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The New York Times の仕事 その2

The New York Times の仕事 その1https://note.com/makoto_funatsu/n/n8620d7e50441
の続きの話です。

私が担当したNew York Timesの記事はこちら
https://www.nytimes.com/2020/05/05/science/antarctica-byrd-distancing-expedition.html

さてラフを描きます

折角のNew York Timesからのイラストの依頼受けたにもかかわらず、私はいろいろな要素に不安を感じ、朝方5時頃 なんとか頭を抱えながら英語の長文の記事を読んでいました。そこへADからもう一つメールが届きました。

「言い忘れたけど、できればこのシーンを描いてほしい」という指定でした。

わー助かった!と私は思いました。おそらく先方はコンセプチュアルよりも風景画を描いてほしいのだ、とそれで理解できたからです。
不安に感じていたアイデア出しの要素が解決しました。それに伴って、英文を隅から隅まで読まなくてもよくなったのでだいぶ気が楽になってきました。

今回の記事の内容は、現在のコロナ禍の状況を、リチャード・バードという探検家が1929年 南極で一人で孤独に奮闘し過ごした 約4か月半の日々になぞらえて、私たちのソーシャルディスタンスはあれよりはひどくはないはずだと説くものになっています。その中で一行だけですが、バードはそんな日々の中でも南極の美しいオーロラに心奪われる ひと時もあった。と書かれていて、その印象的な部分を絵にしてほしかったようです。
早く言ってよ~。

こうなったら勢いでラフを描くしかない。そう思いつつも南極と北極の違いも分からない私です。地道に南極の風景、リチャード・バードと当時の基地のこと、オーロラのことなど資料を集めました。
そして、描いたのがこのラフです。

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南極は山と雪くらいしか風景の要素が無いので、またオーロラを引き立てるためにも構図はある程度決まってしまいます。バリエーションとして、人がいる、人がいない、人が大きく入るくらい変えてみようかなと思い、今見ると恥ずかしいですが あまり変わり映えのしない3点を描きました。これなら1点にまとめたほうが良かったかもしれませんね。

記事を翻訳しながら読み、資料を調べているうちに何時間たってしまいラフを仕上げたのが、そろそろラフの締め切りに近くなっていたので、恥ずかしげもなくそれをADにメール添付して送りました。そして、寝ました。

ラフの修正で知ったかぶりして恥をかく

少し仮眠して起きると返信が来ていました。いくつか修正があるようでした。
「スケッチありがとう。Aをもっと青くして、カーブの代わりにBのように山をいくつか追加してほしい。それから...」

メールの前半部分の修正は理解できたのですが、後半部分がどうも理解できませんでした。
そのメールは守秘義務というか、そのまま引用が出来ないのですが、その英文を翻訳ソフトを通してしてみると

オーロラはもっと空を横切って真ん中を撃つようにした方が綺麗に見えるのではないでしょうか?

ん…?
空を横切って…真ん中を撃つ??
えーと…
はいはい、オーロラが地面に食い込むくらいに縦に勢いよく構図に入るってことかな?
私はそれくらいのラフの修正なら簡単だ、と手早く修正しラフを再度送りました。

すぐにADからまたメールが返信されてきました。
「ありがとう。しかし、前にも言った通り、オーロラは横に向かっていた方がいい。縦だと雷みたいに見えるから」というものでした。

うわー恥ずかしい!!そういう事でしたか!!
私が雷に打たれたかのようなショックで、取り返しのつかない失敗をしたかのように感じました。

私は修正がいくつかあることに焦って混乱してしまっていたようで、勝手に推測してラフを修正し、2度手間にしてしてしまいました。やっぱり英語でわからない表現があったら、素直に相手にもっと簡単に説明してほしいとお願いするべきでした。

落ち込んでばかりいられないので、ラフをまた修正し素早く送り返しました。気分は壮絶なテニスのラリーです。

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こちらの二回目のラフで一応OKをもらいました。
本番の制作に入ります。

私の制作の方法

私は普段アクリル絵の具で最後までキャンバスに描いて仕上げているのですが、仕事で依頼されて描く時は締め切りなどの時間の制約があるため、最初にキャンバスで描きそれをスキャンして下地にし、途中からデジタルで加筆しています。

その前にラフを詰めていきます。
キャンバスの大きさにリサイズして、オーロラや人、山などの形を詰めていきます。

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そして、キャンバスに下書きをして手早く塗っていきます。
色調補正をする前ですが、下のような感じです。
オーロラはほとんどデジタルで描くつもりなので、アタリ程度でいいと考えていました。キャンバスの目や絵の具の塗りの感じを残して仕上げたいところです。ここからデジタルの加筆に入ります。(最終的にアナログの風合いがデジタルの加筆によって消えてしまうことが多いので、この過程が必要なのかどうかいつも迷います。。)

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そしてPhotoshopでオーロラを描き始めます。
ここにきてオーロラの描き方に迷いが出てきます。あまりにもとらえどころがなくて、かなり描きにくいものです。
オーロラを実際見たこともありませんし、いったいどういう仕組みで発生するのか、私は調べても理解できませんでしたし、いつも描いているモチーフとは全く違うものでした。
日本で見られる自然現象で一番近いのは虹だとでしょうか。それ自体が発光していているように見えて、影が出来ないのでそれが難しく苦戦しました。
雲も形がふわふわしてとらえどころがないのが似ている気がしますが、雲は光が当たって影ができるので量感を表現しやすくて楽です。
ずっと描いては消して描いては消してするうちに、イラストレーションにするなら、写真のように描くのではなく、ある程度デフォルメして描くべきだなと気が付きました。自分なりに処理して描いていいはずです。
私は本物よりも下のエッジをはっきりと描き、たなびくカーテンのようにしました。若干、影も少しあるように、と自分にとって分かりやすく描けば楽なんだな、と描いているうちに気が付きました。
ここの過程が私にとって一番難しく、一日半ほどかかってしまいました。こうやって一人で苦しんでいると、自分は全く孤独だなと感じますね…。

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まだまだ、オーロラを描いていきます。
平板に見えるので、もっとボリュームを出し、流れを感じるようにアクセントをつけていきます。レイヤーを重ねて透明度を調整することによってオーロラ特有のボケた感じが出たと思います。
あとは周りも含めてを仕上げていきます。

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空に星、オーロラに紫の色を加えました。また山と人のディティールを描きこみます。そしてここから各部分の調整に入ります。星が目立ちすぎないように。山が沈み込みすぎないようになど、色調と明度の調整を繰り返して、繰り返していきます。また、形やエッジの修正も繰り返します。
煮込み料理やカレーなんかを作っていると、長時間 味の調整をしていて、味見をしすぎてよく分からなくなることがありますよね。そんな感じで もうこの時点では冷静に絵を見ることが出来なくなります。
そんな時はもう、一回仮眠しますね...。

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起きて、もう一度見てみるとこれで良さそうなので、これで終わりにします。でも、本当にこれでよかったのか、もっと違う構図もあったのではないかなど迷いが出てきますが
締め切りも近いので、無念ながらもデータを先方にに送ることにします。
また修正が沢山あるのを覚悟して。

こわい!どんな反応なのかこわい!!
怖すぎるので、また寝ることにしました。



緊張でうなされて浅い眠りから起きると、ADから一行だけのメール返信がありました。

「OK. It's lovely!」


えっ...!本当に?
これで終わりですか?

ありがとうございます。もう一度寝ます。

スマホでメールを確認して今度は深い眠りに落ちました。
イラストレーターの仕事というのは、相手の反応次第で長引くこともあれば、糸が切れるようにプツリと終わることもあります。
仕事が本当に成功したかどうかは、自分ではいつも判断できないのですが、今後また同じクライアントが私に再度依頼してくれることがあれば、大成功ということに間違いありません。
お願いします。一生の内、もう一度くらいはNew York Timesの仕事をさせてください。どんなにハードでもタイトでも光栄すぎる仕事でした。
イラストレーターやっていてよかった。。

イラストを依頼された経緯

一日後、ADの人に紙面を送ってもらえた。もう発行されるとはすごいスピード感だと驚きました。一面じゃなくて中面ですが、かなり大きく使ってもらえたようでした。

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ADはRodrigo Honeywellさんという方です。
この人はどんな人なんだろうと、後日検索していて分かったことですが、
この人は、先日審査が行われたアメリカのコンペAmerican Illustration 39の審査員でした。
私もそのコンペに作品を出品しており、chosenという佳作みたいなものに選ばれました。恐らくタイミング的にそこで見てもらって、覚えていただいてたのか、今回仕事につながったと思われます。
アメリカのコンペは沢山の有名なADが審査員を務めているので、賞をとる目的だけでなく、仕事にもつながるようです。
なので、海外のお仕事したい人はどんどん出したほうがいいです。

あとは、翻訳ソフトはまだまだフリーのものだと翻訳が完ぺきではないので、がんばって英語の勉強をするべきですね。私も継続して勉強したいです。

長々と読んでくださってありがとうございました。



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