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著者、たつき諒は津波の予知夢の中で死んでいる【『私が見た未来』(完全版)分析】

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(この記事は2021年11月8日に書き始めた。)

『私が見た未来』とは

『私が見た未来』は1999年に単行本化された、たつき諒という漫画家が描いたもので、表紙に「大災害は2011年3月」と書かれていることが、東日本大震災の予言的中と話題になった。

話題は2019年ごろ著者の偽物が現れて、いろいろ主張し始めたことから盛り上がったらしい。私にも去年(2020年)以前から、この話は見覚えがある。

内容は津波に関することが主で、その時(執筆した1996年当時)は災難の時間も場所も分からなかった、という(『完全版』10、48ページ)。他に、殺人事件、フレディ・マーキュリーという歌手の死、ダイアナ妃、親戚の葬儀の道、友人の失恋などを予知した(尾崎豊、阪神淡路大震災、コロナウィルスは書いてない。偽物によるガセか?)。

津波の夢は10代の頃から見ていた(『完全版』74ページ)。この夢はよほど特殊だったと見えて、1981年に見たものをネーム原稿化している。このネーム原稿こそが「津波漫画の本編」とでも言えるものなのではないかと思われる。しかし、寒気と吐き気に襲われてペン入れ出来なかった(『完全版』44ページ)。しかし96年には年の功でペン入れ出来た(『完全版』45ページ)。それが、その他の夢も集めた『私が見た未来』である。

津波の夢は何度も見ているのだが、つい最近2021年7月5日にも同じ夢を見たという。そこで津波が起こるのは2025年7月だと知らされる。そこで、2011年3月は予知夢の津波ではなかった。1999年、単行本の締め切り日(3月11日とは書いてない)で、表紙を書いた日に夢で2011年3月が大災害と出たらしい。大災害が何のことなのか、そのとき本人は知らなかった。

予知夢が的中しても、著者はずっと沈黙を守り続けた。著者は津波の漫画と「2011年3月」を書いたが、相互関係が分からなかったからである。『私が見た未来』では1996年夏とだけある。雑誌掲載が1996年で「結果はもうすぐ分かるから」という一言で締めくくられている。

『完全版』は、偽物が現れて何かと主張しだしたことで、絶版になって10万円以上の値がついている本書を復刻しようという動きがあり、出版社が偽物とコンタクトしていく過程で、偽物が嘘を隠しきれなくなったので、晴れてご本人登場となり、つい最近10月2日に出版に至ったとのこと。本来は7月に出す予定だった。

しかも、2025年7月の夢は本物が見つかった後2021年7月5日に見られており、本書にこの予知夢が描かれたのは、もっと早かった出版予定が10月にズレ込んだおかげである。不幸中の幸いというやつである。

『完全版』は2021年10月2日に出版された。短編『夢のメッセージ』、『私が見た未来』、解説、夢日記そのものの画像、ネーム原稿などが加えられており、これが本書の主要な目玉コンテンツである。そのほかに、単行本にならなかった1983年から1997年までの短編作品が掲載されている。


私が『完全版』の復刻を知り、読み、分析し始めた時

『私が見た未来』の存在は以前から知っていた。たぶん、去年ごろネット上で話題になっていたのだろう。だが、絶版で入手できなかった。今回、再販の計画があることは全く知らないことだった。そこで、10月2日ではなく、amazonの売れ筋ランキング1位になっていた本書を目にとめた11月4日に、喜んで注文した。そして来たのが11月5日。そこから本書を1日で読んだが、判然としない点や、ネットに錯綜する偽情報を明らかにするために、精査する気になった。そこで今、2度3度と見返して何がどうなったのか検討しているのだ。つまり、この書を私が読んだのは11月5日で、この記事が書かれたのはそのわずか3~4日後でしかない。そして分析しながらも同時進行で書いている。私が走りながら書いているのは、最重要事項に私は気づいたのであるが、単なる有能さのアピールである。おちおちしていると誰かがすぐ書いてしまうだろう。

私が最初に気づいた点

この書は、夢の断片を継ぎはぎで「ここはこうなのか?」とパズルのように推論でつなげていく作業をすることで、理解が深まる面白い一面を持っている。

1981年のネーム原稿は、もっとも重要な津波の描写があるが、東日本大震災の以前に、津波の前にすさまじい引き潮があることを知っている人が何人いただろうか?私は、単に大きな波が来るだけと思っていた。漫画日本昔話に、『みちびき地蔵』というのがあって、引き潮が凄いという描写があるのだが、それがフェイクかどうか分かる人がどれだけいただろうか。ほとんど知ってはいまい(『みちびき地蔵』はYoutubeで見れるようだ)。

著者は夢でそれを悟った段階でリアルである。

私はずっと感心しながら読んでいたのだが、矛盾のある描写に出会った。それは77ページで、東日本大震災の3倍はあろうかという大津波が押し寄せてから、「ハデス!」という声が聞こえて、著者は室内で気絶しているシーンである。室内が水で湿気ていた。浸水したのだろう。

これだけでは判然としないので、ペン入れのある46ページを見てみよう。著者が気が付いた時、窓の上の方まで濡れているのが分かる。つまり、この部屋は水没したのだ。

東日本大震災で分かる通り、「潮はすぐ引くから」(86ページ中ほど)と言っても5分や10分で引くものではない。5分や10分水没した部屋の中に閉じ込められて生きているのは矛盾である。

脱出説はある。東日本大震災の津波の高さが最大40mで、その3倍(82ページ)の120mの津波が来たとき、窓は外の水圧で開かない。玄関もだ。その時、玄関や窓の隙間、または通気口などから海水はどんどん入ってくる。窓が完全に水没した時、室内と外の水圧は均等になって窓は容易に開けるようになる。窓が水没しても、窓と天井の間にはまだ数十センチの隙間があるから、空気を吸いながら窓を開けて脱出することは可能である。

あるいは、窓は水圧で割れるかもしれない。本書にその描写はないが、ブドウがビワだった(39ページ)程度の誤差である。

もっとも、外に出たところで水深100mもあったら水圧で、ダイバー以外は死ぬかもしれない。ただ、著者の周りの波の高さが必ずしも120mとは限らないが。

だが著者は脱出していない。部屋の中で意識が戻っている。ということは、著者はずっと部屋の中にいたのだ。水没した部屋の中にいて、生き残るすべは、ヨガを極めた数十分息を止めることが出来る者にしか不可能だ。どうして彼女は脱出しなかったのか。たぶん、窓を開けようとして水圧で開かなかった時、諦めたのだろう。2025年では70代になっているから、気力もないのかもしれない。

ということは、著者はあの時、死んだのだ。目覚めたのちは死後の世界だったのだ。

全てのつじつまがこれで合う。

まず「ハデス!」は死後の世界に移行した合図である。「バルス!」みたいな感じか。

どうして生き残った人がまばらで、誰もかれも疲れたような感じだったのか?

それは幽現界(あの世とこの世が折り重なっている部分、幽界最下層)に残る亡者だからだ。亡者は何が起きているのか判然としていない。だから意志薄弱で疲れたように見えるのだ。そこで彼らには自分が死んだことを教え、成仏させる必要がある。著者も亡者の一人だ。

「大災難後の世界」(89ぺージ)にも矛盾がある。特に下の絵は、ミレーの『落穂ひろい』みたいな絵である。洗濯板で洗濯物を洗い、スコップで農作業をしている。幸福の世界だそうだ。いくら太平洋側が壊滅しようとも、文明が中世に戻ることはない。彼女は夢を象徴的なものと捉えているが、私の見立ては違う。引き潮だとか、洞窟だとか、あまりにもリアルに出来過ぎている。だから予知夢の信憑性も上がろうということだ。特に、彼女が知らないはずの、彼女の描いた太平洋の龍とその糞が、太平洋海底の地形と一致したことは、象徴というより現実を見たと言った方が良い。

そして、それまでの生き方が殺戮(欲望とか)ばかりだった者は、荒れ果てた土地にポツンといて、どうすることも出来ないという。

この2極化は現実にはあり得ないことで、ニューエイジが謳うアセンションの世界である。

じゃあ、どういうことか?

著者は津波で死んだと捉えれば、スピリチュアル系思想に強い者には読解が容易である。著者が死んだあと(正確には魂が生き返ったということだが)、幽界(死後の世界)の中で、自分の心が最も適する境涯に赴く。自分の心に邪悪なものがある人は邪悪な世界に行くし、魂が鍛えられ浄化された人は明るい、心豊かな世界に行く。このページはただ単にそういう死後の世界を見ただけである。彼女の天国が、たまたま『落穂ひろい』のような環境だったため、それが夢に出て来たのだ。

彼女はあとがきで、津波の正確な日時は2025年7月5日であると言っている。とすると、7月15日に葬儀が行われるので、その間10日ある。けっこう遅いが、この時、関東の道は瓦礫でふさがっており、膨大な量の堆積物を脇に寄せないと道を通れない。そこで、神奈川の彼女の自宅まで到達するのに、10日はかなり早い。

自分が死んだことに気づかないというのは、デジャヴでもある。それは127ページだ。列車事故に巻き込まれた主人公はずっと駅の周りを20年走り続けている。著者はこの概念を知っていた。創作かもしれないが、イメージの再来というやつだ。

だから、本当はあのシーンで著者は死んでいることを、本人は分かっているのかもしれない。もっとも、幽界に行くのは列車事故の少女とは違い、もっと早く、ミレーの『落穂ひろい』の世界に行く。

どうだ、これで相当曖昧な何かが解消されて、腑に落ちるようになっただろう。特にスピリチュアル、オカルト関係に造詣の深い人間には目から鱗の補完解説になるはずである。


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