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2 海の嘆きを映すランプシェイド

 何年前だったのか、「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」展という美術展をみた。そこに知り合いのヨーガン・レールが参加していた。残念ながら展覧会の少し前に急逝してしまい、この展覧会が遺作展のようになった。
 ポーランド生まれのドイツ人ヨーガン・レールは、ナチュラルな素材の着心地のいい服のデザイナーとして知られ、「ヨーガン レール」「ババグーリ」というふたつのブランドを持ち、オーガニックな野菜中心のメニューの社員食堂はつとに有名だ。彼は石垣島に暮らしていて、海岸に流れ着く醜いプラスチックゴミや、ちぎれたゴムゾウリに日々心を痛めていた。
 亡くなる少し前に、ぼくはたまたまヨーガン・レールに会った。その時、清澄白河の本社の二階のレストランで、スタッフやぼくに桃を出してくれた。皮ごと食べられる桃はかなりの美味で、ひとりで食べてしまいそうになった。「早く食べないと、彼が全部食べてしまうよ」と微笑んだ。食にも敏感なヨーガン・レールは、自然農法の始祖である福岡正信の著作「わら一本の革命」の大ファンでもあった。
 この時、珍しくぼくを上の階に誘い、製作中の海辺に流れ着いたプラスチックから作ったランプシェイドを熱心に見せてくれた。その造形は目を見張るものだった。ゴミは新たな価値あるものに生まれ変わり、素敵な美しさを放っていた。同時に海の嘆きのメッセージを伝えていた。ヨーガン・レールの審美眼に驚かされた。

静岡新聞 窓辺 2021年


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