小角コーポレーション 35

35
 エリザベートが電車に乗っていると、20代くらいの男二人が大きな声で話していた。
「40過ぎたらばばあやろ」
 男二人の立っている前の席に座っていた40前の女の人の肩がぴくんと震えていた。
 女の人の横に座っていたエリザベートは言った。
「電車で大声でばばあやろとか本当にお子様。バレンタインデーにそんなこと言っていると女の子近付いて来ないわねえ」
 男は呆気にとられてエリザベートを見た。
「どうせひまそうな知り合いとかそのスマホで漁って眺めて笑っているしかできないんでしょ?顔が良くても心は醜いわね、ぼくちん」
 男は黙った。
「おばさんで悪かったわね。あんたたちもそのうちおっさんになってじじいになるのよ。そんな風に人を笑っているうちに年を取るのよ」
 女の人がそう言って男二人を睨み上げた。
「めんどくせえなあ、ほんまに」
 男二人はそう言って電車を降りて行った。
 エリザベートは女の人の肩をそっと手で覆い、笑顔で言った。
「あのお子様たち、冷酷に人を食べて生きて行くのよきっと。そんな人たちしか見てこなかったんだわ…」
 女の人は軽く首を横に振りながら泣いていた。
 そして静かに女の人はこう言った。
「乱暴なことを言う人って悲しい暮らしをしてるんですよ。きっとわたしもそういう暮らしをしてるんですよ。理不尽というものを浄化するには許すしかないのかもしれない。」
 女の人は静かにそう言った。