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プールへ

変に生ぬるい。
あったかいのか寒いのかよくわからない六月

「もうそろそろ夏だし、一緒にやろうよ。あたしのゲスト枠で一緒に入れるからさ」
優子の行きつけのジムには温水プールがある。

大学時代から友人の尚は、下宿の寮は真向かいで、免許合宿、バイト先、夏休みの欧州バックパック旅行も一緒に行くほどの馬が合う仲なのだ。

しかし優子の誘いに、尚は顔を皺くちゃにしながらこう言った。
「えー。元々泳ぐこと得意じゃないしぃ、水着持ってないわ。」
「え、かなづちなの?」
「泳げても100メートル行かないくらいじゃない?」
「いやプールだったら充分でしょ。行ったら行ったでリフレッシュするし楽しいと思うよ。」
食い下がる優子に尚がこう言う
「なんかプールに顔つけるってもはや中学生以来なんだけど。あたしさあ、プールに入ることが嫌いなのではなくて、あれよ。」
「あれってどれよ。」
優子が思わずいつもの調子で鋭くツッコんだ。

尚はダルそうに
「泳いだ後の倦怠感とかさあ
温風がゆるゆるな施設のドライヤーで濡れた髪を乾かすことも気分下がるわよね。
ロッカーの床を濡れた裸足でベタベタ踏むこと
濡れた水着を持って帰ること
バスタオルの生乾き臭とかもさあ。
うああ、こう羅列すると、ますます嫌になるわ。アハハ、子供の頃なんであんなにも楽しかったんだろう。」
と尚が躍起になって言い放った。
「まあ最悪水中ウォーキングだけでもいいじゃん。しかも昔は好きだったんじゃん、そしたら好きな点も一つくらいあんじゃないの。」
優子は尚をなだめるのがとても上手い。

「んーそうね、好きなのは
泳いだ後のカレーうどんあれ小学校の頃好きだったあ。
泳ぎ疲れた日の心地よいあの入眠の感覚も最高よね。
でもいいとこってそんくらいじゃない?」
大きな尚の瞳が優子を見つめた。

「メリットいいとこつくなあ、てかデメのが多いじゃん。」
「多いね、優子今日はやめとくか、ハハ。」
二人して体を寄せ合いながら笑った。

「でもさでもさ、カレーうどんってわかるんだけど。しかも言われたら食べたくなったわよ。4月に恵比寿にできたネギカレーうどんの店最高らしいのよ。ねえちょっとプールの帰りに行ってみようよ。」
と優子が言った。
「あんたはいっつも誰情報なの!?まあ、でもネギカレーいいわね。カレーうどんはプールの後が一番美味しいのよ。あたし知ってる。しかも奇跡的に今日白の服じゃないじゃん!」
という尚に間髪入れずに優子が
「ボーダーだね。白とネイビーのボーダー、ギリアウトだけどまあ大丈夫か。」

「何のマウントよ。フハハ。」
「はいはい、で、うどんはプール行ってから行くわよ。もしかしたらあんたの好きなマッチョ系いるかもだし、小尻の。」
と優子がニヤつきながら尚に言った。尚は瞬き多めにこう言った。
「あらそう?私今、ノンケしか無理だから、ちょっとそれは期待してるかも」
さらにニヤつきながら優子が
「エッヘヘへ、今って期間限定なの?ほんとあんたって最高。とにかく今回は敢えてキメキメのブーメランパンツででいけば。」
「やめてえよ!セクハラ。あ、でも言われてみたらアリかもね、ちょっと今からゼビオ一緒に行くの着いてきて。」
とまんざらでもなくなった尚、そしてもうニヤついた目が細すぎて皺くちゃな優子、
「いいわよ、今日はあんたのために1日空けてるの。」
「もう、泣けちゃうわ。あんたは最高のビッチよ。」
「ありがとう。アンタには負けるわ。更衣室は別々だけど、寂しくならないでね。」
「アハハ、ほんとこう見えてアタシって人見知りだから大丈夫かしら。」
また体を寄せ合いながら笑いあう、ぶつかりながらも普通に歩いている。二人の二人だけの会話は途切れることなく、ゼビオへ向かう最中も続いた。互いのトークの掛け合いは見事にシンクロして、やはりナイスバディな仲である。

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