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Open AIのお家騒動に見る「採用・従業員への訴求ポイント」と組織の耐故障性

先だってOpen AI CEOのサムアルトマン氏の進退が経済ニュースを賑わせていました。調達がうまく行っているスタートアップの最右翼の一つがOpenAIでしたが、お金があっても無くても社内政治が混乱しがちです。規模は小さいですが日本のスタートアップやベンチャーでも見られることです。

日本経済新聞 OpenAI、アルトマン氏がCEO復帰 理事会大幅刷新へ

エンジニアリングマネージャー目線では、9割の社員が退職を表明してサムアルトマン氏を追う姿勢を見せたという下りが気になります。余程のカリスマ性がサムアルトマン氏にあったのでしょうね。

今回のお話はこうしたOpenAIで見舞われたような「まとめて他社に転職される」ような事態を防ぐのはどうすれば良いかということについてお話ししていきます。

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タレント採用・リファラル採用のリスク

人材紹介フィーが高騰し、スカウト媒体の費用対効果が低下する中、リファラルへの比重が高まっています。古くはライブドアの小飼弾氏採用からみられる手法ですが、業界内の著名人(タレント)を積極的に採用し、そこからのリファラルや直接応募を活性化させている組織もあります。日本のスタートアップ界隈でも一人で二桁人数を古巣からリファラル採用される方が居られ、人望の高さが感じられます。

以前下記のようなコンテンツを書きましたが、自社の訴求を特定の社員(ヒト)でフックしていくのは直ちに着手できます。人柄が良く「この人と一緒に働きたい」となれば待遇や働き方の改善はひとまず後回しにすることもできるので有効です。その人が当該業界でタレント化していれば更に効果が高く、採用コストも低くなります。

しかしそのヒトが辞めると芋づる式に辞めていきます。私もこうしたまとまったリファラルされる側(引き抜き)を近しいところでいくつか目撃ましたが、その中心人物を理由に入社した人(リファラルで入社した人)に加え、入社後にその方を信奉し始めた人も合わせて出ていくので結果的に入社者数と退職者数を比較した際にマイナスの人員になるケースをよく見かけます。こういう事例を見ていくと、在籍期間とそのバリューを突き合わせていくと「そのタレントは採用しないほうが良かったのではないか?」と思ったりもすることもあります。

リファラルというと受け入れる側からすると「人と人との繋がりを元にした入社」なのでポジティブですが、出ていかれる側からすると引き抜きです。リファラルする側だけでなく、される側になった時のことも含めて組織運営をしないとOpenAIのようになります。

様々な採用チャネルがある現在ですが、特にタレント採用・リファラル採用に偏るのはリスクがあると考えており、他の採用経路を程よく混ぜることが重要だと捉えています。

次に特定の人物に依存しない形での訴求理由について、いくつかアップデートを含めながら見ていきます。

社長訴求

これまでお話ししたように特定のヒトをフックした採用は分かりやすいのですが、退職したときに組織崩壊リスクがあります。そこでまずは辞めないであろう社長を慕ってもらうことでこのリスクは回避できるのではないかと考える組織があります。私も何度かトライしたこともありました。結論としては思ったより万能ではありません。

社内政治による失脚

冒頭で述べたサムアルトマン氏のように、社内政治がごちゃごちゃすると社長の退任リスクがあります。あまりニュースにはならないですが、社内政治や派閥争い負けのような話はスタートアップ、ベンチャー、上場済みベンチャーなどでもチラホラと聞きます。創業時のコンセプトが他の経営層と意見衝突し、辞めた上で何名か社員を引き連れて別企業で競合事業を立ち上げるような話すらあります。

社長が飽きる

ここのところ自社サービスでよく見るのですが、社長もヒトなので飽きます。特にIPOマネーを手にしたあたりで一定の方が飽きます。事業が少なく、かつ社長が特定の事業のPOを担当していたりすると飽きやすく、飽きることによって売上が落ちたり重要インシデントが起きたりします。それをきっかけに上場廃止やTOBが起きたりします。

一方でクライアントワークの社長は飽きにくい傾向があるように思います。SESなどは社長のファンを募るスタイルの企業が確認されますし、会社も長めに存在しています。リスクは社長の健康を心配するくらいに思われます。

事業訴求

社長すら居なくなる可能性があるので、ヒトではなくコト、つまり事業で訴求していくのは妥当だと考えています。ただしこちらも万能ではないので下記の点に注意が必要です。

ピボット

シード期スタートアップの採用シーンを見ていると事業が目指す世界観をWantedlyあたりに掲載するだけで、きちんと読み込んだ上で共感した人が応募して来ることがそれなりにあります。

これ自体は良いのですが、PMFを諦めて大きくピボットした時にリスクがあります。エンジニア中心のスタートアップではPMFを断念し、当座のお金を繋ぐために受託開発を始めるケースがありますが、こうした意思決定と相性は悪い訴求方法です。「言っていたことと違う」と啖呵を切って辞めていく人も居ます。

日本のそれなりのサイズのスタートアップやベンチャーでも、ピボットをきっかけにした方針転換についていけず、マネージャー職が半数以上居なくなったりするケースを見ます。ある日を境に役員一覧がさっぱりしてしまう組織もあります。

特にシード期スタートアップ界隈では「ピボット」をカジュアルに使う社長さんとよくお会いするのですが、事業共感をした社員の存在を思うと居た堪れないものがあります。

事業共感の賞味期限

事業共感には基本的に賞味期限があると思って良いです。事業内容によっては極端に短いものもあります。

私が関わっていたマッチングサービスなどの場合、男女の出会いにフォーカスし続けるわけですが、中の人のライフステージが結婚、出産、子育てと変わっていくといつまでもファーストステップの「出会い」に対する私的共感は辛くなります。

同様のものが新卒採用専任者にあります。企業と学生という立場の差が明確な上で、「自身の就活体験」を語って行く方が多いのですが、自身の年齢が上がって行くと共感は強くなっていきます。残念なことに時代の流れも大きく変わってきたので、就活生から「景気が良かった時に就活を終えた人」認定されるとその賞味期限はぐっと短くなります。

これらは極端な例ではありますが、事業バリエーションがある企業であれば2-3年程度で環境を変えることも必要です。そしてその際には会社に残る理由の前向きなシフトを上長が手助けすることも重要となって行きます。

よく働くけど「なぜか辞めない人」は大切にすべき

OpenAIの騒動で興味を持っているものの一つが「辞めると言わなかった1割の内訳」です。日本企業で起きるお家騒動でここまで極端な割合のものは聞かないですが、内訳を是非見たいところです。

日本企業の場合でも上場を廃止しようが、TOBされようが、社名が変わろうが何でか残り続ける人は居るものです。他に転職できない人もいる一方で、転職意志がとくにないだけの成果を出している人も居ます。こうした人を大切にしておくと何があっても強い組織ができるのであろうと考えています。逆に言うとこのあたりの縁の下の力持ちが辞めていく企業はかなり末期的です。大切にしましょう。

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