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ど田舎キャバクラで爆笑したこと、胸を痛めたこと ー沖縄の「へそ」うるま市石川のローカル生活(38)

うるま市石川からはるばる遠征するようになった僕ですが、石川で同い年の友人ができました。名をカツヤ(仮名)といい、石川出身で保育系の仕事をしていました。それぞれカウンターでひとりで飲んでいた時に、その居酒屋の店主が「あー、そういや、こいつ同級生のはずよ」と紹介してくれたのがきっかけです。

釣りと酒を飲むのが趣味で、おしゃべり好き。朴訥とした雰囲気で、ヤンキー的なヤンチャ感は皆無。その雰囲気にウマが合い、約束するわけではないけれど、いつもの居酒屋で鉢合わせるときは大概、隣に座って酒を酌み交わしました。

ある夜、カウンターでカツヤと一緒になり、うだうだと2時間くらいたわいもない話をした後に、カツヤが唐突に2軒目に誘ってきました。

「飲み屋ー行くね?」

向かいで聞いていた居酒屋の店長が含み笑いをして、「カツヤーについていくといいよ。こいつ、石川の夜の帝王だからね」と煽ります。どんだけ狭い帝国やねんとツッコミどころは覚えつつ、好奇心がまさり、行ってみることに。予想はしていましたが、行きのタクシー車内で確認するとやはり、飲み屋というのは、居酒屋という意味ではなくいわゆるキャバクラのことでした。

うるま市石川の社交街のなかには年金通りのスナックだけではなく、若者を対象にしたキャバクラらしき店も点在しており、夜も深くなると煌々と明かりを照らしていました。また、社交街の旧道にかかる交差点のところには夜になるとホスト風のキャッチのお兄さんが数人たむろしていて、複数人で通りかかると声をかけられたりします。(僕の飲み歩きは一人だったので日頃はスルーされてました)

さて、カツヤの指示で、その交差点でタクシーを降りた我々。彼の方に、たむろしているキャッチたちが近寄って来て、親しげに話しかけるではありませんか。なるほど、石川の夜の帝王というのは伊達ではなかったか。

「女の子より、キャッチの兄ちゃんと仲良くしておく方がよっぽど得するわけよ」

勉強になります(?) やがて一人のキャッチに連れられて、一軒の店に入ることに。カツヤに丁寧に説明してもらった、うるま市石川のキャバクラルールを解説しておくと……

・店舗には、時間制とボトル制がある(ボトル制は女の子が売上のためにどんどん酒を空けていくので時間制の店でゆっくりする方が良いとのこと)
・時間制では、女の子のドリンクは別料金(ビール1杯1千円とかそんな感じ)
・入る客の人数−1名の女の子が席についてくれる(1名だと入れないか2名分の料金を払うかする必要がある)
・女の子は定期的に席を入れ替わるので、そのまま席にいてほしい場合は指名をすれば、指名料がかかるがそのままいてくれる

さて、やや暗めの照明の店内にはソファー席が点在し、スナックよりは若い男性客で賑わっています(オラオラ系というかガテン系というか、そんな雰囲気の客が多い印象)。我々は2名なので、女の子一人がやってきます。ソファに腰掛け、ウンチクを語っていたカツヤが得意げに女の子を見上げ……固まりました

僕も釣られて視線を向けましたが、キリッとしたタイプの美人の女性です。かわいいじゃないの。何で固まるの? と思ってカツヤに視線を戻すと、彼は絞り出すような声で、一言。

「は、ハルミーじゃないやっさ」

「ハルミ」is誰? しかし相手の女の子も「あーカーツーか」と若干、バツが悪そうな顔をして、席に座ります。なるほど知り合いなのね、と察したところでカツヤが僕に「あのな、高校の同級生のハルミ」と紹介してくれます。

帝国は極狭だったね……と、僕はこの辺で既に、内心面白くなっていました。聞くところによれば、地元で働いているのに店内でも源氏名はなく、本名のハルミで通しているとのこと。そんなもん?? まあ地元だから逆に源氏名を使う意味もないのでしょうか。

さっきまで散々威勢の良かったカツヤは、知人が横に来た途端にモジモジし始め「そういえば高校の頃の△△、あいつ今何してるねー」みたいな同窓会かよと突っ込みたくなるエピソードトークを全開。思わぬカツヤの豹変っぷりに僕はしばらく横で爆笑していました。ハルミさんは動揺もせず、明るいサバサバした雰囲気で返していましたが。

こっちはまあ、付き合いだったので、地元トークを興味深く拝聴し、泡盛を飲んでカラオケを歌って、十分楽しかったのですが、その夜以来、カツヤと飲むときは折に触れてこのネタでいじることとなりました。


補足しておくと、沖縄は狭い社会なので、水商売に就く時は、やはり地元は避け、例えば本島中部の女の子が那覇に出たり、逆に北部や南部の子がコザで働いたりするのが一般的のようです(送迎のある店もあるとか)。

あとは那覇や離島だといわゆる「リゾキャバ嬢」というのか、内地から来て働きながら沖縄を満喫する女の子もいるみたいですね。しかし石川はこの辺何とも中途半端で、やはり北部など近隣の市町村から勤める子もいれば、フツーに地元っ子も少なくないようでした。

その夜以来、カツヤに付き合って何度か夜の街に繰り出したことがありますが、だいたいフリーで入って、楽しくおしゃべりをして、指名も連絡先の交換も時間延長もしないでそのまま店を出る(そして店を梯子する)という行動を繰り返していました。何が楽しいのかわかんないけど気ままなのがいいのかな……?

そしてシメはいつも必ず、通りで深夜までやっている売店で100円そば(沖縄そばと具材が発泡スチロールのお椀に入っていて、自分でスープをかけてレジに持っていくいわば沖縄のローカルファストフード)をさっと食べて、タクシーで帰宅するのです。


さて、「はじめての石川キャバクラ」は上記の通り、個人的な爆笑エピソードとして記憶に残っているのですが、もう一つ夜の街関連で強烈に記憶しているのが、内地嫌いの地元の女の子がついたときのこと。

僕がナイチャーと知るなりアイスブレーク的なトークもなしに「内地なんて一生足を踏み入れたくない」「内地人には沖縄人と違って情がない」など内地ヘイトのオンパレード。具体的な内地の知人がいるのか尋ねましたが、そういうわけではない様子。まだハタチなりたてくらいの若い女の子で、内地どころか石川からもそんなに出た経験はなさそうでした。

僕もいい大人なので、そんな女の子に詰られたところで腹も立ちませんでしたが、何というか、ただただビックリして、少し悲しくなりました。接客業として考えるなら、フツーにアウトな対応ですよね? でもだからこそ、逆にあの反応は彼女の「素」だったはずです。この子を取り巻く環境の何が、そんなにも内地(本土)を毛嫌いさせる方向に向かわせたのか。

一定時間でその女の子は別の席に移ってしまったので、話を深掘りする時間もなかったのですが、その夜は何とも言えないモヤモヤを抱えたまま帰りのタクシーの窓から、石川の夜を眺めていたことを覚えています。通り慣れたはずのいつもの街並みが、何だか全然知らない一面を覗かせたかのような雰囲気に感じられました。

※本記事のトップ画像は北谷町の夜で、本文とは一切関係ございません。




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