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フ●イ

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Fiction in Nonfiction.
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10/10

隣の乗客との距離は、大人1/3人程度だった。
途中駅で乗車してきた老人は、他の空いたつり革を無視して、その隙間に体を滑り込ませてきた。

1つのつり革を両手で握って背中を丸め、ぶらさがるように立っている。
1.5人分の空間を捻出したにも関わらず、体を大きく揺らして体当たりしてくる。

停車中も。

時折こちらを盗み見て、確認しては背中を擦り付けてくる。
なにも言わないことをいいことに、揺れ幅を大き

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9/28

背後の乗客が肩にかけている鞄が、気付くと脇腹に突き刺さっている。
朝の通勤ラッシュでは逃げることもできず、接触箇所を脇腹から腕へ変更することが精一杯だった。

電車が揺れでもしない限り、触れ合う混雑度でもない。プライベートゾーンは特に、他人に勝手に触れられたくない。
避けても避けても、狙ったように脇腹へ戻される。

もう嫌だ。

次に到着した駅で、その乗客は降りていった。
片側だけ歪な灰色模様の、

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9/25

帰りの電車内は、隣り合う者同士の腕が触れそうになる程度には満員だった。

定年退職間際の男性は、途中駅から隣に立っている。
正面の窓に、こちらのスマートフォンの画面を覗き込んでいるのが映っていた。咳払いを2,3度しても意に介さず、覗き込んでいた。

嫌だな。

こちらのプライバシーをなんとも思わないのか、隣のくそおやじは時折目を擦りつつ、他愛のないニュースを開いたままの画面をまだ覗き込み続けていた

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