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【俺の友達がね】


                                                  

  昔、きまって酔うと、
「聞いてくださいよー、俺の友達がね」と語り出す癖のある後輩がいました。
    遠い昔のある日、ある行きつけの小さな呑み屋さんでのお話しです。
    気持ち良く酔いも回った頃、例の後輩君が酔いに任せて、語り出しました。

聞いてくださいよー、俺の友達でね、すっげぇAV好きの奴がいてー、普段は面白い奴なんだけどー、女の子の前に出るとなんも喋れなくなるんですよー。
でもね、シャイとかで喋れないんだったらまだ可愛いんですけどね、そうじゃなくてAV女優さんと目の前の女性を被らせて、妄想する癖があるんみたいなんですよ。
ようは、ただのスケベなんだよね。一歩間違えたら変態ですよ。
ところがね、そんなやつでも初めて彼女ができてー、付き合って一ヶ月、やっと自分のアパートに呼ぶまでになったらしいの、
そしてね、朝から、あんなこと、こんなこと、妄想しながら散らかった部屋を片付けて、待ち合わせの地元の駅に彼女を迎えに行ったんだって。
改札を出た所で彼女が待ってて、
またその彼女の格好がー、今までの花柄ブラウスにフレアスカートの可愛い格好と違って、その日はタイトのミニスカートに胸元が大きく開いた、セクシーな格好で、それを見た彼の頭の中はー、もうあんなことや、こんなことばかりなっちゃってて、正気でいられなかったみたいよっ。
アパートに戻る途中でね、お昼御飯作ってくれる約束だったらしくて、スーパーで買い物したらしいんだけど、彼女のおしりと、胸ばかり見てたらしんだー。
全っく、どこまでスケベなんだろね。
まぁ、とりあえずね、買い物もすんで二人仲良く、買い物袋下げて手なんか繋いで帰って来たらしいのよっ。
そしたら、彼のアパートの前で人だかりがしてて、パトカーのランプが光ってるのが遠くから見えたんだってっ。
慌てて彼と彼女もその人だかりの中に入っていったら、アパートの管理人さんがいて、何があったのか聞いたらー、アパートの二階の部屋全部が空き巣にやられちゃったみたいなのよ。
それを聞いた彼は、荷物を彼女に預けて慌てて二階の自分の部屋に上がっていったらしいよ。
盗まれて困るような高価なものなんかないし、お金なんかあるはずないんだけどねっ。
彼にはそれより心配なことがあったらしいのよっ。なんだと思います?

    一気に喋った後輩君は、喉が乾いたらしく、頼んだばかりの私のハイボールに手を伸ばして半分くらい飲み、少し目が半開きになって怪しくなりながらも、また続きを話し始めました。

先輩っ、聞いてますかー。
その彼はね、
慌てて階段をあがり一番奥の自分の部屋に行ったらー、
彼が一番恐れていた光景が目の前に広がってたんですって。
彼はね、彼女が部屋に来るから、普段散らかってる部屋をね、片付けたんですよ。
そう、彼の大事なコレクションも彼女に見つからないように隠したんです。
まぁその空き巣も、どちらさんの部屋も見事に散らかしてくれたみたいなんだけど、彼の部屋も凄かったらしくてー、
どう凄かったのかと言うとね、
隠しておいた、AVコレクションの艶かしいパッケージが、全て部屋の真ん中に放り出されてたんだって。
彼はまた慌てて部屋に入って、その艶かしいコレクションの山を片付けようとしたのよ。
そしたらね、おまわりさんが部屋に入ってきて、
「ダメ、ダメ触っちゃっ。鑑識の人が来るからそのままにしてっ」
なんて怒られちゃって。
そして、彼はおまわりさんの方を向いたら、もっと悲劇的な展開になっちゃったんですよ。
おまわりさんの後ろに、彼女が、さっきまで幸せな買い物をしてたスーパーの袋を両手に下げた格好で、部屋の中央に山積みされた艶かしいコレクションを見つめて立ってたんだって。
そこへ、おまわりさんに「ここ、あなたの部屋?」なんて聞かれちゃったもんだから、
彼は、彼女の方を見たまま返事できなくなっちゃって、
そしたら、またおまわりさんがね、
「あなた、この部屋のナンチャラカンチャラさんじゃないんですか?」
なんてとどめ刺されちゃってさー、さすがに名前出されたら嘘は言えなくなっちゃったらしく、頷いたんだって。
その瞬間、ドサッて音がして、玄関の方を見たら、幸せの買い物袋が二つ残されて彼女の姿が無かったんだってっ。
そんでね、またまたおまわりさんが何事も無かったように、
「この状態で何か無くなった物、わかりますか?」
なんて聞いてきて、彼は、おまわりさんを睨みながら、
「分かります。無くなった物あります」って答えたんだって。
先輩は分かります?。彼が何をなくしたか?
おまわりさんにこう言ったんだって。
「彼女をなくしました」って。
それを聞いたおまわりさん、
山積みの艶かしいパッケージの山を見て、深く頷いたらしいよっ。
幸せから奈落の底へ墜落だよね。
悲しいよね。
でも笑っちゃうよね。
空き巣野郎も、何も部屋の真ん中に積まなくてもねー。

    後輩君は、今度は私の反対に座っている、常連客さんの飲みかけの酎ハイを横取りして、一気に飲み干しました。
    でも、その常連客さんは怒らずに、
「それから、どうしたの?」
なんて言ってしまったから、また後輩君はギリギリの呂律で、話し出しました。

そうそう、
それからがね、
まいっちゃいましたよー。
その後にきた鑑識の人の中に女性がいて、もう俺、その場から逃げ出したかったですよー。
女性の鑑識の人に、山積みのコレクションを指差されて、「もうこちら片付けていいですよっ」なんて言われちゃってさー、顔から火が出るほど恥ずかしかったんですよ。
片付けても良いなんていわれても、またもとに戻すのも、なんか気まずくて、ごみ袋に全部なげましたよっ。
この日は、彼女だけでなく、コレクションとまでお別れで、散々な日でしたよ。マッタク。

    カウンターのなかのマスターが、後輩君に冷たい水の入ったグラスをコースターにのせてだしました。
    後輩はその水を一気に飲み干すと、コースターに何か書かれていることに気づきました。
(お友達のお話が、ご自分のお話になってますよ、そろそろ、おやすみになられては?)
    なんて書かれていました。

   こういう、後輩くんみたいな人っていますよね。
   AVコレクターじゃないですよ。自分の失敗談を他人事の様に話す人です。
    それにしても、今の時代はパソコンやスマホに、隠す事が出来るので、本当にいい時代になりました。

    もう、あんな失敗はしたくないです

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