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『mr.&mrs.スミス』イケてないスパイの最高にスタイリッシュなドラマ(ネタばれなし)


(約2,300文字)

2005年公開の映画版は、お互いスパイとは知らない夫婦の仲がこじれて殺し合うという内容だった。

一番輝いていた「ブラビとアンジー」を観るだけの映画だったともいえる。

それ以外、特に覚えていないからだ。

大ヒットしたので続編も期待された。

皮肉なことに実生活においても場外乱闘を繰り広げることになった二人では、撮ることが出来なかったのだが、、、。



2024年2月、Amazonプライムからドラマ版『mr.&mrs.スミス』が配信された。

スパイ物といえば

スーツでビシッと決めた白人にセクシードレスの美女が足を絡ませ、、、

という定番のイメージがいまだにある。

だがドラマ版のビジュアルは、、、

まったくイケてない。

アフリカ系&日系アメリカ人で

二人ともヨレッてる。

ポージングも微妙、、、


逆にピンときた。

面白いかも!

男女ペアのスパイ物は世にあふれているが、こんなにイケてないビジュアルということは、

よっぽどストーリーに自信があるのでは?と心躍ったのだ。


昨今、どれほど大作、話題作と謳われていても、初っ端数分でつまらねーとドラマも映画も止めちゃうことが多い。
アラフィフ街道まっしぐらで感受性が鈍ってきているせいだろうか。

このドラマ版に限っては、仕事の合間も非常に気になり、、、

最後の8話まで見終え、結論としては、、、

すっごく面白かった!!


任務のために初対面の男女が結婚生活を共にするという若干の違いだけで「スパイの夫婦喧嘩」というテーマは変わらない。

詳細が明かされることなく、指示だけが淡々と下されるなか、様々なトラブルが降りかかっても、機転と根性でなんとか任務を遂行する太郎と花子みたいな偽名のジョンとジェーン。

あくまでビジネスとして表向きの夫婦を提案するジェーンに対し、距離を縮めようとアプローチしてくるジョン。

最初はこんな具合に二人の関係は始まっていくのだが、、、

危機に陥ったジェーンを超絶アクロバティックな技でジョンが救うような展開は一切ない。

ジョンは、臨機応変に。

ジェーンは、計画的に。


性格もルーツも習慣も違うが、仕事となれば、共にプロに徹する。

でも、全くの冷血人間でもない。

それどころが人間臭くて、スパイ=クールというイメージを打ち壊している。

そして、毎回任務が成功するとも限らない。
その度、見苦しい痴話喧嘩を繰り広げたりする。


夫婦喧嘩は犬も食わない
と言うが、、、

男女がケンカを始めれば、途端に周りの誰もが神妙な顔つきで

聞き入る

のではないだろうか?
(私は断然、聞く派です)


このドラマがチープに陥らないのには、よく練られた脚本と俳優陣の確かな演技力があってこそである。

ジョン役はマルチな才人ドナルド・グローヴァー。

チャイルディッシュ・ガンビーノのクレジットでミュージシャンとしても活躍している。

※ショッキングな映像を含みます。


リアーナと共演した『Guava Island』(2019)も美しい作品だ。


ドナルド・グローヴァーは、『mr.&mrs.スミス』のプロデューサーでもあるのだが、今回はジェーン役の日系俳優マヤ・アースキンについてあえて書きたい。

マヤ・アースキン


従順で大人しく、主張しない日本女性という従来のイメージを綺麗さっぱり粉砕し、落ち着いた見た目に反して、

すごいジェーンを
見せてくれる。


一見スパイ?と思われるややぽっちゃり容姿にも関わらず、第一声を聞いた時から彼女の知性に期待値が爆上がりした。

そもそも女性工作員全てが、セクシーにバンバン銃をぶっ放すニキータなはずはない。

むしろ目立たず、あらゆる状況に対応できるオールマイティーなタイプの方が実践的だ。

マヤ・アースキンはそんな身近に潜んでいるかもしれないスパイを知的かつユーモラス、時にバイオレンスに、時に粘り強く熱演している。

事前情報なしの方がマヤの演じるジェーンを楽しめるので、これ以上詳細は書かないでおこう。

一見、穏やかそう、、、


安直にビジュアル重視なキャスティングにしなかったのは、製作陣の戦略だろう。(余談だが、ミステリアスな雰囲気を纏うポール・ダノを贅沢に使っていて、ニヤっとしてしまう)

かといって華やかさの対極を目指しているわけではなく、全編通して、スタイリッシュな仕上りなのだ。

なんといっても彼らの交わす会話そのものが、駆け引きに溢れ、深く興味深い。

そして、撮影で使われた邸宅・レストラン・ホテルが、どこもかしこもクールの一言に尽きる。


ジョンとジェーンが「クライアント」から与えられているニューヨークの邸宅が、特にすごい



表面的な金ピカゴージャスな造りでもなく、無機質なモノクロ一辺倒でもない。

落ち着いた色調と静謐さに溢れた邸宅には、一貫したフィロソフィーが漂っている。


こんなセンスの良い邸宅を用意するクライアントに一種不気味な怖さを感じさせ、製作側の意図としては大成功だろう。

ターゲットの住む家もまた、それぞれお洒落で素敵なので、ストーリーを追いかけつつ気になってしまう。

そして、全編に静かに流れる音楽が、ドラマに謎めいた雰囲気を与え、単純なアクションものとは一線を画している。


まとめ


『mr.&mrs. スミス』ドラマ版はスパイものだが、コメディでもあり、軸足はあくまで二人の結婚生活にある。

という訳で私が10代だったらきっと半分も楽しめないかもしれない。

善悪を語る話ではないし、家族向けでもない。

複雑な人間関係もなく、至ってシンプル。


パートナーと観るのももちろんアリだが、、、
私は一人でじっくり堪能したので、遠慮なく楽しめたのだと思う。

同年代の友達と観ても、キャッキャっと騒げそうだ。


あくまでアラフィフ日本女性の感想である。
共感を得る部分が見る人により異なることはご理解いただきたい。


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