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治安と緊急事態を知る (旅程を組む・その2)


「あの国は海があっていつものんびりとしていて、いいよね〜。行こ行こ!」と、そのご自慢のフットワークで軽々と訪れたら、現地はトンデモないことになっている。……なんて事態を否定できないのが昨今の世界情勢だ。

突然の天災で深刻な被害に遭っていたり、クーデーターが起こっていたり、ストライキで移動できなくなっていたり、テロリストたちの標的になっていたり、標的じゃなくとも潜伏先になっていて何かと物騒になっていたりするかもしれない。大量の移民が流入していて観光どころじゃなくなっている可能性もありうるし、宗教紛争が起きているかもしれない。政策の失敗で急に治安が乱れたり、それによりデモが行われていたりして街中が騒然といるかもしれないし、疫病が発生しているということもありうる。

とにかく、これは日本もしかりなのだが、半年前の平和な状況が一変していてもおかしくない。そんな明日をも知れぬ状態なのが、今の世の中なのだ。

とりわけ日本の海外報道というものは、欧米偏重で、扱われる国によって情報量に大きな偏りがあるのが特徴だ。その国がのんびりとしたイメージのままだったのは、単にそうした観光情報だけ与えられていたからで、その国の情勢についてのニュースがあまり報道されていなかったということもありえる。
たとえすごい政治動乱が起こっていたとしても、日本ではほんの小さく、誰も観ないような時間帯のNHKニュースのショートコーナーや新聞の隅でしか扱われてなかったりして、行ってみたら銃を持った連中(しかも軍人だけではなかったり)が、ウロウロしていることも大いにありうるのだ。

そんな事態を避けるためには、候補の地域が上がったらまずは治安をチェックだ。
外務省の「海外安全ホームページ(http://www.anzen.mofa.go.jp/)」を必ず確認してほしい。危険情報と感染症危険情報を以下の4段階に分類していて、パッとみて非常にわかりやすい。

「レベル1:十分注意(十分注意してください)」
「レベル2:渡航の是非検討(不要不急の渡航はやめてください)」
「レベル3:渡航延期勧告(渡航はやめてください)」
「レベル4:退避勧告(退避してください。渡航はやめてください)」

さらにそのホームページ内の「広域情報」では、その国の大まかな情勢や伝染病などの情報を報じており、「スポット情報」では、細かな犯罪情報や注意喚起をしてくれる。地域別に細かく状況が説明されていると、同じ国の中でも問題ない場所と危険な場所がよくわかるので、事前にかならず調べていこう。


特に日本政府から「退避勧告」が出ている場所に行くなんてもってのほかだ。
興味本位で絶対に行かないでほしい。武装勢力による内乱、武力衝突、そんな言葉が新聞に毎日踊っている地域。もう現地の政府機能が死んでいるわけである。こんな所は「トラブル」なんて軽いものは存在せず、「死」がいつも隣り合わせだ。それも「殺戮」というレベルの。
日本の在外公館さえ緊急閉鎖して周辺国に避難したりする場合も多いので、突然の紛争が勃発したりと何かあっても出国支援さえ求められない。もちろん、現地警察も機能してはいない。交通機関もストップ。もう、その国から逃げ出す手段すらないのだ。
「退避勧告」とは、とにかく空前の緊急事態だ。プロのジャーナリストでもない君が、武勇伝を作りに行くなんて愚かなことは決してしてはならない。そうではなく、純粋な知的好奇心だったとしても、混沌としている地域ではどうしても経済は壊滅状態であり、そこにのこのこやってくる外国人は資金源そのものだ。自分の財布を巻き上げられるなんて可愛い話ではなく、身代金として一生かけても返せないほどの恐ろしい額が君の首にかけられて、日本政府に要求される。君のために多額の血税が投入されて引き渡されればいいが、交渉が失敗した暁にはお役御免で殺される可能性も高い、というのを忘れないでほしい。

レベル3、2である、「渡航延期勧告」「渡航の是非検討」のときも、上記の状況と大差ないかもしれない。ほとぼりが冷めるまで行くべきではない。現地の日本企業などの駐在員たちが帰国させられるのがこのレベルだ。ツアー会社も企画を中止する。明日、一気に状勢が最悪化しないとも限らない大変危険な状態を孕んでいる。

「十分注意」になっているときは、自己責任で慎重に。犯罪が多発していたり、内戦まではいかないがデモなどがあるレベル。デモと言ってもしおらしく行進しているわけでは必ずしもない。いつ治安部隊と衝突してもおかしくないといった状況もある。
また数は少数だが、日本との国交が樹立していたいないため、在外公館が置かれていということで「十分注意」を報じている場合もある。その場合、何かあっても駆け込める場所がないということになるので、事前に確認しておいたほうがいい。

とにもかくにも旅慣れていない人の場合は、「十分注意」レベルでも止めておいたほうがいいと思う。注意が喚起されている場合は、今回はたまたまご縁がなかったと思って諦める潔さも旅には必要だ。大事なことなので何度も言うが、執着は命取りになるのだ。
なので基本的に、こういった4段階の勧告のない地域に行ってほしい。と言っても、勧告がないとしても犯罪がゼロなわけではない。何度も言うが、日本と同じ気分ではいられないことを常に注意していてほしい。


また、このように刻々と状況が変わりつつある昨今。渡航中に緊急事態に陥ったときはどうすればいいのだろうか。上記の「海外安全ホームページ」と併用して、「たびレジ(https://www.ezairyu.mofa.go.jp/tabireg/)」への登録をお勧めする。
これは、旅の日程や地域、メールアドレスを登録すると、旅行先の在外公館の連絡先などの「お役立ち情報」のほか、旅行先の「海外安全情報」が君のメールアドレスに配信されるというもの。もちろん、無料だ。
また大規模な事件や事故が発生した場合、外務省からの安否確認などの緊急連絡を受け取りやすいと言えよう。登録しておけば、家族や職場にも配信されるので、いざというときの初動の助けになる。

たとえレベル1以上の危険地域に行かなくとも、どんな国に訪れるときでも、ここに登録しておくことをお勧めする。フランスのニースでバカンスしていても、バリのディスコで踊っていても、テロが起こる時代なのだ。
たとえまだ具体的に旅先が決まってなくて旅行を漠然と考えている人は、各国の情報だけはメールで受け取ることができるので登録しておくといいかもしれない。

また外国のサイト「VISION of HUMANITY(http://visionofhumanity.org)」では、最新の「平和な国ランキング」や「テロの危険度ランキング」を表示してくれている。英語が読めなくても、マップで気になっている国のランキングを見てみるのも一つの手段だ。


それにしても昭和な女はつい、夕日を見ながらボヤいてしまいますが……。
昔は、ホームページなんてほとんど情報がなかったので、旅人同士は宿や観光地で出会うと、かなり積極的にお互いの旅の経路を質問しあって情報交換をしていたものだった。
「あの地域はちょっと女性一人はダメだって話だよ。最近もドミトリーでレイプがあったって」とか「あの街は大丈夫だった。待って、今僕が泊まった安くて安全な宿の名前教えてあげる」など。「あの寺院はどのガイドブックにも書いてないけれども先月から外国人だけ参拝料とることになったよ! しかも高いんだよ!」などいろいろ。生きるために必死で情報を取りに行ったものだ。
そうしたやりとりから英語力もアップし、さらに交流も始まって翌日みんなで観光したり、飲みに行ったりとか、楽しいことが始まるきっかけになることもあったんだけれどもね。

しかもインターネット! なんと私はネットのない時代から旅をしていたと書くと、つくづく年齢を感じて嫌になるのだが、確かにない時代は情報収集は大変だった。ガイドブックもなく、あまり日本人観光客が訪れないような情報を取得しにくい国などは、日本駐在のその国の大使館や情報センター(マンションの一室だったり)に行って、わざわざパンフレットや資料をもらいったりしたものだ。
海外にいながらも、現地の日本大使館に電話して「今ヨーロッパで、これからそちらの国に入るのですが、現在どこか危ない所はありますか⁉︎」なんて、公衆電話から聞いたこともあったっけ。めっちゃくちゃ電話料金かかったなぁ。つくづく便利です、インターネット。

また、今でも見かけるけれども、各宿屋には大抵フリーのノートが設置されていて、みんなが自分たちのその目で見てきたナマの情報を書き込んで注意喚起し合ったりしていた。安い定食屋情報や周辺各国の治安やオススメのパン屋さん、マッサージ屋さん、流行りの詐欺の手口などを交換していたものだった。
例えば宿屋のノートには、日本語で「この文章を読んでいる人。特に女性は顔色を変えずに読んで。この宿の主人はエロくてヤバいから絶対に気を許すな! 一緒にどこかに行こうと誘われても絶対断ること!! お酒も一緒に飲んじゃダメ! もしもこの文章について『なんて書いてある?』と主人に聞かれたら『とっても親切な主人だ』って答えて」ってなことも何度かあった。
このように書き込むことで相互に身を守っていたのだった。考えてみれば不自由だったけれども楽しい時代。そして今ほどテロの脅威もなかったし、異常気象でもなかったし、そうそうレッドマークがついている地域は少なかったのかもな……と思う。

さて昔話はほどほどにして、今はインターネットでどんどんと生きた情報が得られる時代。上記のホームページや個人のブログなどを活用していこう。
このように地域、天候、シーズン、治安など。あちらの情報をある程度集めたところで、今度はこちらの状況、つまり懐具合で渡航可能かが絞れてくる。なにより大事な物価……つまりおサイフ問題については、また話が長くなるのでまた別のところで。

無理することはないのだ。このようにして、夢が広がる候補地をたくさんリストアップしていって、今回行けそうなご縁のある土地を消去法で探し出せばいいんじゃないのかな、と思う。



ここまで読んでくれただけで、うれしいです! ありがとうございました❤️