小角コーポレーション 34
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廣足専務と克哉がなんばを歩いていると、五十歳ぐらいのおばちゃんがベンチに座って宙を見つめていた。
「わたしが生きてるのんが悪いんやろ!そう言いや!わたしが生きてるのんが悪いんやろ!」
おばちゃんは誰に向かってか、世の中の全ての人に向かってか、泣きながらそう叫んでいた。
克哉は泣き叫ぶおばちゃんをみて、ここまで追い詰められていない自分をラッキーと思う自分を見つけて少し淀んだ気持ちになった。
「専務…あれって」
「たぶんそうやろな」
廣足専務はおばちゃんの横に黙って座り、言った。
「わちなんかなあ!結婚詐欺におうて、そのあと知りおうただんな事故で死んだわ!わちなにしたんいうねん?」
おばちゃんは黙って廣足専務を見つめていた。
「生きてていかんて、おばちゃんに誰が言うたか知らんけどな、わちがおばちゃんに言うたるわ、おばちゃんはそんまんまでええがな」
「…」
「おばちゃん、飲みにいかへんか?」
廣足専務は克哉に軽く手を振って、おばさんを促してうらなんばに消えて行った。