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みなし残業80時間 メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の転換期

先立って「サイバーエージェントの初任給が上がったというニュースを見て求人票を確認したらみなし残業が80時間だった」という話が話題でした。

私自身、過去に同等のみなし残業の企業で削減に動いていたのですが、断念したことがあります。何がどう無理だったのかも含めて、整理します。

個人的なサイバーエージェントの印象

今回話題になったのはサイバーエージェントですが、ITベンチャーの中でも創業期が1998年であり、日系IT企業としてのパイオニアです。そしてサイバーエージェント(とDeNA)の背中を見て数多くのITベンチャーが2000年代に産まれました。功績としては実に素晴らしいと思います。

私自身、2012年に会社説明会に行ったことがあるのですが「弊社では終身雇用、退職金支給を目指します」とアナウンスされておられました。2012年頃のtoC向けWeb業界では「サービスはだいたい3年以内に潰れる」という定説がありましたし、Twitterで大手SIerを自称するアカウントが「おもちゃ(toC向けWebサービス)なんて作らずにSIerをやれ!それが日本のためだ!」という方も居られました。今はそちらの方がアカウントごと消えたようですが。

そのようなあやふやな業界の状態から社員を長期に抱えるという宣言をし、実現するというのは実に難易度が高い偉業です。実際、勤続インセンティブという形で退職金制度が紹介されています。

実際にサイバーエージェントの人たちと働いたり、インタビューをしにオフィスにお伺いしたりすると感じるのは女性活躍の著しさです。2010年前後のキラキラしたイメージで入社した方々がしっかりバリキャリになっているのも素晴らしいですし、女性が活躍しやすい制度を(特に人事制度に進んだ)彼女たちが先導して居られるのがキーポイントだと感じました。

総じて所謂JTC的な長く働き続けられる環境をWeb業界で作っていったのがサイバーエージェントだと捉えています。

みなし残業の存在理由

採用の観点から言うとみなし残業は0が理想です。45時間でも多いです。まして80時間になると警戒されることが殆どです。

みなし残業が多い企業の特徴としては以下のようなものがあります。

  • 基本設計がメンバーシップ型採用である

    • 社長がJTCに新卒入社をしてから起業している

    • JTCに制度を倣っている

    • サイバーエージェントのようなJTCを目指したWeb企業に倣っている

  • 創業から時間が経過しており、社員数が100名程度以上居る

    • 個人の能力差にバラツキがある

    • ぶら下がり人材も目につく

  • 経営層が営業職出身、営業職が多い、社内政治力が強いといった事情により「成果」に対する比重が文化的に強く、企業内コンセンサスを取るのが難しい

特に最後の営業職についての問題は深いです。営業職は一般的に売上が成果なので非常に分かりやすいのですが、SESやSIerのような人月ビジネス以外のITエンジニアでは社員一人一人に対してのバイネームでの売上貢献は不明なことが多いです。

その状態に加え、個人の能力差の要素や、年数が経過したことによるぶら下がり人材の登場により「一律給与アップ」の判断に踏み切ることは難しくなります。制度を変えるにしても反対派や社内政治も関わってくるため、落とし所としてベース給与はそのままに「見込み残業」で追加する形になります。

もう一つの懸念は「タスクはないけども賃金を稼ぐために下がったみなし残業を越えて無駄な長時間残業をする人材がどの程度出るか」というものです。この試算は難しいため、棚上げされやすい傾向にあります。

みなし残業いっぱいまで働かせたい企業は確かにある

Twitterでは「みなし残業」は禁忌になっており、「上限まで働かされる」と思い込んで炎上しやすいのですが、重要なのは実際の残業時間です。近年は労基もうるさいのでサービス残業を強いるケースも2000年代に比べると減っています。

しかし実際に「みなし残業がこのくらいなのでもっと働かせたい」という要望を経営者の方から頂いたことはあります。私が手を引きましたが。

また、契約を無視して「年収に対してバリューが足りないので残業を申告しないで欲しい」と言う話も聞いたことがあります。2000年代はそうした「残業をつけるな」という圧はよく耳にしたのですが、このバリューの件な今年の話です。


このようなコメントがあってもEXITの一環で「上場したい」というお話をセットで頂きます。某社の過労死問題が発生し、労務管理がどんどん厳しくなっていった時期に上場の際に制度を整えたことがある一人としては、労務周りは透明性高くホワイトにしないと上場は無理ですよとお答えせざるを得ません。実際に社員が過労死したことで上場が立ち消えになった企業もあり、正しくない労務管理にはリスクが伴います。

残業申告の正しさや、結果として残業させ放題になっている裁量労働制の悪用パターンの方を問題視する必要があります。

創業時期と、成長に成功したが故のジレンマの一角が「見込み残業」

結論としてはみなし残業はその時間の残業を強制するものではないため、会社選びの際には「配属予定チームの予定された職種の平均残業時間」を確認する必要があります。ある程度業務フローやビジネスモデルが固まった企業であっても今後変動する可能性はあるため、加味して判断する必要があります。

実態としての残業時間が高くなく、企業としても上場しているような状態であれば、JTCをベースにした制度設計であることが推測され、長く安定して働ける可能性はあります。腰を据えて働きたい、転職はストレスだと感じる、突然のレイオフが恐怖という方であればむしろ良いかも知れません。ただ契約なので気持ち悪いと感じるのであれば避ければ良いだけです。

残業を一分単位で精算したいであるとか、副業・複業をしたい人には向いていません。自分が何のために働いているのかを考えた上で判断されると良いと思います。

同様に、採用する側からしても「働く理由」を意識しつつ、欲しい人物像を言語化した上で母集団形成や選考をしていくと定着しやすいチームになります。

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