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触覚は「空間的な変化」と「時間的な変化」を組み合わせて感じとる

今日は『触楽入門 -はじめて世界に触れるときのように-』(著:テクタイル)から「髪の毛にさわってみよう。数ミクロンのちがいがわかるかな?」を読みました。

昨日は「身体の部位によって触力の強さが異なる」という話にふれました。ふれたものを感じる力の強さを「触力」といいますが、その力の強さを測定する方法には2種類あるのでした。

「二点弁別閾」という手法は、ある地点から2本の針で刺激を与えながら、やがて1点に感じる地点までの距離を測るものです。距離が短いほど感じる力が強いのです。もう一方の「感覚閾値」という方法は「何かがふれている」と感じる最小の力の強さを持って触力の強さを測るものです。

こうした測定法による実証結果の積み重ねにより、人間の触力は身体の部位によって異なることが示されました。

そして、コミュニケーションとの関係性においては、頬には「心地よさ」を感じる細胞(C繊維)が密度高く分布しており、「互いの頬をよせあう」というコミュニケーションが「心地よさ」に根ざした「自分は相手から大切にされている」という感情と結びついていることが紹介されていました。

今回は「視覚や聴覚と触覚はどのように異なるのか?」というテーマです。

髪の毛のキシキシした感じ

まず、著者は「髪の毛の手触り」という事例をとおして、人の触覚の鋭敏さを紹介しています。

 化粧品科学の研究では、髪の毛の毛触りを調べるため、ポリイミドと呼ばれる合成樹脂板上に微細加工を施し、キューティクル構造のモデルを作成しました。大きく分けて、①規則正しい溝(幅10ミクロン、深さ1ミクロン)と、②不規則な溝(ランダムに幅10〜30ミクロン、深さ1〜3ミクロン)という2種類の板をつくり、いろいろな人に触ってもらいました。すると、②の不規則なパターンのほうは、ギシギシ/キシキシとした、なんとも言えない不快な感じがすると答える人が多かったのです。

キューティクルとは毛髪表面にある「うろこ状の構造」です。著者によればキューティクルはわずか数ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリメートル)の波構造をしているのだそうです。

自分のことを振り返ってみても、髪の毛がギシギシ/キシキシと感じたことがあります。たとえば海辺で潮風に吹かれた後などでしょうか。

意識していませんでしたが、この数ミクロンの違いを自然と感じとっているのだと思うと触覚の繊細さを実感します。そして、その繊細さはどこから生まれてくるのかが気になってきます。

触覚は「空間的な変化」と「時間的な変化」を組み合わせて感じとる

著者は触覚の繊細さの源泉について、次のように紹介しています。

 でも、二点弁別閾による触力検査では、指先で2, 3mmという結果でした。触覚を感じる手の生体センサはどんなに細かくても数百ミクロン単位でしか散らばっていないのに、どうしてヒトは数十ミクロン単位のものを触り分けることができるのでしょうか。この現象を理解するためのヒントは、二点弁別閾を測る検査では、身体を静止させた状態で測定している、という点にあります。そう、私たちが実際にモノに触れるときには、手を押し付けるだけではなく、指を動かして、ある一定の時間をかけて触っています。

触覚の繊細さの源泉は「ふれ方」にあるようです。押し付けるようにふれるだけではなく、なぞったり、にぎったりもしている。

押し付けるようにふれる感覚(圧覚)をつかさどるのはメルケル細胞です。振動刺激に敏感に反応するのは「マイスナー小体」と「パチニ小体」という2つの細胞で、なぞることで(わずか数ミクロンの違いでも)微細な振動を検知しているとのこと。

とてもおもしろいですね。触感は「素材の特徴」だけで決まるのではなく、「(主体的に)どのようにふれるか?」によって引き出され方が決まるということです。自分自身が触感を生み出しているとも言えそうです。

 このように触覚は、ほかの五感と比べて面白い特徴を持っています。視覚は空間的な把握を、聴覚は音の時間的変化の認知を得意としていますが、触覚は空間と時間の両方を組み合わせて情報を処理しているのです。

触覚は「空間的な変化」と「時間的な変化」の両方を組み合わせて世界を捉えている。「触感は実感を伴う感覚」と感じる理由がきっとそこにあるのだと思います。

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