見出し画像

年金通りの夜は更けて ー沖縄の「へそ」うるま市石川のローカル生活(8)

本日はうるま市石川でスナックデビューしちゃった、というしょうもない話の割にやや長文になりました。

近所の居酒屋に定期的に通うようになり、仕事の方も多少落ち着いた、ある金曜日の夜。僕はいつものように、カウンター席で夕食代わりの晩酌をしていました。

店には僕より先に常連のツトムさんがいて、刺身をつまみに焼酎のボトルを飲んでいました。週末で他にも客がいたため店のお母さんは忙しそうで、僕はぼんやりテレビを眺めていました。と、ツトムさんがお母さんに「ママ、タクシー呼んでもらえる?」と声をかけます。ツトムさんはあまり店に長居することなく、1〜2時間程度で帰ることが多いので、これもいつものこと。

ところがいつもと違ったのはツトムさんが僕の方を見て「あんたもたまには一緒に来るか?」と声をかけてきたことでした。お母さんも「あら、いいんじゃない。人生勉強よ」と被せてきます。ツトムさんは常日頃、店を出た後は近隣のスナックを飲み歩いているというのは聞いていましたが、いつも単独行動でした。まさか自分にお声がかかるとは。

僕はそれまで、付き合いでキャバクラに行ったことが一回あるくらいで、スナックは未知の領域。一瞬動揺しましたが、知らぬ仲でなし、スナックくらいなんだ、と好奇心が勝り、ありがたくご一緒させてもらうことにしました。

乗り込んだタクシーは石川の繁華街を目指します。繁華街は沖縄B級ポータルのこの記事にもある通り、
https://www.dee-okinawa.com/topics/2012/08/st-vol1.html
旧石川市街地に広がっていて、日頃はなかなか出歩かないエリアでした。

※まさに石川繁華街(確かに社交街っていいます笑)の日中の動画がありましたのでご参考

タクシーは、10分ちょっとでお目当てのスナックに到着。「スナック ともだち」という昭和ロマン的古めかしい看板に一抹の不安を覚えつつ、ツトムさんの後ろをついていきます。ドアを開けると「あらぁツトムさん」と艶かしい声で迎え入れられました。

意外と広い空間には、やはりカウンターとボックス席があり、カウンターにはTシャツ姿の壮年男性が一人腰掛けて、店のホステスさん(と呼べばいいのかな?)に熱心に話しかけています。ツトムさんと僕はボックス席に通されます。他のボックスにもお客さんが数人いましたが、その店にいる全員が、僕より二回りは年上の印象でした。「場違い」感に逆にワクワクしたのを記憶しています。

ついていただいたホステスさんはおひとりで、ツトムさんの横に座ります。ツトムさんは元々口数が多いタイプではないのですが、ここでも「ボトル出してもらえる?」と声をかけた他は、ホステスさんとの雑談に受け答えするくらいで黙々と飲んでいます(テンションが変わらないまま居酒屋では言わないような下ネタをさらっと口にした時は吹き出しましたが)。

また、ホステスさんの話で、この店のある通りが地元では「年金通り」と呼ばれており、その理由が、おじぃたちが年金の支給日(月2回)に年金を握りしめてやってくるから、というのには爆笑しました。なんとも可愛らしい(?)

僕はツトムさんのボトルの泡盛をいただき、出てきたスナック(ちゃんとした小料理でした)をつつき、ツトムさんとホステスさんの会話を拝聴し、たまにこちらに話を振られれば当たり障りのない返答を返す、という無難な応対を続けました。

ところが後半、スナックの定番であるカラオケでハードルが……。他の客が演歌を気持ちよさそうに歌ったり、ホステスさんとデュエットしたりしている中で、ツトムさんは「俺は歌が下手だから」と固辞し続けていました。しかし、勧められるうちに「代わりになんか歌ってよ」と僕に振ってきたのです。ホステスさんが「歌いなさいよ~」とリモコンを渡してきたときは「え」と思考停止しました。

なんというか、他の客が歌うのを聞いたり囃したりも含めて、スナックという場の空気を形成している感じがしたので「ここにいる誰も知らない、盛り上がらない曲を歌ってもダメだろ」という直感があったのですね。そしてこの場のみなさんが知ってて盛り上がりそうな曲など知らん!という自覚も。

もちろん、ひたすら辞退するというのも手です。しかし、ただでさえ場違いなナイチャーが、空気のようにこの場に居続けてカラオケも断って帰るだけというのもなんか癪だな、という思いもあり、深慮の結果、この曲を入れることにしました。

沖縄のロックバンドであるかりゆし58の「アンマー」は、職場の沖縄県人の先輩が飲み会後のカラオケで歌っていて初めて知り、いい曲だなと大好きになりました。アンマーとは沖縄の言葉で「お母さん」という意味だそうですね。沖縄では老若男女誰もが知っている曲と聞いていたので、これなら盛り上がる?と思い、賭けてみることに。

歌った結果は、、、大盛況!……とまではいかないまでも、ホステスさんも他のお客さんもやはりみなさんご存知のようで、口ずさんだり合いの手の拍手をもらったり、それなりのリアクションをもらい、個人的には自己満足に浸りました。

ツトムさんは飲み方も綺麗で、1時間ほど滞在した後は「タクシー」と言ってお会計をし、またその後は違う店を二軒ほど1時間ずつはしごして、日付が変わる前に散会しました(全額をご馳走になりました)。

ツトムさんと夜の街をご一緒したのは2、3回ほどで、毎回訪れるスナックが違うため、僕がいずれのスナックも再訪することはありませんでしたが、そんなこんなで僕のスナックデビューの夜は終わったのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?