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#29 弟たち₋2 -アレッピー

※この文章は2013年〜2015年の770日間の旅の記憶を綴ったものです

アレッピーでの滞在は、結局9日間に及んだ。
最初の3日くらいで主な見どころは全て見てしまっていたので、熱が下がってお腹が回復しはじめてからは、ゲストハウスの周辺を散歩したり、お気に入りのボート乗り場近くの水辺を見に行ったり、のんびり三昧。インドで、こんなにも心穏やかに過ごせる時が来るとは思わなかった。

滞在中、わたしはオーナーから頼まれて、部屋を移動することになった。
最初は二階のダブルルームを使っていたのだけれど、滞在4日目にやって来たヨーロピアン・カップルのために、その部屋を明け渡し、一階のシングルルームに引っ越した。このゲストハウスではWifiルーターが二階にあって、一階の部屋に移動してからは、部屋の中でネットを使うことができなくなってしまった。仕方なく、ネットを使いたい時は部屋を出て、キッチンかソファのあるロビーを使うようになった。

このことも、わたしとオーナー達との距離を縮めるきっかけになった。
一緒にYou Tubeを見ながら、インド人アーティストの歌やショートフィルムを紹介してもらったり。わたしがこれまで撮ってきたインドの街や村の写真を見せてあげたり。
彼らは日々、多くの外国人旅行者と接しているけれども、彼ら自身は、インド国内すら旅行した経験はほとんど無かった。だから、コルカタやプリーの写真をもの珍しそうに眺め「自分たちもいつか旅行したい」と語っていた。夕方になると、近くの屋台にチャーイやラッシーを買いに行って、ティー・タイムを楽しんだ。

わたしが参加したアレッピーのバックウォーターツアーの写真を見ていた時、オーナーの一人が、「宿泊客に、こういう写真を見せながらツアーの内容を説明できたらいいのに」とつぶやいた (彼らはバックウォーターツアーの代理店もやっている)。そこから話が進み「せっかくだからわたしのカメラで動画を撮ろう」ということになった。

翌日さっそく、バックウォーターを行き来する定期フェリーに乗り込み、撮影ツアーを行った。
細い水路を縦横無尽に行き来するカヌーでのツアーとはまた趣が違って、太い水路をゆったりとフェリーで進んで行く。
午後の陽ざしを受けて、キラキラと輝く水面。
南国のヤシの木が立ち並ぶ向こう側に広がる、収穫期を迎えた金色の田園。
頬を撫でて、気持ちよく通り過ぎていく風。
安らいだ気持ちとは対照的に、「この瞬間を決して忘れたくない」と強く思った。

すっかり慣れ親しんだ彼らは、わたしのことを”ファミリーの一員”だと言い、ふざけて「My sister」と言うようになった。アレッピーで、わたしは10歳ちかくも歳の離れたインド人の弟ができた。

オーナーのお母さんの手作りのAda(アダー)、ケララの朝ごはんのいちメニュー
オーナーのお母さんの手作りのAda(アダー)、ケララの朝ごはんのいちメニュー
キャッサバポテトで作ったカッパ(Kappa)、これもケララの伝統的な主食の一つ


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