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SHORT STORY

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2018年2月の記事一覧

リトル・ドラゴン①

リトル・ドラゴン①

「リトル・ドラゴン」

1.「2167年のGOD ONLY KNOWS」

そこはまだ名前も無い暗い海の底のようだった。

僕はもう何時間も、たった一人でこの真っ黒な宇宙空間を飛んでいた。いくら人見知りの僕だって、こんなに小さな宇宙船に乗っているとさすがに寂しさにおそわれる。だけど、そんな時はビーチボーイズのgod only knowsという歌を口ずさむ事にしていた。

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リトル・ドラゴン②

リトル・ドラゴン②

2.火星とジーンズのポケット

「この世界をカタチ作っているのは全て周波数なんだよ。別の言い方をすれば、存在する全ての物を周波数で表現できるってことだ。そうだろう?」
マルコは前を歩きながら言った。
「うん、まあ分かるよ。確かに色や重さや距離や、ありとあらゆるものが周波数で表せるよね。」

「そう。で、ここからが重要なんだけど。君たち地球人が認識している周波数以外にもいくつか他の周波数が

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リトル・ドラゴン③

リトル・ドラゴン③

3.「27km」

火星は地球の4分の1程の表面積で、とても希薄な大気に包まれた星だった。巨大な岩石によって形成され、表面は赤い酸化鉄の砂で覆われていた。

船外作業用のスペーススーツを着ている限り、気温を感じる事は出来なかったが、太陽からより遠い分、地球と比べて70度近く低いはずだった。

また、その軽い重力の為に、普通に歩く事は困難で、人が火星で作業する際は、ぴょんぴょんと跳ねるよ

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リトル・ドラゴン④

リトル・ドラゴン④

4.「犬は吠えるが キャラバンは進む」

洞窟の中を歩いていくと少しずつ重力が加わってくるのを感じた。地球にいる時は何とも思わなかったそれが、今は重苦しくこの全身にのしかかった。それに加えて、あたりの視界はとても悪く、時計すら持っていない為に、僕たちがどのくらい進んでいるのかを推し量る事は不可能だった。良くない事が起こる時は往々にしてそうであるように、奇跡的なまでにいくつかの状況が重なり合い、

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