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絶望の1時間半。納得感のない手術。【CVポート留置術】

「癌です」と言われても泣かなかった私が、泣いた。
人目も気にせず、ぐじゃぐじゃに泣いた。
病棟の廊下でも、外来の廊下でも、CT室でも。

癌が発覚して1番泣いたその日は、抗がん剤治療に必要なCVポートという器具を体に埋め込む手術の日だった。
上記した様に、私は「癌です」って言われても、
「なんで自分なんだ・・・。」
と思うこともただの一度もなく、悲しいと思ったこともなかった。癌になってからこんなに泣いたのは今回が初めてだった。


CVポートとはなんなのか?

手術の話をする前にCVポートとはなんなのかを軽く説明したい。

CVポートは血管内にお薬を長期間注入する場合に用いられリザーバーと呼ばれることもあります。主に抗癌剤治療を実施する化学療法や長期間の高カロリー輸液の投与などに用いられます。
CVポートは直径2~3cmの小型円盤状のタンクとカテーテルと呼ばれるチューブから出来ています。ポートの中心にはセプタムと呼ばれる圧縮されたシリコーンゴムがあり、そこにヒューバー針もしくはフーバー針と呼ばれる専用の針を刺しお薬を流すことによってタンクを通って接続されているカテーテルへとお薬が流れる仕組みになっています。

(株)メディコン 化学療法サポートHP
CVポートの図、私の場合はこのイラストのように鎖骨下に埋め込んだ(出典:(株)メディコン 化学療法サポートHP)

最大限簡単にいうと治療を楽に安全に進めるための器具を一時的に体の中に埋め込むというのものだ。
そしてこれの仲間がCVカテーテル(中心静脈カテーテル)といい、私は当初これで治療をしていた。これは身体の中に埋め込むタイプではなく、入退院のたびに逐一カテーテルを挿入するタイプだ。手術をして埋め込むなんてことはないが、感染症のリスクや血栓ができてしまうなど厳重な管理が必要になる。私の場合は搬送時、上大静脈症候群の症状があり、通常よく使用される首や鎖骨付近からの挿入ができず、鼠蹊部(足の付け根)に挿入してもらっていた。閉塞のアラームも良く鳴る(足のつけねなので足曲げたりすると点滴がうまく落ちずエラーになる状況)し、4クール目にはカテーテル入れていたところに血栓ができていて血液サラサラにする薬を飲むことになりました。大変。

CVカテーテルの図、身体から管が生えてる感じになる(出典:(株)メディコン 化学療法サポートHP)

この前知識をなんとなくイメージして続きをどうぞ。


CVポート留置術

手術は順調に進んでいる。局所麻酔なのでもちろん意識はありあり。時たま、執刀医と会話をしながらの処置。ただ、麻酔をしているといっても、器具を皮膚の中に埋め込むから、引っ張ったり押し込んだりと思ったより大胆な手術。すごい痛くはないけど、皮膚が破れるんじゃないかと思うほどではあった。
手術は中盤に差し掛かったようで、先生も手技に集中していて、部屋がシーンとなり、器具の音や先生たちの手術に関する会話だけが響くようになった。
その時、私の心の後ろに隠れていた恐怖心がドバッと前に出てきて一気に怖くなった。
手術でよくみる青色の衛生シート?が顔もかけられているから、その隙間さら見える唯一の手術室の壁をぼーっと眺めながら、私は思ってしまった。

「やらなきゃよかった。」


1番最悪なことを思ってしまった。
もう手術は始まっているのに、だ。
私の鎖骨下は約4センチ切開されていて、その中にあんまりよく分かっていないCVポートという物体が入れられていて、今まさにジュゴゴゴと血を吸引する音が聞こえたところだった。どっからどう考えてももう遅いのに「やらなきゃよかった」という気持ちと共に出た涙は、一度出でしまったのでもう止まらなくなってしまった。私はそこから永遠に泣き続けた。
手術は無事終わり。執刀していた女医さんが「痛かったよね、嫌だったよね。涙拭きたいよね、ごめんガーゼしかないけど綺麗だから」とガーゼをくれた。
その後、ここに座っててと言われたところで壁を見つめて病棟の担当看護師さんが迎えにきてくれるのを待つ。彼女は私を見て相当驚いていた。
私は病棟でいつも元気っ子キャラでやってるから何が起きたのかと聞いてきた。

「なんかポート埋め込むのかあんまり腑に落ちてなかった。今まで鼠蹊CVでいけてたし、ポートは通院の人とかが入れるイメージだったし、、」
そう泣きながら話した。
あんまりグチャグチャで帰るもんだから病棟で待ってる看護師さんたちも驚かせてしまったし、
夕方の回診では主治医にももっと詳しく説明したほうがよかったね、ごめんね、と謝罪させてしまった。

全ては私の納得感の少なさから

思えば、手術の同意書も何度か読み直していた。
明らかに納得していなかった。腑に落ちていなかった。
鼠蹊CVカテでやれてたのに、なんで今入れなきゃいけないのかと不思議だった。
でも、聞かなかった。聞けなかったんじゃなくて聞かなかった。
そういうものなんだろう、この病院のルールなんだろう、と思って無理やり飲み込んだ。

苦しいとか、痛いとか、怖いとかそういう時に
揺らいじゃうような納得感、決意じゃダメだね。
そう学んだ出来事だった。


ちゃんと全部話して、一緒に考えて納得してやらないと、
間違えて、誰かのせいにしちゃうかもしれない。
全ての結論は自己責任。私はそう思う。

先まわりしてここでもお礼述べておきます。ありがとう。Grazie mille!!