#4 チェンマイの午後
※この文章は2013年〜2015年の770日間の旅の記憶を綴ったものです
バンコクを早々に後にして、タイ北部の古都チェンマイへ。
例によってほとんど予習しないまま来てしまったので、バンコクの宿で知り合った日本人の旅人から教えてもらった日本人経営のゲストハウスへと向かった。
このゲストハウスとチェンマイの雰囲気が本当に心地よくて、5日間の滞在はあっという間に過ぎていった。やっぱり日本語が通じるのは安心するし、ここでこの旅で初めて同年代の女の子の旅人(彼女も世界一周をめざしている)に出会えたことも大きかった。
チェンマイでは、とにかく、歩いて、歩いて、歩き回った。街の中心は、塀とお濠で囲まれた旧市街とその周辺。歩いて歩けない距離では無いけれど、暑い日中はソンテウ(共同タクシー)を利用する人も多いはず。
でもチェンマイに着いたその日から、街の地図を頭の中に描けるようになりたくて、塀の内側の旧市街を縦横無尽に歩き回った。自分のこの足で足跡を刻んだ距離に比例して、頭の中にその街のイメージが鮮やかに立体的になっていくことがただただわくわくするのだった。
特に目的をもって観光するわけでもなく。街中にはWAT(寺院)が沢山あるので、気になったWATにふらっと立ち寄ってみたり。突然のスコールに遭うとWATのお堂の軒先で雨宿りさせてもらったり。そこで雨が弱まるまでただボーっと待つ。いつの間にか隣に犬も一緒に雨宿り。
ここは落ち着いた古都の雰囲気を保ちながら、オシャレなお店が軒を連ねる通りもあったりして、それが景観を乱すことなくちゃんとバランスが保たれているように見えて、旅を始めたばかりでまだ緊張の糸が張っている身にはひたすら過ごしやすさが身に染みた。
めずらしくスコールが無く一日中暑かった日の午後、どこかで涼もうと目に入ったWATの境内に入ると、奥にあるお堂の中でお坊さんが手招きしているように見えた。
「え、わたし?」と思いながらも招かれるままお堂に入ると、座りなさいという手振りをされる。そしておもむろにお経をあげはじめた。はじめは何だかよくわからなくて戸惑ってしまったけれど、不思議と凛とした涼やかな気持ちになってくる。目をつぶってうつむいていると、突然、聖水を振りかけられてヒャっ!となった。
お経の最後にそのお坊さんは白い糸で丁寧に編まれたミサンガをわたしの手首に巻いてくれた。
これがこの街のお寺で観光客に対してよくある出来事なのかどうかはわからない。だけどこの旅の安全と幸運をわたしのために祈ってくれた特別な出来事だと思うことに決めた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?