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旅不慣れな私の旅行記2

誕生日のお祝いに、母から「ランチに焼き肉を食べに行こう」と言われた。

誕生日2日前位に言われ、その時はOKしていたんだけど。

何で焼肉なんだろう…。
あんまり焼肉食べたくないな。食べるならお茶漬けが良いな。と思い直す。


私の大好物はお茶漬け。小さい頃からそう公言している。
大学の頃は京都にお茶漬けバイキングがあるとご厚意で友人たちによく連れて行ってもらったものだ。これがまた面白いことに、それぞれ違う友達が連れて行ってくれているのに、お店は見事に同じ場所だった。
それくらい有名で美味しいところ。その想い出のおかげで私の中で京都はお茶漬けの街となっている。

そこに行きたいな、と思い前日に母へ焼肉中止を宣言。

私「焼き肉は中止です。京都のお茶漬けバイキングへ行きたい」
母「行ってらっしゃい!」

どうやらついては来てくれないご様子。
いいさ、別に。
私はこの前1人で有馬に行った女よ、と意気揚々と誕生日の朝早くから電車に乗った。
一度行ったことがある場所だし、京都は何度か行ってるから大丈夫!と高を括ったのが間違いだった。
前途多難の誕生日1人旅幕開けである。

京都河原町に到着したのは9時40分頃だった。
目的のお店は清水寺の近くにある。
歩いて20分ほどで到着する。

ただ、ここで1つ私は爆弾を抱えていた。

トイレに行きたい…。

なんだって今?何だって駅出てから催すわけ?

10時開店の店が多いから百貨店系のお店にも入れないし、こういう観光地のお土産屋さんや近くのコンビニはトイレが無い。貸してたらキリないからな。私もそういう店で働いてたから分かるよ。

まぁ、我慢は慣れている。とりあえず向かうか。

さて、どっち?あれ?私の記憶と違うな。
八坂神社って、河原町の駅出たら目視できると思ってたのに?
マップを開いて見れば見事に逆方向を歩いていて、タイムロス。

正月らしいお琴のぺん、ぺぺん、ぺん…というなんて曲名か知らないけど料亭でかかってそうなのんびりした音楽を悲しく聴きながら私は踵を返す。

そうか、八坂は鴨川の先か…。


なんか今見たらアオサギが写ってくれている

鴨川の橋を渡りながら茶色の丸いシルエット、レストラン菊水を見つめる。


とろんと丸い


私の大好きな作家さん、森見登美彦さんが小説内で確かあの建物の描写を書いていた、ような、そんな曖昧な記憶。
タイトル忘れたけど、その表現を読んで「あぁ、あの建物の事かな」って大学生の頃数回しか行ってない浅い京都の記憶から引っ張り出せた。
すごい表現力だなって、怖くなった。

ちょっと旅行記から話がずれるけど、私が初めて森見登美彦さんの作品を読んだのは大学生の頃「夜は短し歩けよ乙女」だった。文庫本になっていて、プロローグを立ち読みした。
その時、衝撃を受けた。
その語り口調、音の感覚、軽やかさ。

ほんっと、ほんっと失礼な比較します。今から。すっげぇ失礼なことも書きます!
でも、私の素直に思ったことは…


小学一年生の頃の、私の文章そっくり…。


全然違いますよ、全然ね!格が違いますよ。分かってますよ。
だけど、直感的にそう思った。懐かしいって思った。
小学一年生の時に『せんせい、あのね』って言う先生との交換ノートみたいなの、ありませんでしたか?
私は初めてあれを書いた時、「せんせい、あのね」から始めるルールそのものを知らなくて、文章で自分の事を書く術もよく分かってなくて。音とかリズムとかを気にして書いていた。その時の雰囲気にとてもよく似ていた。特に乙女の語り口調が。
だけど、すぐに私の文章は先生に直してもらうことになった。
「書き方を覚えましょうね。こうやって書くのよ、せんせい、あのね、今日はおうちでこんなことをしたよ、学校でこんなことしたよって。書いてごらん」
私は間違っていたんだって恥ずかしくなって、そのページを破ってなかったことにしたな。

だけど今から思えば、要らんことしてくれたのぉ、先生!
そこ伸ばしてたら私今頃どうなってたか!
ちょっと芋づる式に思い出したからもう1個。
私小学校1年生の時に魚の絵を描いて塗って、それが選ばれて市の大きな図書館に飾られたことがあった。魚の大きな目と色とりどりの鱗。当時の私は選ばれたことや飾られること、それが凄いと思わなかった。楽しく描いて塗っただけだったから。よく分かってないけど、私の絵が飾られてるらしい、お父さんもお母さんも嬉しそうだ。良かったなって程度に思っていた。
そして母とその展示されている絵を見に行って、母が一言。

「いやぁ、でも、魚はこんな色してないのにねぇ」

そんな色してないのにこうやって塗れてすごいねって、ニュアンスだったらよかったんだけど、なんか小馬鹿にしたような言い方で、私はまた”間違った”と思ったんだよね。
その瞬間、目の前に飾られている私の魚を外してほしいなって、心の底から思った。
そこから私は図画工作が分からなくなった。正解が分からないから中途半端なものしか出来なくて、母には「この子は工作向いてない」って思われている。
要らんこと言ってくれたのぉ!母よ!!
全く!!どいつもこいつも小さい子の才能潰してんじゃないよ!

なーんて、思ったりするけど、結局辿り着く私はここなんだと思う。
というか、子供はみんな天才だもん。
それ潰すって決めるのも子供自身だし。

私は周りの大人に合わせる事を選んだんだ、それが私の本能だったんでしょう。

だからこそ、今やっと大人になった私は誰にも合わせなくてよくなって人間が楽しくなってきたんだ。

楽しいばっかの道のりじゃ、この楽しさは分かんないよね、きっと。

レストラン菊水から随分と話がずれてしまったな。
とりあえず、そんなこんなで私は森見登美彦さんの作品が大好き。
1度講演会にも行ってみて、やっぱ感覚似てるなぁ、と思ってみたり、何様だよ、と思ってみたりしながら聞いていた。確かその講演会最後に抽選でサイン入りの本が当たるっていうのがあったんだけど…残念ながら当たらなかった。似ている私達…もしかしたら、なんて思っていた自分がいて「おぉ、私、結構ヤバいな、幸せ過ぎる脳みそが搭載されてるわ」と笑いそうになった。
私の現実ってこういう感じ。甘くもあり苦くもあり、自分の考えと想像と妄想が現実があるおかげで浮き彫りになってそれが恥ずかしくもあり誇らしくもあり…。あー人間、楽し。


さて、話を戻して・・・。
トイレを我慢している私は一心不乱に八坂神社を目指していた。
八坂神社にぶち当たったら、今度はそこから大きな道路沿いを清水寺の方に上がっていく。
道路沿いはお土産屋さんよりも着物のレンタル屋さんが多く、古いおうちやお店が立ち並んでいた。昭和の田舎みたい。祖母の家が和歌山にあり、なんとなくその雰囲気にも似ていて親しみが持てた。
途中ふらっと路地に入りたくなったりしたけど、目的地に着くことを優先したため我慢。あぁ、入って見てたかった、写真も撮りたかった…。悔しい。
と、そんな風に2重、3重と我慢をしている私の脳内は気楽な一人旅から一変。
鬼気迫る遅刻間際の出勤のような足取りで京都の町を急いだ。
グーグルマップを見ながらずんずん進む。
清水寺付近になるとお土産屋さんや風情ある石畳に変わり、観光客もたくさんいた。
そしてついに途中で見たことある道になり、

(ここからやったらいける!)とマップを仕舞って写真を撮りつつ階段を上がっていく。
しかし、階段を上がりきった先には、全然知らない風景が私を待っていた。

アレ?
この階段の途中にお店あったような?
アレ?アレー?


マップを開くと、さっきまで近くにあった目的地がズーンっと線が伸びていた。この時の絶望ったらない。


えーー、なんでよーー。


泣く泣くマップを見ながら進む。


あぁ、はいはい、なるほど。


完全に行き過ぎてた。方角も間違えてたね。


なんとか到着した時には10時15分。
そのお店は11時開店で、10時から予約ボードに名前を書くシステム。
もっと早く到着して、予約を取って、優雅に清水寺とか巡るつもりだったのに。
とりあえず、予約とれたし、いいか。
ちなみに私の前には既に10組ほどの予約が書いてあった。
私が学生の時から賑わっていたお店だけど、未だ健在。素晴らしい。

さて、次は…。



トイレ、探そう…(遠い目)



お土産屋さんは絶望的だしな…。
一軒、お客が少ないお香のお店があった。香りにつられて入店し、しゃがんで品出しをしていた市松人形のような雰囲気のある店員さんに声をかける。


「あの、」
「…はい」


声が怖い、もー、ちびるかと思った。めちゃめちゃめんどくさそう。

でも、聞かなくちゃ。私の、人間の尊厳に関わる…。


「あの、この辺りでトイレ借りれる場所ってありますか?」


そう聞けば、お姉さんは急に優しく公衆トイレの道順を教えてくれた。

お礼を言ってから外に出て、店員あるあるだ、分かる分かると同調。

こういうお香とか、専門的なお店へくるお客さんって長めの接客を求める方が多い。カウンセリングみたいなのをしてほしい方が多い。観光地っていう分母が大きい店で店員だって人間、うっとおしく思う時あるよね。業務立て込んでたら特にね。だから、第一声に予防線はっとく。私は優しくないですよって。だけど、すぐ終わる案件だとパッと店員さん雰囲気変えてその人の本来の人柄で教えてくれる。
あー、分かるよー。しんどいよねー。

こんなに人が多くて国も色々で。
私、ここでは勤められないなぁ、と思いつつ急ぎ足でトイレへ。


〇
神様、ありがとう

公衆トイレってドキドキするよね。
汚れてたらどうしようって。
わりかし綺麗だったので、今回はホッとした。
トイレットペーパーは散乱してたけどね。散り散りのペーパーが散乱してたけど、時々あるけど、あれは一体どういった経緯で?

やっとトイレが行けて落ち着いた私は、先ほどのお香のお店に戻る。

入店するとさっきのお姉さんはお上品な老夫婦に話しかけられていた。
しかし店員さん、相変わらずしゃがんで品出しして声かけても答えないからオーラが凄い。

奥様「だとしたら、え~、じゃ、どれかしら、どれがいいのかしらねぇ?(チラッと店員さん見る)」
店員「……(しぶしぶ目線をやって)…柑橘系ならスッキリしますよ」
奥様「(旦那さんを見て)スッキリって、どの程度なのかしら。どの程度なのかしら~?(店員さん見る)」

カウンセリングしてもらいたいけど、店員とあまり話したくないお客と話しかけられたくない店員…。
うわ、どっちの気持ちも分かるわぁ…と遠目に見つつ、私は薫り袋を探す。

友達に目がほとんど見えなくなってしまった人がいて、その人にいつか香りのお土産を渡したら大層喜んでくれた。お香のお店でその人の顔が浮かんだのでお土産を選ぶ。喜んでくれたらいいな。


京都の街に来たのは久々だけど、つくづく、京都は上手いなぁって思った。
どのお店もバズリそうなものやキラキラ目を引くもの、気になるキャッチフレーズをふんだんに使っている。
古き良き建造物に囲まれた、最先端の話題提供地…。
凄いわぁ、上手いわぁ…。

色んな国籍の方がひしめき合って、距離感バグった位置取りで各々が写真を撮る。
全体的に活気があるけど、お店の中の店員さんは全体的に萎れ気味な印象。
これだけのエネルギッシュで情報過多の場所に居たら、そりゃ疲れてしまうだろうなぁ。土地の歴史もオーラもやっぱ関係あるのか?知らんけど。


阿古屋茶屋さん


今回どうしても行きたかったお茶漬けバイキング店。
こちらは最初店員さんがまさかのワンオペ。
11時開店間際には店前に予約をしたお客様が沢山いて、2組ずつ店員さんに案内されての入店。
これが普通なのか、店員さんは手際が素晴らしい。
ただ、外に待っているお客の間で「え?店員さん1人?」とざわつく。

中には厨房に1人とかいるんでしょーって思ってたけど…。厨房にも居ない。
私はちょうど厨房が少し見えるくらいの位置に座ったんだけど、全く物音もしない。
えー、すげぇな。

初めての来店から随分久しぶりだから、ワンオペにも関わらず少し説明を頼むと店員さん超優しく教えてくれた。
それで、ワンオペがイレギュラーじゃなく通常営業であることを悟る。

急遽のワンオペでここまで冷静に対処出来ていたとしたら…。この店員さんマジで凄い。

お味噌汁とかお茶の変更(最初はみんなほうじ茶を提供されるが途中から煎茶に変更も出来る)とか…出来るかな。ちょっと気を使うなぁ…。

20組くらい入れる店内で、まだまだ外では案内を待っている人がいる中、同じ接客業として少し申し訳なくなりながらバイキングを始める。


ほうじ茶、マジで美味しいんですよ
味噌汁の最中も最高です。


綺麗にはね、盛れないんですよ。こういうのは。


どのお漬物もわりとアッサリしていて、後を引く辛味とかしょっぱさは無く軽やかでさわやかで美味しい。特に梅大根?しそ大根?これ、美味しかったぁ。
ご飯もふっくらで美味し。最初はノーお茶漬けで食べ進めてしまったよ…。
2杯目から(あ、お茶漬け…)って思い出したくらい没頭して漬物とご飯をシンプルに楽しんでいた。

私の隣に座っていた方もお一人様で、バンギャ系の女の子で、こういう子も一人でお茶漬け楽しむのかぁ、意外…って凄まじき偏見だけど、なんかきゅんとした。スマホ見ながら食事してる感じは休憩室で見る従業員的な雰囲気を感じたけど。
隣はカップルさんで、こちらはこちらでご両親に挨拶に行くや行かんやの話をし始めて、その後同棲したら家賃補助はどうなるかなんやみたいな話になり…。大人しめの彼氏さんがマジトーンで「お前大事な話してんのに、何お茶漬け食ってんの」って言い出して…

お茶漬け食う所だけども…。と心の中で突っ込んでしまった。

そしたら、ギャル系の彼女さんは「ここ、お茶漬け食べるとこなんだけど~。てか、このきゅうり取り過ぎた、飽きたー」って言い始め…

お、ケンカする?ってヒヤヒヤしてたら、急に彼氏さん「飽きたって何。たべろよちゃんと、もー。」って軽いノリに戻って2人でイチャイチャ食べろ、無理、食べろよー、食べて―、俺に食わす気かー?だるー。みたいな会話を始め…。


凄いなぁ、カップルって…。って心底思った。


会話がジェットコースターなんだもん。時々すごいテンションでイチャイチャするカップルも目撃するけど、それは仕方ないよなぁ。コレ、凄い会話してるわ。面白すぎませんか?あなた達。


そんな面白い両サイドに囲まれて私はどんどん食べる。
30分程したころ、別の店員さんが出勤されて、ホッとした。多分、店内にいる感覚の鋭いお客様全ての人が安堵した。でも、2人には変わりない。結構な数を二人でさばくのは至難の業。
でも、ここで私は心優しいお客様たちの気遣いを目撃する。

店員さんはどうやらレジのところが定位置で裏に行ったり表に出たりと動いていた。
普通飲食店だったら手をあげたり「すいませーん」って店員さんを呼ぶシステムだけれど、バイキングと言う事でお客様は立つことに違和感が無いみたい。なので自らお茶の変更やお味噌汁の変更、お湯の追加などお願いするために店員さんの所へ歩いて行き要望を伝えていた。
そして、店員さんがサッと用意してくれたお椀や茶器をそこで受け取って自分の席に帰って行っていた。皆が皆歩いて店員さんの手間を省こうとしている雰囲気があって、「あーーー、良い店」って思いながら私も倣ってお味噌汁と煎茶に変更させていただきました。


満足してお店を出た後、八坂神社で今年初めてのおみくじをひく。
詳細は覚えてないけど、面白かったのが

「霧の中でも八坂の荘厳さは変わらない。信じて進め。そこには素晴らしい未来がある」というメッセージ性が高いお言葉。小吉。いや、小吉かいっ…(笑)
でも、よく分かるな。今の私にぴったりの言葉だ。

ふふふ、と笑いながら重たいお腹を撫でてから兵庫へと戻ったのだった。


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