1つのはずよ。」

「うん。確かに。」

「それって本能に実に忠実よ。
相手の外見に惹きつけられるのは、遺伝子が自分と異なることが明確にわかるからなの。
容姿というのは繁殖において遺伝子の多様性を確保する重要な要素なの。
だから、より健康で多様性のある子供を生む可能性が高い容姿を持つ相手との交配のために、女の子はまずハンサムくんを求めるわけ。
外見的要素としては”顔”が一番わかりやすいからね。」

「あたしの本能だったのね。」

「そうよ。”顔”が良いのは人間社会においては生存競争上、若干有利になる要素であることが本能としてすり込まれているの。
でもね、あなたがもっと大人になれば、”顔”以上に、生存競争への強さそのものに引かれるようになるわ。」

「そっそうなの?」

「うん。よく醜男と結婚する美女がいるでしょ? あれが証拠。
彼女たちは、本能的に生存競争に強い男を嗅ぎ分けているのよ。”顔”なんていう不確かな有利さなんかよりも、確実な生存競争上の強さを持つ男を選んでるわけ。」

「・・・・」

「わからない? もし身体能力が著しく高い男なら、交配によって健康で強い遺伝子を残せる可能性が高まるからとても魅力に映るの。
もし社会的地位がすごく高いとか超お金持ちなら、人間社会においてより有利な条件で遺伝子を残せる可能性が高くなるから魅力的に映るわけ。
容姿が少し良いぐらいじゃ、より有利な条件で遺伝子を伝承するという観点からは魅力に欠けるのよ。人間社会では。」

「なんか、ちっともロマンチックじゃないのね。」

「そうね。でも絶望することはちっともないのよ。
なぜなら、世の中の本当の上流階級は、良い遺伝子同士をずっと交配し続けて来てるの。
だから、びっくりするぐらいのハンサムで長身でスポーツマンで高学歴で、しかも超お金持ちで社会的地位もある男がしっかり存在してるわ。」

「そうなの?」

「そうなのよ。あなたがまだ知らないだけで。
あなたが若くて、生物学的に繁殖力が強い健康で魅力的なメスである時期は、そんなに長くないのよ。実は。
16歳からの10年があなたの人生で一番きれいな時よ。
勝負はこの10年よ。
公立高校にいるぐらいのハンサムくん程度で妥協するんじゃなくて、最大限に自分の遺伝子を有利に残すことができるそういう男をつかまえなきゃダメなの。わかる? 」

「うん、なんかわかってきた気がする。」

「偉いわ。さすが私の姪っ子だわ。
今は一生懸命勉強して大学に入って、できれば海外の一流大学に留学して、そこで上流階級で良い遺伝子を引き継いだ超一流の男をとっつかまえることよ。」

「うん、わかった。すごくよくわかった・・・。
ところで、由紀恵おばさんは今どういう男の人と恋愛してるの?」

「私の恋愛相手はとにかく繁殖力の強い男よ。35を過ぎたらそれ一択。
それについては、あなたにはまだ早いわ。
あなたがもし35を過ぎてもシングルだったら話をしてあげる。」


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