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三度、バアバに間違われた話

(約2,000文字)

赤ん坊時代に


40歳過ぎてから子供を授かった。

慣れない育児と向いていない家事で、私は心身ともにすっかりやられていた。

増えた体重も全然戻らず、妊婦服をそのまま着ていた。赤ん坊がお腹から出たはずなのに、違和感はなかった。

果ては、有り得ない〜と揶揄していた歳八十になろうという母親の服を、お下がりとして有り難く着ているような状態だった。


子供がようやく歩き始めた頃、朝のお散歩に公園へと出かけた。
万年寝不足気味で、髪もぼさぼさ、どすっぴんでぼーとしていた。

しばらくして、子供は歩くのに飽きたのか私の両足に顔をうずめたので、よいしょっと抱きかかえた。

帰ろうね、と話しかけていると、穏やかそうな老夫婦が通りかかった。
赤ちゃんを連れていると、よくお年寄りに話しかけられる。

「可愛いわね」

と、奥さんが微笑みながら声をかけてくれた。

お世辞でも単純に嬉しいものだ。私は微笑んで会釈した。


「おばあちゃん似かな?」

と、ご主人が言った。


???

え、知り合いだっけ?私の母を知っているの?それともお義母さん?


訳が分からずフリーズしてしまった。


そして、ヤバイと焦っている奥さんの表情を見て、すべてを察した。


え、ワタシが「おばあちゃん」てこと!


その瞬間、体温が一気に上昇、
頬は紅潮し、瞳孔はガッと開き、仁王立ち
となった。


そんな私を見るや、奥さんはノホホンとしているご主人の腕をひっぱり、
さぁーと風のごとく去っていった

一瞬殺意を発してしまったが(悪いけど)、すぐに私は風船がしぼんだようになった。


そうだよなぁ。まともに鏡も見ない生活だもん。

赤ん坊の重さがずしっと増したようだった。

ぽーっとしている我が子を見つめ、

「マーマ!」

と、いつもよりしっかりめに話しかけた。



幼稚園時代に


近くにある幼稚園に通えることになった。

毎日の送り迎えが始まる。
良識ある親として認識されたいと思ったが、自分に良識がないのでイメージが湧きづらい。

体重は増えたままだったので、ひとまず無難な地味色をふんわり着て、あっさりメイクとした。


初登園の日。

受け持ちの先生が、朝、門のところで子供を迎え入れてくれた。

優しそうな先生で良かった、と安堵していると、

「お迎えはおばあさまが?」

と聞かれた。


え、うちの母?


そんなに遠くではないが、別に暮らしている。当時、自分の仕事は控えていたので、お迎えを頼む必要もなかった。

???


戸惑っている私を見て、先生ははっとした。

「お、お母様ですね。お迎えは、お母様ということで、、、」

うろたえる先生を見て、やっと事態が飲み込めた。

私が「おばあさま」なんだ!

「は、はい。お願いいたします」

なんとか冷静さを装い、やっとこさ頭を下げた。

ん?なんだかこんなこと前にあったような、、、 




小学校時代に


小学校入学後すぐ、最初の授業参観があった。

2度あることは3度、、、。

同じ轍は踏めない。


髪を漆黒に染め、きっちりと後ろにまとめ上げると、伊達眼鏡をかけ全身ダークな色合いでコーディネートした。

この頃、仕事がハード過ぎて体重も激減していた。
これでどこから見てもクールかつ教育熱心な母親だ!

気合いと顔を引き締め教室に入ると、子供が私を見つけて嬉しそうに手を振った。小さく手を振り返す。同級生と楽しそうにしている。お友達もできているようで、安心した。

担任の先生、同級生のご父母の方々ともご挨拶し、何も言われることなく無事に終わった。

大丈夫だった、、、

家に戻り心の底からホッと安堵した。

今日のコーヒー、インスタントなのになぜだか美味しい!

いろいろ心配し過ぎちゃったかな。

もう、以前の自分に戻ったのだ、と思った。


やがて子供が学校から帰ってきた。
そして開口一番、直球をぶっ込んできた。


「○○ちゃんにね、ママのことおばあちゃんじゃないの?って言われたー」


へ?


カップを落としそうになった。

ウ、ウソ!

私、やっぱりおばあちゃん!?

認めたくなかった現実を突きつけられ、私は狼狽えた

そんな母の様子に気づくこともなく、子供が続けた。

「それでね、違うよ、ママだよ、て言ったー」

ヘラヘラ笑いながら、友達の勘違いというか率直な感想を面白がっている。

その瞬間、

ま、いっかと思った。


正直、自分がどう言われても、面の皮もそれなりに厚くなっているので、そうそうあとまで引きずることもないし、もう三回目だし、、、。

私が一番恐れていたことは、子供が傷つくことだった。

もしかしたら、今後、認識も変わってくるかもしれないが、、、
見た目から母を恥じるような子ではなかった。(今のところ)

それに、これだけ老若男女に言われたのだから、あえて口に出さないだけで、、、

あの子のおばあちゃんとして周りは見ているという事なのだ!



もう、性別を超えなきゃいいや。

おじいちゃんと、言われたら泣くことにしようと心に決めた。

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