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差別って海外の話でしょ? 実はどこでも起こりうる「人権侵害」のお話

私はちょっとでも手持ちぶさたになるとTwitterを眺めていて、信じられないほどの長時間をTwitterに費やしているが、先日「二丁目でクラスターが出たらカミングアウトしてない人にはキツいよね」のようなツイートを見て、韓国のことを思い出し、こうツイートした。

韓国のナイトクラブでクラスターが発生した時からずっとモヤってたんだけど「アウティングの危険性」もさることながら、それって「ゲイシーンにいる人はほぼ全員LGBT当事者」っていう先入観の現れだし、アライがこうも透明化されて存在しない扱いだと、どんどん世界から取り残される。

するとこんなリプライがついた。(プライバシーの観点から、ツイート文章を部分的に編集してお送りいたします。)

取り残されないための対策もないし、あってもみんな口だけで行動が伴わない。こんなんじゃ世界、変わらないよね。

ここからTwitter上で議論が広がり考える機会があったので、メモとしてここに記そうと思う。

人権意識と性犯罪

リプライをくださった方とやりとりをした中で「男女どちらかしか入れないお店や、ストレートの人を排除したがる人や店について、人権意識的にはどう見られるのか?」というものがあった。そこで私はいつも自分が海外からのゲストに説明することを思い出しながら(かなりはしょったが)説明した。

「人種、出自、宗教、性別などを理由に、他人を排除する」行為は人権侵害である。それを踏まえた上で、ではなぜ日本には「レズビアンバー」と称して男性の入店を拒否するお店や「ゲイバー」と称して女性の入店を拒否するお店があるのか。その根底には、性犯罪の横行がある。ここではまず、女性向けの店舗について話そう。

「女性向け」を謳うお店に意気揚々と入ってきて、痴漢行為(相手の許可なく体を触る)迷惑行為(しつこいナンパや絡み酒)を平然と行うシスヘテ男性(「多くの人は、知らないうちに「差別」をしている」参照)が、少ないとは言えない数存在する。「あたいゲイだから安全よ〜」とか「今はこう見えても元は女だったんすよ〜笑」と嘘をついて入店しようとする輩もいる。ゲイのフリかどうかなんてちょっと話せばすぐバレるし、元々女性だったからといって(これも嘘の場合がある)今男性なのであれば女性しか入店できないお店に入れないことくらい分かるだろ… という呆れてものも言えないような愚行をおかすアホ共が腐る程存在する。(実際に目の前で見て、呆れて物が言えなかった)(元女性、元男性については「知ってるようで知らない。「トランスジェンダー」とは何か」参照)

これを海外からのゲストに説明するとき、私は毎回恥いるような気持ちで渋々説明する。なぜなら私は心底「私の生まれた国がこんな状態だなんて、恥ずかしくて隠しておきたい」と思うからだ。特にほとんどの女性ゲストは、この話をするとかなり直接的に不快感を表して「日本がそんな状態だなんて知らなかった… 同じことを私の国でやったら袋叩きだよ」と言う。

本来、ジェンダーを理由に誰かの入店を拒否する行為は、先ほどの「人種、出自、宗教、性別などを理由に、他人を排除する」行為に当てはまり、ストレートに人権侵害だ。がしかし、この性犯罪大国ヘルジャパンにおいて、女性が自衛するには限界がある。二人きりで食事に行ったら性的合意。二人でお酒を飲んだら性的合意。目があったら性的合意、くらいのカジュアルさで性的合意があったと主張するクソヤロウどものせいで、女性の行動が制限されるなんてまっぴらごめんだ。そこで一番角が立たない解決法として短絡的に「会員制」「女性オンリー」としているバーやイベントも少なくないだろう。

しかし、世界的基準でみるとこの状況はシンプルに地獄でしかない。私はAirbnbで「新宿二丁目はしご酒」というツアーをしているツアーガイドであるが、Airbnb上で提供するツアーの種類を増やそうと、ウーマンオンリーイベントを開催しているオーガナイザーに写真提供をお願いし、それぞれのイベントにゲストを連れて行くツアーの登録を試みた。すると「残念ながら、体験のご提案内容がAirbnbの基準を満たさないとの判断に至りました。」と、登録をリジェクトされてしまった。しかし、少し考えてみれば当たり前なのだ。なぜなら「ジェンダーを理由に入場を断る」のは、何度でも言うが、まんま差別的で人権侵害だから。


InclusiveとExclusive

特に米国では(他の諸外国についての知識は曖昧なので、ここでは割愛したい)「インクルーシブ(Inclusive)な世界」を目指して動いている。インクルーシブとは、辞書を一部抜粋すると「〔組織や会議などへの参加が〕一部の人の制限しない、開放的な、いろいろな人が参加できる」という意味で、誰もが排除されない、誰しもが参加している社会を指している。そして、その対義語が「エクスクルーシブ(Exclusive)」。日本で使われるニュアンスだと「限定的」「一部の選ばれし民が参加できるイベント」「高級な」というイメージなのだが、こちらも辞書を一部抜粋すると「締め出す、中に入れない、排外的な、排他的な」となる。

なぜいきなり英語のレッスンになったかというと、この「エクスクルーシブ」を突き詰めた結果が、今の新宿二丁目の文化に現れている気がしてならないからだ。

海外から私が耳にする話は、「レズビアンバーだったのに、男が入れるようになって不愉快」という側面もありつつ、「誰しもが何か、本人が選べないこと(人種、出自、宗教、性別など)を理由に入れるか入れないかを決められることがない」ということの大切さが重んじて語られることの方が、圧倒的に多い。それは「インクルーシブ」な思想が浸透している証拠だ。反して日本では「身内ノリ」的な空気が重んじられる傾向にあり、ヨソ者がそこに入ってくることを嫌うことが多いように感じられる。

先日、水原希子さんのSNSが炎上していたのを目にしたので、少しコメントを覗いてみたところ、信じられないような差別的発言がわんさか出てきて、気分が悪くなりすぐに見るのをやめた。彼女の出自についてこうも口汚く罵れるということも驚きだったが、なぜそのような発言をしてもアカウントが凍結されないのかも不思議だ。(捨てアカウントを使っている人がほとんどのようで、凍結されてもあまり意味がないかもしれないが。)彼らの罵詈雑言は、典型的な「エクスクルーシブ」的発想からくるものだった。


日本に差別は存在しない? 

いや、大いに存在する(無駄な倒置法)。これはまごうことなき事実だ。「日本に差別は存在しない」と言っている人たちは、選択的にそれを見ようとしていないだけ。両親が外国人だったら? 肌の色が他の人と違ったら? 移民だったら? 新興宗教に入っていたら? 性的マイノリティだったら? 身体的に障害があったら? 肌の色が黒いだけで、子供の頃学校の同級生に「お前日本人じゃないだろ」と石を投げられたことがある。親が韓国人とアメリカ人というだけで「日本人面するな」「そう言われるのが嫌なら日本から出ていけ」と言われる。女性として生まれてきただけで、入試で点を差っ引かれる。私が実際に目にしたことがないだけで、この手の話はいくらでもある。そして「私が目にしたことがない」ことは「それが存在しない」こととはイコールではない。

現在、各国でBLM運動(Black Lives Matter)が起こっており、日本でもデモが開催された。SNS上では「なんで日本でやるの? 意味なくない?」「個人的には黒人に対して何もどうも思わない」といった、完全に「日本関係ないじゃん」意見が飛び交っていた。じゃあ日本に住んでる黒人の人たちは? あの運動にあそこまで火がついたのは、歴史的背景があるからだ。どこに住んでいる誰であっても、どこかで差別が起こっていたら「うちら関係ないし〜」では済まない、非常に根の深い問題で、実はそれは私たちの日々の生活にだって影響があることだ。実感がない人が多いかもしれないが… 例えば、選択的夫婦別氏の婚姻関係を結ぼうとしたとしよう。ところがどっこい、日本にはその制度が無い。日本はまだ男女でしか婚姻できないが、なんと、男性が女性側の姓に変更するヘテロセクシャルのカップルは全体の約5%にも満たない(2020年現在)。ということは、姓を変更する手続き(鬼クソ煩雑で死ぬほど面倒)は、95%以上の女性が担っていることになる。

アジア圏内では2020年現在、台湾でしか同性婚が合法化されていない。異性カップルが婚姻関係を結ぶ時には無料なのに、日本で同性カップルと婚姻同様の契約を結ぼうとすると、(割愛するが)司法書士を雇ったりなんだりで、何十万円もお金がかかったりする。どうしてセクシャリティが違うだけで、余分な手間やお金がかかるのか? それって不平等じゃない???

「自分は結婚とかしないし〜関係ない〜」と思われる方もおろう。いいえ。そういう様々な理不尽や不自然な偏りが、実は差別を生み出す一因なのだ。「法律で許されてないから、尊重しなくていい」と思う人もいるくらいだ。特定の人種や性別に得をさせたくないから、権利を与えないという歴史もある。そのような史実が、特定の人たちの人権を奪い続けてきていることから、目をそらしてはいけない。


最後に

私は「差別いくない!」みたいな話をしたいわけではない。なぜなら、人間誰しもが何かしら差別意識があると思っているからだ。私が言いたいのは「もしも心の中に少し差別意識があったとして、それを表現すること」の危険性だ。人権意識と性犯罪と差別は非常に密接に関わっている。差別をするということは、誰かの権利を奪うことでもあり、ひいてはその被害を被るのが自分になる可能性を秘めている。「人権意識をもつ」ことは、長い目で見れば自分を守ることに繋がる。

もしも、差別的な発言をしてしまったら。それを誰かに指摘されたら。学んで、真摯に謝罪すればいい。誰にでも間違いはあるし、モノを知らないことは罪ではない。それについて自分がどう思っていようが、実はそう問題ではない。住むところが変われば文化も変わる。生きてきた環境で考え方も違う。そこで「私はそれについて知りませんでした。あなたの状況と気持ちを尊重できず、申し訳ない。今後は気をつけます。」と言えるかどうか。

そこが「人権意識」の鍵につながるのではないかと信じている。


(豆林檎)


<参考・引用文献>

Black Lives Matter

新宿二丁目はしご酒ツアー

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