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#34 旅が日常に刻み込まれていく -アレッピー

※この文章は2013年〜2015年の770日間の旅の記憶を綴ったものです

ハンピからアレッピーに戻って来て、弟たちとの共同生活が始まった。結局このホームスティ生活は、インドビザが切れるギリギリまで、一ヶ月に及んだ。

滞在中、何度も一緒に夕食を作った。ベジタブルカレー、ダルカレー、チキンカレー、フィッシュカレー。
毎回「これが初挑戦!」「今回は、前回とは違う作り方にしよう」と言ってトライしていたので、
美味しくできることもあれば、残念な結果になることもあった。それでも、道具の足りないキッチンで(取っ手の無いフライパンやフタの無いナベばかり…)ワイワイ言いながら、野菜を切ったり、炒めたり。イイ匂いが漂ってくる頃にはちょうどお腹も空いてきて、本当に楽しかった。出来合いのパロタを買ってくることもあったけれど、チャパティを手作りしたことも何度もあった。

一緒に作った夕食の中で、わたしのお気に入りはKAPPA。
タピオカ(日本ではキャッサバポテトとも呼ばれている)を茹でて、ターメリックで黄色く色づけし、塩とスパイスで味付けしたシンプルなもの。サツマイモとはまた違うホクホク感と素朴な味がクセになった。

せっかく日本人のわたしが居るんだし、たまにはカレーじゃないものを、とわたしが材料をそろえて作ったこともあった。とはいえ、アレッピーでいわゆる日本食の材料をそろえるのはとても難しい。だから純和食とは言い難いものだったけれど。
中でもチキンのビール煮込みを作った時には、マサラやスパイスを一切使わず、料理にビールを使ったことに彼らは大層驚いていた。ビール好きのディニッシュは「もったいない…」という複雑な表情でながめていた。

* * *
アレッピーといえば、バックウォーター、カナル、ビーチ。そのどれもが、わたしの中で、いつもまぶしくキラキラと輝いていた。

観光船ではなく地元の人たちの足となっている定期フェリー(路線バスのように水路を運航していて、学校に行く子供たちや町に出る人たちの足になっている)には二回乗ったし、バックウォーターの細い水路を巡って行くカヌー・トリップには三回も行った。特に夕方から日没にかけて、やわらかい風と西日を受けてヤシの木の間をゆるやかに進むカヌー・トリップは、まるで楽園に吸い込まれていくようで、気分が高揚した。

ボート乗り場からビーチまで続くカナルは、毎日歩いて、沢山の写真を撮った。一本に続いているカナルでも、日や時間帯によっていくつもの違う表情があって、飽きることが無かった。

アレッピー・ビーチにだって何度通ったかわからない。日没を目指して行くと、地元の人たちも夕日を眺めながら涼んでいて、とりすました観光地っぽくないところが好きだった。砂浜から海に向かって、朽ちた大きな橋が突き出していて、それがとても絵になっていた。海に沈む夕日の写真は、思いのほか素敵に撮れることもあれば、納得いかない時もあって、もどかしさを感じた。

最初は、ハンピから戻って一週間程度でまた北に向かって旅立つつもりでいた。ビザは残り一ヶ月を切っていたので、北上してラダックまで行くならもうタイムリミットで、焦りが募って来た。でも、どうしてもここから離れがたくて、とうとう北に向かうことをあきらめた。誰に約束している訳でもないんだから、その時いたいと思う所に思う存分いればいい。すると気持ちはスッと楽になった。アーグラのタージマハルやバラナシのカンガー、ラダックにはまた次の機会に来ればいい。
きっとこうやって、次の旅に繋がって行くんだ。

観光地をどんどん消化していくのではなく、出会って本当に心惹かれたモノとじっくりと向き合って行く。その中で、旅が日常に刻み込まれていく。
それが今のわたしには、心地よかった。

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