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悲しみよ こんにちは

いつだったか、ふと入った古本屋さんで手にしたこの一冊。
すっかり忘れかけていた。

ちょうど世の中が不穏な空気に包まれ始めた頃。
どうせ外も出歩けないし、もう一度読み直そうと引っ張り出してきた。
この時期、私の心はひたすらインプットを求めていた。外の世界を遮断して自分の中に色んなものを取り込んでいた時期かもしれない。
そして今それを吐き出しているのだろう。


「ものうさと甘さが胸から離れないこの見知らぬ感情に、悲しみという重々しくも美しい名前をつけるのを、わたしはためらう」

その最初の一文からすっかり惹き込まれてしまった。
全編に渡って17歳という微妙な年頃の少女の感情を、複雑に揺れ動くその得体の知れない感情を見事に言葉として表現したサガンの才能に脱帽した。
サガンはこれを書いた時18歳だった。
敵うはずなどない才能だ。

私はこの作品に出会ってからずっとこの物語の主人公であるセシルのことを想い続けていた。
私自身の17歳と言えば、彼女のようにキラキラもしてなければ、文句なく幸せだったとも言い切れない。勿論、彼女の身に起こったような出来事も起こらなかった。
でも、彼女が抱いたような焦燥感や嫉妬心、ぶつけどころのない怒りや絶望感。どれにも心当たりがあって思い返すたびにザワザワと胸が騒ぐのだ。

もしこの作品を10代の頃読んでいたらどんな風に感じただろう。もし20歳そこそこの自分がこれを読んでいたら、きっとセシルに対して腹立たしく感じたであろう。それほど彼女の犯した罪は重い。
だけど今の私には彼女の浅はかさはある意味眩しくもある。
父親の恋人であるアンヌの気持ちが痛いほど分かるようになった今だからこそ、より一層セシルの葛藤に寄り添いたいと思うのかもしれない。

自分ならあの時どうしただろうか。
セシルはその後どうしているだろうか。

考えても答えの出ない疑問が頭の中をグルグルしている。そしてそんなセシルの人物像は作者であるサガン、映画でセシルを演じたジーン・セバーグの人生にも重なっていく。この二人の辿った運命にも深く心を動かされずにはいられないのだ。だけどこれはまた別のお話。

私は考える。
私もこんな風に人の心にいつまでも残るような言葉を紡ぐことはできるのだろうか。人の心に届く何かを残すことができるのか。
ただ書き続けるしかない。それだけだ。

調べてみて分かったのだけど、私が持っているのはどうやら新翻訳版の限定カバーのものらしい。爽やかな水色がとても気に入っている。
河野さんの翻訳はとても読みやすくておすすめなので気になる方はぜひ読んでみてほしい。

小説はちょっと…という方は映画もあるのでこちらをどうぞ。
私も何度も観ました。


そして2月15日。昨年も参加した「成瀬の庭」での楽曲制作。
庭メンバーであるキソエムさん作曲の「セシル」が公開されました。
今回作詞を担当させていただきました。
書いている時は苦しくて仕方がないような気持ちでしたが、そんな弱い私の心もキソエムさんの優しい歌声に全てが許されていくような気がしてます。
音楽の力って不思議ですね。成瀬さん凄過ぎます!
こちらからダウンロードできるので、もし宜しければ一度聞いてみて下さい。


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