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『LIFE SHIFT2』の書評:      ライフシフトは、個人という「点」から、社会という「面」に展開するステージへ来ている

2016年10月にリンダ・グラットン教授らにより『LIFE SHIFT』(100年時代の人生戦略)が日本で刊行されてから5年の時を経て、2021年10月に『LIFE SHIFT 2』(100年時代の行動戦略)が出されました。
この5年間には、現在進行形の新型コロナ感染症問題をはじめとして、私たちのキャリアと人生そのものについて真剣に考える時間や機会が多かったのではないでしょうか?

そのタイミングで読むこととなった『LIFE SHIFT 2』から、いま私たちはどういう状況に置かれていて、何を考えることが必要なのか、そして何を学ぶことができるかを見ていきます。

本書のテーマ

本書で論じられている最大のテーマは、長寿化の進展とテクノロジーの進化を最大限に活かすために、個人社会がどのように行動するかです。
「はじめに」では、新しいテクノロジーと同じくらい、新しい社会のあり方である「社会的発明」を広く普及し、深く浸透し、大きな変革をもたらす必要があることが謳われています。

前著の『ライフ・シフト』では、人生100年時代が目前に到来していることを私たち一人ひとりが、まずしっかりと認識して、3ステージの人生からマルチステージの人生に意識を変えていく必要性が説かれていました。
それを本書ではさらに深掘りするために、テクノロジーの進化によって考えざるを得ない、「人間とは何か」という根源的な問いを考察の出発点としています。

また、前著が個人という「点」に焦点を当てていたものを、「関係」をキーワードとして、企業、教育、政府にまで広げた「面」としての社会変革を提言しているのが前著から進化している点です。

では、「人間とは何か」をどう捉えて起点としているのかと、「関係」をどのように社会に拡張して考えられているのかをみていきます。

■「人間とは何か」

本書で強調されているのはテクノロジーの進化です。となると、何がテクノロジーに取って替わられるのか(任せるのか)、代替されないのは何かを考えることになり、それが「人間らしい活動」を行う能力だと説いています。
具体的には、人と人とのやり取り、思いやりが必要な活動、マネジメントとリーダーシップ、創造とイノベーションなどであり、私たちはこれらの「人間らしい活動」をより高いレベルで目指すことが求められます。

これは、幸福とは何かにも関わってきます。
本書では、「幸福とは、みずからの可能性を開花させることだ。人生に意味を見出し、充実感を味わえる状態こそが幸福だ」というアリストテレスの言葉が引用されており、「人間としての開花」が本書に通底するキーワードになっています。
人間としての開花の達成基準として、「物語」「探索」「関係」が取り上げられています。
とりわけ、人生の幸福感と満足感に大きな影響を及ぶすのが、深くて豊かで長期間にわたる人間関係だと言及している点には共感しかありません。
特に、カップルのあり方が、「キャリア+ケアラー」型から「キャリア+キャリア」型に変わりつつあることと、コミュニティ(地域社会との関わり方と、さまざまな年齢層の交流など)を大切にすることに触れられていることが印象的です。

■「関係」をベースに考えた社会変革

前著が個人としての生き方やキャリアを中心に表されていたとするなら、本著では「個」から、企業や教育、政府のあり方へと「面」に拡大した考察がなされているのが特徴です。

先に述べたように、「関係」が幸福そのものと強い相関があることも大切ですが、テクノロジー進化と長寿化を所与として生き方をシフトしていくためには、個人の努力だけでは限界があり、その変革をより実効性のあるものとしていくためには、個人をとりまく環境の整備が欠かせません。
そこで取り上げられているのが、すべてではないにせよ、大きなインパクトを与えている企業、教育、政府の抱える課題と、これからのあり方です。

ビジネスパーソンの私が最も興味深く読んだのは、「企業」について書かれている箇所です。
著者の言いたいことは、おそらく次の3点です。

・年齢で区切ることをやめる
 入社年齢の多様化と、引退と生産性に関する考え方を変える

・垂直的昇進から水平的異動へと発想を転換する 
 キャリアの水平異動はキャリアの前進の一形態とみなされるようになる

・生涯学習を支援する
 終身雇用でなくなるのであれば、なぜ社員に生涯学習の機会の提供や投資
 をしなければならないのか、という意見が出てきそうですが、人手不足と
 いう新しい潮流に適応するには、 このスタンスや制度のない企業の競争力
 は失われる可能性が高い

1つ目は徐々にではありますが、日本社会においても浸透しつつあるダイバーシティ&インクルージョンに関わることで、実行が容易とは思いませんが、理解はしやすいです。
一方で、2つ目の垂直と水平の異動を同列か、ほぼ同等の意味があるとマインドセットを変えるのは、企業だけでなく社員にとってもハードルが高いのだろうと思います。ここでは深く言及しませんが、長く人事業務に携わってきている身からすると、既に垂直方向への昇進だけを唯一の成功の尺度とする考え方は破綻していることを本書では暗示しています。
最後の生涯学習は、自社で人材を囲い込むという発想がもう限界であり、開かれなければ生き残りすら難しい時代が来ていることを示しています。

「教育」のパートも、企業のあり方との連続性で読むと腑に落ちるものでした。ここでもカギとなるのは、多様性柔軟性、そして個別性のニーズの高まりです。
なにより感嘆したのは、教育を通じて育むべき人間的スキルについて書かれている次の文でした。
 
 批判的思考と仮説設定能力だけでなく、コミュニケーション、チームワー
 ク、対人関係スキルを身につけることが重要になる

ビジネスパーソンの能力として、前者ですら十分持てているとは言えない状況において、それよりも一見当たり前に必要だと思われている後者のスキルこそが「人間的スキル」であり、この能力を高めることは想像以上に難易度が高いです。
そしてここで挙げられているスキルこそが、ライフシフト時代で、仕事と学習を行き来する人生において、強い相互関係があります。

最後に

本書で著者が一番伝えたかったメッセージは何なんだろうと考えた時に、「おわりに」で書かれている次の文章に解があると考えました。

 人生を通してあなたがどれくらい人間として花開けるかを考えるとき、
 深く強力な人間関係が果たす役割は極めて大きい

個人から社会へとライフシフトの範囲を広げて考え、実行する時が到来しているのなら、本書はその羅針盤となることに、疑いの余地はありません。
その意味において、この本はまさに行動のための実践の書です。

世代を問わず、人生を戦略的に生きていこうとするあらゆる人にとって、必読の書です。


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